第4回 Light PeakからThunderbolt:前田真一の最新実装技術あれこれ塾(2/3 ページ)
実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第4回は、新しいI/Oインタフェーステクノロジーとして注目されている「Thunderbolt」について紹介する。
2. PCIe Gen3
まず、高速信号伝送の代表として、PCI Expressについて見直して見ましょう。
PCI ExpressはGen1、Gen2、Gen3と3代の規格があります。これらは、基本的には伝送速度を除いては、ほぼ、同じに規格になっています。
伝送速度はGen1で2.5GT/S(1.25GHz)、Gen2は5GT/S(2.5GHz)、Gen3は8GT/S(4GHz)です。データ転送速度はおのおの2Gbps、4Gbps、8Gbpsで、規格ごとにそれぞれ2倍の伝送速度を確保しています。
当初Gen3は、Gen2の2倍の速度で10T/S(5GHz)を目指していました。しかし、この速度では、Gne1、Gen2の設計基準で設計した基板では、データ転送が困難なことが判明しました。
PCI Expressの規格を検討しているPCI SIGの資料(図3)によると、配線長が20インチ(約50cm)では、8GT/Sでも10GT/Sでもエラーが発生しますが、配線長が14インチ(30cm)になると、10GT/Sでもエラーが発生しますが、8GT/Sではデータが正しく転送できています。
このため、信号の転送速度を5GHzから4GHzに落とした代わりにデータ変調方式を変更して、データ転送速度は、2Gbps、4Gbps、8Gbpsと倍にするような工夫をしました。
PCI Expressでは信号の数を少なくすると同時に高速信号の同期を正確に取るためにクロックをデータに組み込んでいます。このため、1バイト(8ビット)パラレルの信号を送る時10ビットシリアルデータに変換して送ります。レシーバ側では10ビットにシリアルデータを8ビットのパラレルデータに変換します(図4)。これをSer-Des(SerializeDe-serialize)と呼びます。
このため、2.5GHzの信号で毎秒、5Gのデータを受け取っても、有効なデータは4Gビットに、20%低下してしまいます。
PCI ExpressのGen3 では、付加情報をデータの16 バイト(128ビット)に対して2ビットにして、合計130ビットで転送するようにしました。このため、8GT/S(4GHz)で、ほぼ、8Gbpsのデータ転送ができるようにしました。
PCI Express はこのように、5GT/S を諦めて、4GT/S に転送速度を落としました。
では、基板上の配線やケーブルでの転送速度は、どこまで可能なのでしょうか?どの速度からは光になるのでしょうか?
3. 銅と光
信号の転送速度が速くなれば、銅での転送は不可能で、光でなければならない。このためには光論理素子や光IC、光コンピュータの開発が必要だ、といわれてから30 年以上が経ちます。
そのころは100MHz 以上になるとクロストークやEMI から高速信号は光で伝達した方がよいといわれていました。
その後、インターネットの普及でネットワークの基幹ケーブルは電話網の銅線からネット専用の光ケーブル化が進みましたが、基板や電子機器の世界には、光は入ってきませんでした。
GHz信号は銅では困難かといわれる中、66MHz や132MHz のPCI バススピードから、いきなりPCI Express(PCIe)が登場し、基板信号はGHz 時代となりました。当初GHz を越える信号はLVDS(図5)と呼ばれる差動信号での伝送が主でした。しかし、今年になり、DDR3 メモリもGHz 帯の速度に近づきCMOS(図6)を使った並列バスもGHz 時代となります。特に今年に入ってSamsung やHynix などのメモリベンダがサンプル出荷を始め、年内には規格も確定されるDDR4規格のメモリはGHz以上の動作となっています。
ごく当たり前のように普通の基板上でGHz バスが、特殊な基板や配線を使わずに製品化されています。
装置間を接続するI/Oバスはやはり銅線のケーブルでも、基板内部バスよりは遅いもののUSB2で問題なくGbpsの速度を実現し、USB3では5GBpsという高速I/Oを実現しようとしています。
このUSB3が話題となっている2009年にIntel社が光ケーブルを使ってUSB3の2倍の転送速度を実現するI/Oバスとして、『Light Peak』を発表しました。この発表を聞いて、多くの人は10GbpsのI/Oバスは銅では難しく、光の時代が始まるのかと思いました。
PCI Expressが5GHzを諦め、4GHzに速度を低下させました。IntelはLight Peakで10Gbpsの高速伝送を実現するために『光ケーブル』を採用した。『銅』と『光』の分岐点は5GHz程度なのかと多くの人は思いました。
しかし、わずか1年ばかり後には『光』のLight Peakは『銅』と『光』の両方を使うThunderboltに変化し、最初の製品は『銅』の製品で現れました。 今回、IntelはThunderboltをApple社と同時に発表し、製品としては『銅』のケーブルを使用していました。
IntelではThunderboltは『銅』と『光』の両方のまたがる規格で、ケーブル長が3〜10mの長距離伝送や将来のさらに高速な規格になれば『光』を使うようになると言っています。しかし、さらに高速な仕様になった時点で、『銅』が使われなくなり、『光』だけの規格になるとはいっていません。
ここで、なぜそれまでは銅では無理といわれていた速度で、次々と銅が実用化され、光がなかなか製品化されない理由を考えてみます。
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