ARMが挑む最後のフロンティア、車載マイコン市場は攻略できるのか:車載半導体(2/2 ページ)
スマートフォンやタブレット端末向けプロセッサ製品のアーキテクチャでほぼ独占的なシェアを築くとともに、汎用マイコンでも勢いを見せつけるARM。そのARMにとって最後のフロンティアと言えるのが、自動車の制御系システムに用いる車載マイコンである。
車載システムに変革の波
新井氏は、「安全性の観点では、自動車向け機能安全規格ISO 26262への対応力の高さもARMコアの魅力だ」と語る。ISO 26262で求められる、車載マイコンのプロセッサの冗長性について、2個のコアが互いの動作を監視するデュアルロックステップ方式と、監視専用のサブコアによってメインのプロセッサコアの動作を保証する方式がある(関連記事3)。同氏によれば、「両方の方式で製品が提供されているのはARMコアの車載マイコンだけだ」という。加えて、車載ソフトウェアの標準規格であるAUTOSARについても、「欧州での規格策定活動にも深くコミットしている」(同氏)として、対応力の高さを訴える。
新井氏は、「標準規格への準拠を求めるISO 26262とAUTOSARの登場で車載システムに変革が起こるだろう。さらに、自動車メーカーやティア1サプライヤは、多様化する世界市場の要求、複雑化する技術とサプライチェーンを効率よく管理するために、統合化、プラットフォーム化、モジュール化を進める姿勢を鮮明にしている。そこで必要になるのが、プロセッサアーキテクチャへの投資の効率化と、ノウハウや開発ツール、ソフトウェアの再利用性の向上、サプライチェーンのリスク低減だ。既に、車載情報機器に広く利用されているARMコアは、その中核を担うだけの力が十分にある。実際に、欧州市場では、プロセッサ製品をARMコアベースに統一しようという動きもある」と主張する。
直近はダッシュボードとADASに注力
ARMが車載マイコンの採用拡大で期待しているのが、ダッシュボードの車載システムだ。既に、ダッシュボード中央のヘッドユニットに入る車載情報機器にはCortex-Aシリーズが採用されている。この車載情報機器の次に採用を目指しているのが、ディスプレイメーターである。
ディスプレイメーターは、高度なユーザーインタフェースをディスプレイに表示するために、車載情報機器に匹敵するレベルの処理能力のプロセッサ製品が必要になる。その一方で、ドライバーの運転に必要不可欠な情報を示すシステムでもあるので、ISO 26262で規定される安全性要求レベルのASIL(A〜Dで規定され、Dが最も厳しい安全性が求められる)で、ASIL-B程度の安全性も求められるといわれている。新井氏は、「高い処理能力を持ち、ISO 26262への対応力も高いARMコアは、ディスプレイメーターに最適だとう」と見ている。
ディスプレイメーターとともに、先進運転支援システム(ADAS)も注力する車載システムの1つだ。最近になって、レーダーや車載カメラなどを使った衝突回避システムやクルーズコントロールの市場が拡大している。特に、「車載カメラで撮影した映像データを処理する際にはARMコアが力を発揮する」(同氏)として事業展開を急ぐ構えだ。
パワートレイン関連でも最近新たな動きが出ている。フランスのScaleo Chipが2012年7月に、低燃費の次世代エンジン、電気自動車やハイブリッド車の電動システム向けに「Cortex-R5」を搭載する「OLEA」という車載マイコンファミリを発表したのだ。OLEAは、フランスの公的機関であるOSEOが支援する開発プロジェクト「NextSTEP」に組み込まれている。新井氏は、「フランス政府が関わるプロジェクトなので、今後の動向に注目したい」と述べている。
車載マイコントップ3への信頼を積み上げる
ARMが車載マイコン市場の攻略を完遂するためには、車載マイコンのトップ3である、ルネサス、フリースケール、インフィニオンからの採用が必要になる。
まず、汎用マイコンでCortex-M4を採用しているフリースケールは、ディスプレイメーター向けに「Cortex-A5」とCortex-M4を搭載する「Vybrid」を発表している(関連記事4)。新井氏は、「制御系システムとの関わりが深いディスプレイメーター向けの製品にCortex-M4が搭載されたことは1つのきっかけになるのではないか」と期待している。
ルネサスについては、「産業機器向けのプロセッサ製品『RZシリーズ』にCortex-A9を採用してもらえたことが大きいと考えている。RZシリーズで信頼を得て、将来的に車載マイコンにもARMコアを採用してもらえるようにしたい」(同氏)という。インフィニオンも、「産業機器向けマイコンで既にARMコアを採用してもらっているので、ルネサスと同様に信頼を積み上げていく」(同氏)としている。
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