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スマートフォンが創る“ソーシャル・ゲーミフィケーション”の時代本田雅一のエンベデッドコラム(14)(1/2 ページ)

大きく報道されたソーシャルゲームのコンプガチャ(コンプリートガチャ)問題。ソーシャルゲームというと、最近はこの話題にばかり注目が集まるが、その本質に目を向けてみると“新たな製品やサービスの企画・開発のヒント”が隠されている。

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 このところソーシャルネットワークサービス(SNS)業界は、“コンプガチャ(コンプリートガチャ)”問題で揺れていた。といっても、SNSを通じてゲームをやっていない層の人たちからすれば、「SNSって、FacebookやTwitterだよね?」となるだろうが、別のコミュニティーではGREEやMobageなどで展開されているソーシャルゲームこそがSNSなのだ。

 ネットサービスの事情に詳しい人にとっては釈迦に説法だが、簡単にいうと日本の場合、ゲームを中心に発展してきたSNS事業者がソーシャルゲームのプラットフォームを提供している。SNS事業者が会員向けサービスとして基本無料ながら、後から追加課金も可能なゲーム機能を提供し始めたのは、元をたどると会員を集めるためのものだった。そして、この追加課金を集めるテクニックが進歩し、売り上げがどんどん高まり、ビジネスとして急成長を遂げた。

 本稿の中で、“ソーシャルゲーム”についての話を詳しくするつもりはないが、ソーシャルゲームの世界において、いわゆる「ヒット」と称されるゲームタイトルは毎月1億円以上も売り上げるそうだ。それがさらに「大ヒット」ともなれば5億円以上、中には20億円クラスのモンスター級タイトルもある。課金システムを提供するプラットフォーマーの取り分を3割とすると、7割が粗利となるわけだ。

探検ドリランド怪盗ロワイヤル (左)グリーの人気ソーシャルゲーム「探検ドリランド」(※出典:グリー)/ディー・エヌ・エーの人気ソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」(※出典:ディー・エヌ・エー)(右)

 もっとも、ヒットしないゲームも存在する。「すべった」ゲームは月に200万円程度しか課金が集まらない場合もあるという。

 ある程度の人気ゲームの売上は月1億円を越える。しかし、「すべり」タイトルの場合は数100万円の売り上げにしかならない。実は、ソーシャルゲームの世界ではこの両極端のパターンが多く、“中間程度”のタイトルは少ない、とあるソーシャルゲームベンダーの担当者が話していた。

ソーシャルゲーム業界が示していること

 どんなに便利で有益な道具でも、使い方を誤れば自らを、あるいは社会全体を傷つける道具にもなり得る――。

 コンプガチャ問題は、有料でアイテムを販売する際の手法についてモラルが問われた事例だ。コストの掛かった“実物”が買えるのならば話は別だろうが、やりとりされるのが、材料コストも在庫コストも掛からない“デジタルデータ”だけに、モラル問題へと発展しやすいのは確かだ。

 ……っと、本稿はソーシャルゲーム業界を批判するものではない。ここで何が言いたいかというと、「どんなアイデアも使い方次第である」ということだ。場合によっては、モラルを問われる事例もあるかもしれないが、そのアイデアを商品の魅力へとつなぐことができる可能性もある。

 ソーシャルゲーム業界を取材しているときに印象的だったのは、(前述の通り)“大ヒットか大失敗かであって、中間が存在しない”ということだ。その理由について聞いてみると、単純にゲームが採用しているテーマ(登場するキャラクターや世界観など)が、ユーザーの心に刺さるか否かがポイントで、テーマさえピッタリと合っていれば、それをきっかけにゲームをヒット商品にすることは難しくないという。

 ソーシャルゲームの本質は、行動分析を細かく行い、プレーヤーの“やる気”と“達成感”を最大化させるような調整を加え続けることにある。

 ソーシャルネットワークを通じて別のプレーヤーとかかわることが、モチベーションを上げる大きな要素になっているのは言うまでもないが、決してそれだけではなく、ゲーム仲間に対する虚栄心を絶妙に刺激することでやる気をさらに高めている。これが行き過ぎてしまうと“批判の対象”になるだろうが、プレーヤーをユーザーに置き換えて考えたとき、いろいろなハードウェア製品にも応用できる可能性はありそうだ。

やる気を起こさせるメカニズムをいかにして組み込むか

 「何だ、ゲーミフィケーションのことか」というかもしれない。ゲームのメカニズムを応用することで目的の達成意欲を刺激し、学習効果やトレーニング効果を高めるなどの効果を生む。代表的には「Nike+」が挙げられるが、「foursquare」や「SCVNGR」のようにロケーションサービスやクーポン発行サービスと連動したものも存在する。

 今後さらに、自らの行動の結果が視覚化され、ゲーム感覚で達成感が得られる工夫が施された製品やサービスが登場してくるだろう。それは、必ずしも“ゲームそのもの”の要素を取り込むのではなく、ゲームをデザインするときのノウハウ、プレーヤーにやる気を引き起こさせるエッセンスを盛り込んだものと解釈する方がいい。

 従来型のコアゲーム、昨今のソーシャルゲームともに、ゲームデザイナーが口をそろえて言うのが「プレーヤーの行動分析」だ。“何かを達成すること”にインセンティブを持たせ、小さな達成感を繰り返すことで、大きな目標を達成できるようにするやり方は、製品を使うモチベーションを高め、ひいてはユーザーが製品を通じて感じる価値を高めることができる。この“やる気を起こさせるメカニズム”をゲーム以外の何かに組み込もうという動きが各所でも展開されつつある。

 例えば、KDDIが先日発表したサービスに「うたパス」というものがある。月額315円で、対応する楽曲が聴き放題。幾つかのチャンネルが用意されており、流して聴きながら自分が好きな楽曲をお気に入りリストに加えたり、あるいはスキップするなどしていると、だんだんと自分好みの音楽チャンネルへと成長していくというものだ。

「うたパス」トップ画面と「セレクトチャンネル」のイメージ
「うたパス」トップ画面と「セレクトチャンネル」のイメージ(※出典:KDDI)

 こうして“自分チャンネル”を作っておくことで、それを友人と共有することもできる。先日、KDDIの田中孝司社長に話を伺った際、「好きな彼女に自分で編集したカセットテープを渡すような感じ」とこの機能のイメージを語っていたが、彼女といわなくとも友人同士で自分チャンネル交換しながらサービスへの関心を高めていく方法は、ソーシャルゲームの“やる気を起こさせるメカニズム”にも似ている。

 コンプガチャ問題の報道以来、ソーシャルゲームというと、「カードを集めて、絵合わせするために多額のお金が掛かる」ことばかりが注目されがちだが、ソーシャルゲームの基本は“ソーシャル”の部分だ。

 SNSでつながる知人・友人との競争、あるいは協力関係を生み出していき、友人への奉仕の気持ちや多少の虚栄心を満たすために、やり始めたゲームが辞められなくなったり、あるいは有料アイテムへと手を出したりといった行動につながっていく。コンプガチャは、そうしたソーシャルゲームの基本的な中毒性を煽るものだ。

 その部分だけを捉えると、一般的な商品やサービスへの応用は難しいように感じる。しかし、一般的な商品への応用では虚栄心を煽って消費を加速させる必要などない。ソーシャルゲームの原点である、知人、友人との関係性を生かし、やる気を起こさせる部分を応用すればいい。

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