SiC-MOSFETの課題克服へ、新材料を用いたゲート絶縁膜で信頼性を向上:パワー半導体 SiCデバイス(2/2 ページ)
SiC-MOSFETの量産採用に向けた課題の1つとして挙げられているのが、酸化シリコンを用いたゲート絶縁膜に起因する動作時の信頼性の低さだ。大阪大学と京都大学、ローム、東京エレクトロンは、AlON(アルミニウム酸窒化物)を用いたゲート絶縁膜によって、SiC-MOSFETの信頼性を高める技術を開発した。
新たなゲート絶縁膜材料を採用
このSiC-MOSFETのゲート絶縁膜に関する課題を克服する技術を、大阪大学大学院工学研究科助教の細井卓治氏、教授の渡辺平司氏、京都大学大学院工学研究科教授の木本恒暢氏、ローム、東京エレクトロンによる共同研究チームが開発した。
同技術では、SiC-MOSFETのゲート絶縁膜として、熱酸化法で成膜する酸化シリコンに替えて、デバイス性能と信頼性を高められるAlON(アルミニウム酸窒化物)を用いる。AlONのゲート絶縁膜は、動作時に印加される電界が4MV/cmと、酸化シリコンの半分に抑えられるので信頼性を確保しやすい。
ただし、Siデバイスで量産実績のある熱酸化法で成膜する酸化シリコンと比べて、新技術となるAlONの成膜プロセスには、解決すべき課題が3つ存在する。1つ目は、酸化シリコンよりも膜厚が厚くなるため、AlON膜を厚く均一に成膜できる必要があることだ。2つ目は、トランジスタ構造が簡素なプレーナ型だけでなく、立体的なトランジスタ構造によって高い性能が得られるトレンチ型にも適用できるように、CVD(化学気相成長)法での成膜が目標になっている点だ。3つ目の課題になるのが、AlONのゲート絶縁膜中に電気的欠陥(電荷トラップなど)が存在しないようにするための工夫である。
共同研究チームは、これらの課題を解決すべく、量産装置を用いた研究開発を行った。具体的には、大阪大学が取り組んできたSiC-MOSFET向けのAlONゲート絶縁膜に関する知見を基に、東京エレクトロンとの共同研究によって、膜質を最適化したAlONゲート絶縁膜を、トレンチ型のトランジスタ構造上へCVD法によって均一に形成できる技術を開発した。さらに、このAlONゲート絶縁膜を用いたトレンチ型SiC-MOSFETを、ロームと京都大学が共同で試作し、デバイス性能と長期信頼性の向上を確認した。
1つ目と2つ目の課題については、トレンチ型トランジスタ構造に用いられる凹凸のパターン付きSi基板を使ってAlONの成膜をCVD法で行い、凹凸の平面と側壁上に、ばらつき1%以下の膜厚でAlONを成膜できることを確認した。
3つ目の課題であるAlONのゲート絶縁膜中における電気的欠陥の低減は、AlONのベース材料となる酸化アルミニウム(Al2O3)との比較によって確認した。AlON膜は、成膜した酸化アルミニウムの膜中に窒素を添加して形成する。この窒素添加によって、膜中の電気的欠陥を反映するフラットバンド電圧を大幅に抑制できることを確認できた。また、窒素の組成が40%までであれば、膜中への窒素の添加を均一に行える。
3つの課題を克服可能な技術を適用した量産装置を使って、AlONのゲート絶縁膜を用いたトレンチ型SiC-MOSFETを試作したところ、酸化シリコンを用いたものと比べて、絶縁破壊耐圧が1.5倍に向上し、リーク電流量も90%低減できた。
今回のAlONを成膜する技術は、ゲート絶縁膜とSiC基板の間に界面層を挿入した積層構造を持つゲート構造にも展開できる。これによって、素子構造設計の自由度を高められるので、SiC-MOSFETのさらなる低損失化、信頼性向上にもつなげられるという。
なお同技術は、米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されている、半導体素子の国際学会「2010 IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM 2012)」で発表される予定だ。
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