本当にITで農業を救えるのか!? コストイノベーションと地域視点で新たな営農スタイルを目指す「T-SAL」:センサーネットワーク活用事例(3/4 ページ)
現役就農者の高齢化や後継者不足に伴う農家人口の減少、耕作放棄地の増加など、日本の農業が抱える課題に対し、IT/ICTで持続可能な農業を実現しようとする取り組みが各所で進みつつある。その1つが、東北のIT企業/農業法人や教育機関などが中心となり活動している「東北スマートアグリカルチャー研究会(T-SAL)」だ。大企業では実現できない地域連合ならではの取り組みとは?
本当に必要なものをアウトプットする 〜津波塩害の支援〜
現在、T-SALでは、この2nd.Stepの研究成果や考え方を、まず震災で困っている人のために役立てようということで、「震災復興に直接資するクラウドシステムの研究開発」という目標を1st.Stepとし、積極的に取り組んでいる(震災復興の活動の方が最優先ということで、こちらの活動を“1st.Step”と呼んでいる)。
「コモディティ化しているセンサーネットワークをいかに活用するかは共通テーマであり、必要な技術要素は、1st.Stepも2nd.Stepもおおむね同じ。実際は2nd.Stepの研究開発と並行しながら取り組んでいる」(菊池氏)という。もともとの根幹にある2nd.Stepで実現できたもの(研究成果)を積極的に1st.Stepで活用する。このサイクルを回し、被災地で本当に必要とされるものをアウトプットしていくというのが、1st.Stepでの狙いなのだ。
1st.Stepでは具体的に、モバイルセンシングとクラウドシステムを活用した「塩害農地測定システム」を実現。大津波で海水をかぶった農地(津波塩害農地)の効率的な除塩作業を支援するための仕組み(塩分濃度の監視の支援)を提供する。
行政が行うような従来の土壌調査は、1kmメッシュでサンプルを採って、それを一度、研究所に持ち帰ってから分析を行うため非常に時間がかかっていたという。「農家の立場からすると1kmメッシュでは自分の農地の細かな状況まで把握できない。データの更新も数カ月に1回という頻度になり、日々の情報が重要な農家にとって、従来の土壌調査はあまり意味のあるデータにはなっておらず、農家のモチベーションになっていないのが現状だ」(トライポッドワークス 渋谷氏)という。
1st.Stepでは、津波塩害農地に塩分センサーと放射線センサーを設置。これらセンサーから得られた計測値にGPS情報を付加し、スマートフォン経由で、Windows Embedded OSを採用したセンサーステーション(中継拠点)にデータを送る。ここでいったんデータの中間処理(画像データの圧縮や最適化など)を行った後、クラウド(Windows Azure)にアップロードする仕組みを構築。Windows Azure上に集約された情報は、専用のBing Mapsアプリケーション上にプロットされ、PCやタブレット型端末から閲覧することができる。
「センサー情報をスマートフォンに取り込み、Windows Azureと連携する部分は、鶴岡工業高等専門学校の先生と学生たちが開発している。センサーは村田製作所が、クラウドや組み込みOSについては日本マイクロソフトが支援してくれている。センサーステーション側はトライポッドワークスが開発。その他、アプリケーション部分はアイエスビー東北やFandroid EAST JAPANが手掛けている」(菊池氏)とのことだ。
同システムは、現在、農業継続意欲のある農家の協力の下、環境プロジェクト団体(菜の花プロジェクト)や地元企業と協力し、実証実験を進めている。「水はけの良い場所、悪い場所など、同じ農地内のわずかな距離でも全く数値が異なってくる。当然、雨が降れば数値なども変わる。日ごと場所ごとで数値は異なるので、その時々で測ることが重要。こうしてデータ化されることで、これまで見えてこなかった傾向なども見えてくるはず。結果、除塩作業の効率化に貢献できると考えている」(渋谷氏)。
「地元の市場や農家と密接に連携しながら、本当に必要な情報や生の声を入手できる点が大手企業主導のプロジェクトにはない強み。この地域連合による、地域視点での活動を継続し、本当に役立つ・必要とされるアウトプットを出していくのがわれわれの使命だ」(菊池氏)。
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