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スマートフォンが創る“ソーシャル・ゲーミフィケーション”の時代本田雅一のエンベデッドコラム(14)(2/2 ページ)

大きく報道されたソーシャルゲームのコンプガチャ(コンプリートガチャ)問題。ソーシャルゲームというと、最近はこの話題にばかり注目が集まるが、その本質に目を向けてみると“新たな製品やサービスの企画・開発のヒント”が隠されている。

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自分たちだけの○○グラフを作る

 SNSをある程度知っている人ならば、SNSに登録している会員同士の関係性を「ソーシャルグラフ」と呼んでいることをご存じだろう。

 どのような関係性を他登録ユーザーと結び、バーチャルあるいはリアルの交友関係を深めていくかは本人次第。しかし、自分にとって心地の良いソーシャルグラフを形成していけば、その中では必然的に場の共有や何らかの意識の共有が生まれてくる。

 “ヒットする”ソーシャルゲームは、その部分の活用がうまい。ところが、ソーシャルゲームの企画・開発をしている人たちに尋ねてみると、ゲームの場合、リアルな友人ネットワークとはまったく別のソーシャルグラフを形成したがるユーザーが多いとのことだ。

 実際の友人関係とは別に、“ゲームを楽しむ”場を共有する別のソーシャルグラフが生まれる。さらにはゲームのタイプごとにも、ソーシャルグラフの形は変化していく。かつてならば、グリー、ディー・エヌ・エー、ミクシィなどが提供するソーシャルグラフを活用することが重要といわれていたが、これらプラットフォーマーが提供するのはソーシャルグラフそのものではなく、彼らが持つ“ソーシャルゲームを遊んでいる人たち”だ、と話していた。

 つまり、効率良くゲームを遊ぶ人たちにアクセスできるのがプラットフォーマーを使う理由になってきており、ソーシャルグラフそのものはアプリケーションごとに変化するという考え方だ。

 もちろん、これには異論もあるだろうが、実際の生活においても音楽仲間、会社の同僚、スポーツ仲間など、異なるソーシャルグラフがあり、部分的にリンクするところがあったとしても、個々に独立していることが多いのではないだろうか。リアルの人間関係を忘れてゲームを遊びたいというプレーヤーは、むしろリアルなソーシャルグラフの上でゲームをやりたいとは思わないだろう(Facebookユーザーなら、一度ぐらいはゲームへの誘いやお手伝いのリクエストに対して“俺はゲームはやらない!”と反応している人を見掛けたことがあるはずだ)。

ハードウェアの“ソーシャルゲーム化”

 今後、「あらゆる製品がネットワークに接続されていく」といわれている。いわゆる黒モノ家電だけでなく、生活家電もネットワークにつながっていくことは確実だ。どの家電メーカーに話を聞いても、ネットワークサービスと本体の一体化を指向しているし、ホームオートメーション、ホームセキュリティ、ホームエネルギーマネジメントなどの分野でもネットワークサービスとの結び付きは強まっていく。

 全ての製品に無線LANが内蔵されていく、という話をしているわけではない。昨今の韓国製生活家電を見ていると、インターネットに接続された冷蔵庫や洗濯機の画面上からさまざまな操作を行える製品も提案されている(これは日本のメーカーもいつか来た道だ)。

 しかし、筆者は生活家電など常時インターネットに接続されている利点が少ない製品は、無線LANではなくNFC(非接触近距離通信)を通じたコミュニケーション機能を備えるようになると考えている。利用者のネットワークサービスへの接点を個々の製品が持つのではなく、スマートフォンが“媒介役”となるからだ。

 例えば、レシピのサービスと連動する調理家電なら、スマートフォン上で動かすアプリケーションでレシピを捜し、作り方を参照しながら、調理家電との間はNFCを通してピッと情報をスマートフォンから送ればいい。何らかの結果が出たならば、またピッと触れるだけ。

 これが掃除機であっても、洗濯機であっても、やはり同じだ。ピッと触れることで日々の家事のログも同時に取っていくことができる。センサーの情報を活用すれば、どのぐらいその製品を使ったのか、あるいは省電力などエコ的な行動を取れたのかなど、さまざまな数値へと変換することも可能だろう。

 NikeのFuelBandが示しているように、センサーから取れる情報をリアルな単位に変換しなければ、必ずしも数値化されるスコアは現実の数値と完全に一致しなくてもいい。幾つかの評価軸に単純化し、スコアリングできれば達成感を高める工夫は行えるはずだ。

 このように、製品を作る・企画する上で、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを一体化する発想が重要になってきているが、今後はそこに“ソーシャルゲーム化”が加わるのではないだろうか。

 例えば、先ほどの「うたパス」は音楽を中心に緩やかなソーシャルグラフを形成するサービスといえるだろう。この機能をアプリケーションとしてスマートフォンで使えるようにしているのが現段階だが、次の段階としてサービスと製品をタイトに統合するというシナリオもある。これまでWebサービス、あるいはスマートフォンアプリで提供されてきた価値感を、ハードウェアという窓を通しても感じられるよう設計していく発想が必要だ。

 さらに、ネットワークの環(わ)を広げるならば、ユーザーインタフェース兼ネットワークサービス端末となるスマートフォンが媒介役となって、エンターテインメントだけでなく、通勤、通学、掃除、洗濯、買い物、料理といったさまざまな生活の中の行動がネットワーク化されていく。

 この中にソーシャルゲームの要素を応用していけば、商品の考え方、使い方が変化し、ひいてはネットワークサービスを提供する側の発想を刺激することになると思う。コンプガチャ問題に隠れがちだが、ソーシャルゲームの本質部分を製品の魅力へと転換する発想が、今後は重要性を増してくるだろう。


筆者紹介

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本田雅一(ほんだ まさかず)

1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。

Twitterアカウントは@rokuzouhonda

        近著:「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(ソフトバンク新書)


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