EVが“走る大容量蓄電池”になる、3社の電力供給システムを比較:電気自動車(2/2 ページ)
電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を販売している、トヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車の3社が、電力需給がひっ迫するであろう夏を前に、EVとPHEVから電力を供給するシステムを発表した。各システムの機能を比較すると、それぞれの最適な用途がはっきりと見えてくる。
容量よりも出力がポイント
表1に、三菱自動車のMiEV power BOX、日産自動車のLEAF to Home、トヨタ自動車のV2Hシステムの発売時期や価格、主な仕様をまとめた。これらと、市販の住宅用蓄電池を比較するために、NECが2011年7月から販売している「ESS-H-002006B」についても紹介してある。
まず注目すべきなのは、電力供給システムの出力であろう。先述した通り、EVの電池容量が大きいことから、電力供給システムに関する報道では「一般家庭で使う電力の数日分を供給できる」という表現が目立つ。しかし、電力会社との契約アンペア数に相当する出力の値こそが、同時に何個の家電製品を接続して動かせるかを示しているのだ。
メーカー | 三菱自動車 | 日産自動車 | トヨタ自動車 | NEC |
---|---|---|---|---|
名称 | MiEV power BOX | LEAF to Home | V2Hシステム | ESS-H-002006B |
発売時期 | 2012年4月末 | 2012年6月中旬 | 2012年末に実証実験開始 | 2011年7月 |
価格 | 14万9800円(i-MiEV Gは343万4000円から) | 補助金適用時で33万円(リーフは358万5000円から) | 未定(プリウスPHVは302万7000円から) | 約250万円 |
出力 | AC100V/1.5kW | AC100V/3kW×2相(AC200V出力も可能) | AC100V/1.5kW | AC200V/2.0kW |
サイズ | 395×334×194mm | 650×350×781mm | プリウスPHVに内蔵 | 980×330×1200mm(架台含む) |
電池容量 | 16kWh | 24kWh | 4.4kWh(エンジン使用時は40kWhまで出力可能) | 5.53kWh |
コネクタ | CHAdeMO | CHAdeMO | 普通充電コネクタ | − |
特徴 | 持ち運び可能 | 家庭用の急速充電器としても利用可能 | プリウスPHVのエンジンで発電可能 | − |
表1 EVとPHEVの電力供給システムの比較 |
この出力の数値で抜きんでているのはLEAF to Homeだ。6kWという出力があれば、照明器具、冷蔵庫、エアコン、電子レンジなどを同時に接続して動かすことができる。つまり、リーフの電池からの電力供給だけでも、従来と変わらない住宅内での生活が可能になるわけだ。
一方、MiEV power BOXとV2Hシステムの出力は1.5kWと小さい。MiEV power BOXは、システム本体にAC100Vのコンセントを1個備えるだけなので、分岐ケーブルを使ったとしても同時に接続できる家電製品の数には限界がある。V2Hシステムは、住宅の配電盤と接続して系統電力と組み合わせて使用する場合と、プリウスPHVから直接電力を供給する場合という2つの利用法がある。どちらにしろ、V2Hシステム単体の出力が限られているので、LEAF to Homeのように、車両の電力だけで通常時と同じ生活を住宅内で過ごすのは難しい。
このように、住宅への電力供給システムとしては、LEAF to Homeが優れているといえるだろう。出力6kW相当の充電器としての機能も備えていることから、「クリーンエネルギー自動車等導入対策費補助金」の適用対象にもなっており(関連記事3)、実質的な購入価格は33万円と安価に抑えられている。
外出時や災害時の電源として利用
MiEV power BOXとV2Hシステムは出力こそ劣るものの、LEAF to Homeでは実現できない機能を備えている。
LEAF to Homeで、EVからの直流電力を交流電力に変換するEVパワーステーションは、エアコンの室外機程度のサイズではあるものの、持ち運ぶことはできない。これに対してMiEV power BOXは、本体と接続ケーブルを合わせた重量は11.5kgで、i-MiEVに載せて持ち運べる範囲内に収められている。V2Hシステムで使用するプリウスPHVも、車両内に電力供給機能を内蔵しているので、どこでも電力を供給できる。つまり、外出時や災害時などに、屋外でも利用できる電源車に早変わりするのだ。
さらにV2Hシステムの場合、エンジンを搭載するプリウスPHVから電力を供給できることも大きなメリットになっている。プリウスPHVの電池容量は4.4kWhとEVよりも少ないが、エンジンを使って発電できるので、電池容量が空になってもガソリンさえあれば電力を供給し続けられるのだ。ガソリン満タンであれば、満充電の電池と合わせて約40kWhの電力容量を供給できるという。
V2Hシステムは、先述した通り、住宅の分電盤に接続して家庭用の系統電力としても使用できる。エンジンで発電できることも考慮すると、LEAF to Homeはもちろん、MiEV power BOXよりも、災害時における電源としての利便性は高い。
ただし、既に14万9800円で販売されているMiEV power BOXと違って、V2Hシステムは、商品化時期が明らかになっていない。電力供給機能を持つプリウスPHVが2012年末までに発売されるという報道もあるが、少なくとも今夏に利用することはできない。早期の市場投入が待たれるところだ。
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