本当にITで農業を救えるのか!? コストイノベーションと地域視点で新たな営農スタイルを目指す「T-SAL」:センサーネットワーク活用事例(4/4 ページ)
現役就農者の高齢化や後継者不足に伴う農家人口の減少、耕作放棄地の増加など、日本の農業が抱える課題に対し、IT/ICTで持続可能な農業を実現しようとする取り組みが各所で進みつつある。その1つが、東北のIT企業/農業法人や教育機関などが中心となり活動している「東北スマートアグリカルチャー研究会(T-SAL)」だ。大企業では実現できない地域連合ならではの取り組みとは?
さらに、T-SALの取り組みを支えているのは地元の企業や教育機関だけではない、全国的に知られる村田製作所やKDDI研究所、日本マイクロソフトなども、T-SALの活動に賛同し、技術協力している(裏方的に支援している)。
日本マイクロソフトでは、ネットワークへの接続機能を備えた“コネクテッドデバイス”の活用について、ここ数年模索してきたという。「実は、震災前から地域コミュニティーの活動を積極的に行っていたトライポッドワークスとはさまざまな取り組みについて話を進めていた。これが震災を機に、復興支援という形で具体的な協力・サポートをすることになった。オランダのアムステルダムでは大気汚染が問題となっていたが、Microsoft Researchが中心となり、大気中の成分をモニタリングするためのセンサーネットワークを配備した。これと同じようなことが東北地域でもできるのではないか? という思いがある」(日本マイクロソフト 松岡氏)。
一昔前に同じようなシステムを構築しようとすると、データを蓄積するデータセンターはどこが立ち上げるのか? 誰が持つのか? などの利害関係でまとまらなかったものが、今ではクラウドの登場により、こうした問題が一気に解消された。そして、あらゆるものがオープン化しつつあり、センサーやデバイスなどのコモディティ化も進んでいるため、「何でもやれる時代になった。(大企業ではない)われわれのような地域連合でも“ここまでやれるんだ!”ということを、このT-SALの活動を通じて証明したい」と菊池氏は語る。
点在する農地を、1つの大きな農場として運営!? 「仮想化大規模農業」構想
T-SALが最終的に目指すものはさらに先にある。3rd.Stepだ。東北地域の枠にとらわれない新しい農業スタイル/ビジネスの確立を目指す。
具体的には「仮想化大規模農業を推進する(小規模農地をITで仮想化し大規模農業に匹敵する効率化に加え、新農業スタイルを目指す)『VLSA(Virtualized Large-scale Agriculture)』の形成」をゴールとする。1st.Step、2nd.Stepでの研究開発成果をベースに、独自の農場管理システムを開発し、点在する農地を仮想的に1つの大きな農場として捉え、一体運営するという壮大なストーリーだ。
「われわれが目指すのは、ずばり日本の農業の集約化。飛び地(点在した農地)をITで仮想化して、あたかも1つの大きな農地に見せる。そこで、新しい農業基盤の確立や新しい営農スタイルの創造を目指していく」(菊池氏)。
技術の進歩と普及、コモディティ化によるコストイノベーションは、農業のIT化の追い風であることは間違いない。後はいかにして使ってもらえるもの・必要とされているものを安く、早くアウトプットするかだ。
今回紹介したT-SALの活動は、まだ始まったばかり。大企業にはない地域連合ならではの強みを生かし、どこまで理想に近づくことができるのか。そして、新規就農者/新規参入法人の増加と定着率を上げるための仕掛け(新しいスタイル・ビジネス)を打ち出すことができるのか。引き続き彼らの動向に注目していきたい。
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