カタログ燃費と実燃費の差をなくせ! 欧州が燃費計測の世界標準策定に動く:JC08モードでもまだまだ甘い(2/2 ページ)
自動車のカタログ燃費よりも、その自動車を実際に運転して走行する際の実燃費が下回っていることは周知の事実だ。この問題を解決するため、日本でも2012年4月からJC08モード燃費を導入し、より実燃費に近いカタログ燃費が使用されるようになった。しかし欧州は、燃費計測方法の世界標準の策定など、さらに先進的な取り組みを進めようとしている。
実走行状態でNOx排出量が5倍に
最近になって、燃費計測に用いるテストサイクル改定の動きを加速させているのが、欧州である。
欧州におけるテストサイクル改定のアプローチは2つある。1つは、国際連合欧州経済員会の排出ガス・エネルギー専門家会議(GRPE)によって策定が進められている、燃費と排気ガスを計測するための統一テストサイクル「WLTP(World Harmonized Light Duty Test Procedure)」である。
WLTPは、乗用車の燃費や排気ガスの排出量を実走行状態にできる限り近い状態で計測するために策定されているテストサイクルの世界標準である。現在、欧州連合(EU)、日本、米国、中国、インド、韓国が参加しており、これらの国・地域が提出した道路状況データを用いてテストサイクルを策定しているところだ。EUは、2013年に策定が完了した後、2014年から現在使用しているNEDCに替えてWLTPを採用する予定である。
もう1つのアプローチは、EUの欧州委員会が進めているものだ。EUにおけるテストサイクルの策定は、燃費計測よりも、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)、微粒子(PM)などの排気ガスの排出量を正確に計測することに重点を置いている。例えば、EUに導入されている排気ガス規制「Euro6」では、新車のCO2排出量を130g/km以下に義務付けており、2020年の導入を目指しているEuro6の次の規制では、CO2排出量は95g/km以下にすることを目標にしている。
このように排気ガスを厳しく規制しているEUにとって、NEDCを使って計測した排気ガスの排出量と、実走行状態で計測したものの間に大きな差があると、規制の存在意義そのものが疑われかねない。しかし、EU技術研究所(JRC)が、Euro6以前の規制である「Euro5」をNEDCベースの計測でクリアした車両の排気ガスを計測したところ、NOxの排出量が規制の2〜5倍に達したのである。
この結果を受けて欧州員会は、「RDE(Real Driving Emissions)」と呼ぶ新たな計測方法の検討を開始した。この新たな計測方法とは、公道走行により計測を行う「PEMS(Portable Emission Measurement System)」や、シャシーダイナモメーター上での計測をあらかじめ決められた走行パターンではなくランダムなもので行う「RTC(Random Test Cycle)」などである。
WLTPとRDEが適用されれば、カタログ燃費と実燃費の差がさらに小さくなる可能性は高い。
パワートレイン開発の方向性にも影響
欧州で新しいテストサイクルが導入されれば、自動車システム、特にパワートレイン開発の方向性にも影響が出る。
例えば、大手ティア1サプライヤのRobert Boschは、新しいテストサイクルの導入により、排出ガス内のNOxを低減するシステム(DeNOxシステム)に変更を加える必要があると見ている。日本法人ボッシュの常務執行役員で、ディーゼル・システム事業部開発部門長を務める伊藤悟氏は、「新しいテストサイクルでは、エンジンから出るNOx排出量の増加や、より激しく負荷が変動する運転モードの追加、排気ガスの温度が極端に低い状態と極端に高い状態などが想定される。これらに対応するため、DeNOxシステムを改良する必要が出てくるだろう」と述べている。
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