白熱する車載バッテリーモニターIC市場、量産採用決めたマキシムが展開を拡大へ:車載半導体(2/2 ページ)
電気自動車やハイブリッド車の大容量車載電池システムに用いられるバッテリーモニターIC市場では、現在多くのICベンダーがしのぎを削っている。そのうちの1社であるMaxim Integrated Products(マキシム)は、2013年以降に発売される量産車への製品採用を続々と決めている。
第3世代品では差動伝送方式を採用
現在、第3世代品として開発を進めているのが「MAX17823」である。MAX11068とは、ディジーチェーン接続の方式を、より高いノイズ耐性を有する差動伝送にした点が大きく異なる。具体的には、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)インタフェースを用いた独自の差動伝送方式を採用している。ディジーチェーン接続する接続線の長さは最大で3mとなっている。Majid氏は、「EVやHEVのインバータなどに隣接する車載電池システムは、インバータのスイッチング時などに発生するノイズの影響を受けやすい。そこで、差動伝送インタフェースを採用することで、高ノイズ環境でも利用できるようにした」と語る。MAX17823は、2013年第2四半期(4〜6月期)に量産出荷を始める予定。そして、2014年に発売される量産車に搭載される見込みだ。
バッテリーモニター回路における接続インタフェースの進化。左から、個別部品でバッテリーモニター回路を構成していたころに用いていたCANインタフェースによるパラレル接続、「MAX11068」のシングルエンドでのディジーチェーン接続、「MAX17823」の差動伝送方式のディジーチェーン接続となっている。(クリックで拡大) 出典:Maxim Integrated Products
MAX17823は、電圧の測定精度が±2mV以下とMAX11068よりも向上している。電池セル1個当たりの電圧測定時間も10μs(1秒間で100サンプルの測定が可能)と短い。電池セルのアナログ電圧をデジタル信号に変換するA-Dコンバータは、MAX11068から一貫して分解能12ビットの逐次比較方式を採用している。これは、電池セルの電圧を高速に測定できるようにするためだ。Majid氏は、「自動車メーカーは、大容量の車載電池システムを構成する数十〜100個以上の電池セルの電圧に関する情報を、できるだけ同期した状態で取得したいと考えている。そのために必要な高速のA-D変換を行うには、逐次比較方式が適している」と強調する。
さらに、MAX17823は、先述したMAX11080や、単独でもバッテリーモニターICとして利用可能な「MAX17880」といったコンパニオンチップと組み合わせれば、冗長動作が可能である。たとえ、MAX17823に何らかの問題が発生したとしても、MAX11080やMAX17880によって車載電池システムの機能を完全に停止させずに、修理を受けられる場所まで車両を走行させることができるのだ。MAX17823自身の自己診断機能がMAX17830よりもさらに進化していることを含めて、コンパニオンチップとの組み合わせによって、ISO 26262の最も高い安全性要求レベルであるASIL-Dへの準拠が可能になった。
実は、ISO 26262のASIL-Dが求められる車載システムは、電動パワーステアリングやエアバッグなどそれほど多くはない。しかし、過充電による爆発炎上の可能性がある車載電池システムは、この数少ないASIL-Dが求められるシステムの1つになっている。Majid氏は、「第三者認証機関であるTUV SUDと連携して、ASIL-D対応が可能な製品であるという認証を取得する準備を進めている」と述べる。
残容量を計算するアルゴリズムの提供も
マキシムの電池管理ICが広く採用されている、スマートフォンやノートPC、ゲーム機では、電池セルの残容量を正確に計算するアルゴリズム「ModelGauge」も用いられており、既に年間数十億円規模のビジネスになっている。これを、自動車向けに展開するために、自動車メーカーと検討を進めている。
この他、高電圧になる車載電池システムと車体側が絶縁できていることをチェックするためのデバイスも開発している。個別部品で構成されている車載電池システムの絶縁チェック回路をICとして集積したものだ。量産出荷時期は2013年第1四半期(1〜3月期)である。
加えて、産業機器やUPS(無停電電源装置)、電動自転車向けに、16個の電池セルの電圧監視が可能で、ディジーチェーン接続機能を省いたバッテリーモニターICを開発している。ディジーチェーン接続できないので、大容量の二次電池を搭載するEVやHEVでは使えないが、「使用する電池セルの数が少ないマイルドハイブリッドシステムであれば十分適用可能だ」(Majid氏)という。2013年第4四半期(10〜12月期)に量産出荷する計画だ。
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