第4回 Light PeakからThunderbolt:前田真一の最新実装技術あれこれ塾(3/3 ページ)
実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第4回は、新しいI/Oインタフェーステクノロジーとして注目されている「Thunderbolt」について紹介する。
4. 高速信号の問題点
信号が高速になると、基板の配線やケーブルなど、銅を信号が伝わる時に、いろいろと問題が出てきます。
論理ICの出力信号のような小電力で低速な信号が銅線や基板配線を伝播するとき、銅線は理想導体として考えられます。これは配線に対しては信号の遅延やインピーダンスは考える必要はなく、配線の影響は無視できるというものです(図7)。
信号が高速になり、基板上では数百KHzから数百MHzでは配線は無損失の伝送線路として扱います(図8)。
これは、信号配線は信号の周波数によらず一定の特性インピーダンスを持った配線として配線する必要があり、配線は遅延や波形歪を考慮する必要があるということです。
さらに信号が数百MHz以上では配線は損失のある伝送線路として扱う必要があります(図9)。
この減衰は配線の長さに比例するので、配線が長くなれば長くなるほど大きくなります。
つまり減衰は、信号が高速になるほど、配線が長くなるほど大きくなるのです。
損失は信号の周波数が遅い場合では、基板やシステムの機器間接続に使うケーブルのような短い配線では無視できるほど小さな値です。しかし、ケーブルが長いと信号周波数が低くても損失が大きくなります。光による伝送にも損失はありますが、信号が高速になると、銅線による損失よりもずっと小さな損失ですみます。
銅配線によるこの減衰は長さに比例します。このため、非常に長距離に信号を伝送するネットワークでは光ケーブルが必要であり、また、普及もしています。物理的な現象なので、基板材料やケーブルの被覆材の材質の選択などで多少低減はできますが、避けることはできません。また、これら損失の少ない材料の使用は基板やケーブルのコストアップや難燃性など他の部分での性能低下などの問題が発生します。
基板の配線や銅線に流れる高速信号のもうひとつの問題は電磁放射です。
高周波になるほど電磁波は放射されやすくなります。また、世界的な電磁放射規格はそれまで規制していなかった、GHz帯電磁波の放射の規制を強化するようになってきました。
電子機器の電磁放射は一般的には、基板からの放射よりもケーブルからの放射の方が大きくなっています。
光は電磁波ではありますが、波長はずっと短く、EMC放射の対象外はもちろんですが、ファイバーケーブルを使った光データ伝送では電磁放射の問題は発生しません。
このように、基板上の銅配線や銅線のケーブルを使って、高速信号を伝送する際の大きな問題2つは、データを光にして、伝送すれば、解決します。
このため、基板上の配線よりも長いケーブルでは、これ以上の信号の高速化は困難で、光を使った伝送にした方が有利であると考えた結果が、『Light Peak』でした。『Twin Peak』を発表したInter社は、2011年にも最初の『Twin Peak』規格による光伝送システムを搭載したシステムが製品化されるだろうと言っていました。しかし、2011年に具体的な製品として出てきたものは、銅線のケーブルを使う『Thunderbolt』を搭載したシステムでした。
なぜ、『Light Peak』から『Thunderbolt』になったのか、今後の光はどうなるのか、さらに信号が高速になった時、基板上の配線で、高速信号が伝送できるのかなどについて、検討します。
筆者紹介
前田 真一(マエダ シンイチ)
KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。
近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)
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