一般家庭・小規模事業主が安心して蓄電池を使うために――あるメーカーの震災後の製品展開から:小寺信良のEnergy Future(18)(3/3 ページ)
止められない設備がある。個人事業主や家庭レベルで、電力供給の安心を担保するにはどうしたらよいのか。市場の問いの中から、皆の選択が見えてきた。
いざというときに、どこにでも動かせるように
また、こんな話もある。
ある特別養護老人ホームでは、非常用電源として発電機を検討していた。震災後に厚生労働省から、停電時の対応について通知があったからである。こういう施設では、人工呼吸器など、生命維持に直結する医療器具だけでなく、食べ物を喉に詰まらせたときに使用する吸引器といった器具も、いつでも動かせる用意が必要だ。
ところが職員のほとんどは女性であり、ガソリンエンジンで動く発電機の取り扱いは難しい。毎日使うものならともかく、非常時にのみ使う機器であるため、操作に熟練することもできない。このような現場で、発電機に代わってこのENEBOXが導入された。
ただ、ENEBOXに問題がないわけではない。それは、重量である。
売れ筋のE-5000で148kgもある。いくらキャスターが付いているとはいえ、医療現場の女性スタッフだけで、使用したい現場まで移動させるのは困難だ。病院内には段差もあるだろうし、フロアが違う場合、エレベータに乗せられないかもしれない。
そこで多くの医療機関では、E-5000よりも小型である「E-1300」を複数台購入するという手法をとっている。60kg程度でキャスターが付いていればあれば、大人が乗った車いすを押す程度なので、女性1人でも移動できる。フロンティアオーズでは、インバータを変更して出力を高めるといったカスタマイズにも対応するという。
いざというときに、水を確保するために
また地下水をくみ上げて生活用水として使用している地域では、停電によって汲み上げポンプが停止してしまったら、断水状態となってしまう。そこに納品したENEBOXは、特別に屋外仕様のものを作った。さらにチャージコントローラも付けて、ソーラーパネルだけで充電できる、完全スタンドアロン製品となった。
一般家庭で使われる充電池へ
ここまでは事業者などを中心とした購入者のエピソードだが、一方で、一般家庭向けの納入もある。ある農村では、地域で所有する廉価な発電施設から充電し、それをそれを一般家庭用の電源として利用しているという。蓄電池を利用することで、より安価な電力をフル活用しようというアイデアだ。
ピークシフトが目的と考えれば、深夜に充電して昼間に使う、というスタイルが普通だろう。よく、深夜電力は基本的に安いと勘違いしている人もおり、一生懸命洗濯機などを深夜に回す主婦もいるが、何も申し込みしていなければ、一般家庭の電気料金は昼間も夜中も同じである。
東京電力の場合、通常の電灯線契約であれば、「おトクなナイト8・10」に加入する必要がある。これらのプランは、夜間の電気料金が割引になる代わりに、昼間の電気代が高い。普通の電気料金は、1kWhで約18〜24円(3段階で料金が変わる)なので、昼間はだいぶ高いわけである。
日中は人が誰もいないという家庭ではメリットがあるが、昼間もそこそこエアコンなども使うという場合であれば、深夜割引契約をした方が高くつく可能性があるので、注意が必要だ。
家庭内に蓄電池があれば、安い深夜電力で充電し、昼間の電力は畜電池でまかなう、という考え方も出てくる。しかしそれは、どのぐらいの製品をそれに投入するかによるだろう。逆にいえば、昼間に使用する電力次第で、小さい蓄電池でもいいのか大型を入れないとダメなのかが変わってくる。元が取れるかは、各家庭でかなりのシミュレーションを重ねてからでないとはっきりしないだろう。
そもそもこの蓄電池、医療現場ならともかく、家庭内にドンとあるサイズとルックスではない。そこでAVラック型の製品「E-1000 HR」も製品化している。性能としては、蓄電容量1000Wh、インバーター出力700Wなので、ちょっとしたピークシフトには使いやすいスペックだ。
AVラックのボディは、エレコムと協業している。通常はレコーダーなどが入る下の棚部分に、バッテリーがみっちり入っているというわけだ。一般的なテレビ台として使えることもあり、家庭にはなじみやすいタイプだろう。
手堅いスペックと低コストで躍進中
実はこれまで、鉛電池というのは前時代の技術のような気がしていたが、実際には非常に完成された充電池であり、極めればものすごく高性能かつ安全で大容量のものが実現できるということが分かった。元々フロンティアオーズは企業の節電ソリューションを担う会社で、蓄電池事業はレジャー用特機からスタートしたが、震災をきっかけに全く違う方向に業態が変わってきたというのも面白い。
思わぬところに発生したニーズを上手くとらえて、波に乗ったといえるかもしれない。まだ歴史の浅い会社ではあるが、手堅いスペックと低コストで業績を伸ばしている。こういった会社がどんどん出てくると、この夏も安心できるのだが。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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