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なぜ、パナソニックは有機EL照明事業開発に熱心なのかを推察する知財コンサルタントが教える業界事情(11)(1/3 ページ)

読者の方々の関心が高い有機EL技術について、もう少し掘り起こしてみることにしましょう。今回は出願年に注目したいので商用データベースを試用しています。

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 本連載の「今後どうなる!? 日本の有機EL」では、前編で「日本企業の追撃と撤退」を、中編で「韓国企業のしたたかさ」を、後編で「日米欧企業の有機EL照明への転進」を、それぞれ紹介しました。そこで、今回は新たな視点から、世界動向とそれに対応しようとする企業の動きに注目しながら、有機ELの技術開発動向と事業開発競争を見ていきたいと思います。

照明に使われているエネルギー量は意外に多い

 照明の歴史を振り返ると、「ものを燃やした時に得られる光エネルギー」を利用することから始まりましたが、白熱電球(1878年:スワンが英国特許を取得)でも、その状況はあまり変わりませんでした。そして、蛍光灯(1926年:ゲルマーの発明)が、放電現象を利用して蛍光体を光らせて、可視光に変換する仕組みを作り上げました。

 現在、全世界の電力使用量の約20%、日本の電力使用量の約25%が、それぞれ照明に使用されています。東日本大震災(2011年3月11日)以前のデータでは、日本の総電力に占める照明の使用量は全世界の電力使用量の14分の1を占めていました*。

 それでは、照明市場に起こっている世界的な動向に目を向けてみましょう。


*照明が消費する電力使用量 全世界の電力消費に対する比率(2005年):“Light‘s Labours Losts Policies Energy-efficient Lighting",OECD IEA(2006) p.31によれば19%とのことです。日本の電力使用量に対する比率(2005年度):『平成18年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)』資源エネルギー情報企画室の【第214-1】(図)から約25%と読み取れます。


「省エネルギー化」と「脱水銀」を目指す照明

 照明はエネルギーと地球環境の観点から、現在2つの課題を抱えています。すなわち、電力消費量に占める割合の大きさから「省エネルギー化」が、有害物質である水銀を使うことから「蛍光灯依存からの脱却」が、それぞれ求められています。

 まず、照明の省エネルギー化を取り上げてみましょう。日本では、2008年に「2012年までに、一般的な白熱電球製造中止」という方針が出され、2010年には大手製造企業が製造中止に踏み切りました。白熱電球廃止の動きは日本だけでなく世界中に広まっており、いずれも段階的に廃止されつつあります。このような流れの中で、照明に携わる企業は環境調和型の高効率光源にシフトする動きを進めようとしています。

 EU加盟27カ国は「2012年までの白熱電球廃止に合意」しており、米国カリフォルニア州やカナダのオンタリオ州でも、「2012年までに白熱電球販売禁止」の法案が2010年に提出されています。オーストラリアでも、「2010年までに白熱電球使用禁止」の方針が出され、既に2010年には40Wの白熱電球が販売停止となっています*。アジアに目を向けると、中国では、今後10年間で白熱電球の生産を取りやめ、コンパクト電球を生産する方針が示されており、タイでは白熱電球から電球型蛍光灯への移行が進められています。


*オーストラリアの規制動向 日本貿易振興機構(JETRO)2009年12月の「市場トレンド情報」に関連情報が掲載されています。


 次に、蛍光灯に使用されている「有害物質である水銀」の問題があります。蛍光灯/水銀灯/高輝度放電灯(HID)には、水銀(Hg)が使われており、水銀の毒性が問題視されています。既に、水銀はRoHS(Restriction of Hazardous Substances:電子・電気機器における特定有害物質の使用規制に関するEU指令)などの規制対象となっています。

 しかしながら、「水銀を使用しない実用可能なレベルの蛍光灯」はいまだに実現されていないため、RoHSも条件付き規制適用除外としていますが、地球環境のことを考えれば、いつまでも認められるわけはありません。

 蛍光灯も1926年に発明されて以来、その発光効率を向上させていますが、このような省エネルギーと地球環境保護の機運に後押しされ、新しい照明光源である「LED」、さらには「有機EL」への転換が加速されようとしています。これら2つの新光源はいずれも、1997年から1998年ごろに登場し、発光効率向上を目指した技術開発が進められてきました。

 そして、2004年ごろからの急激な発光効率の向上で、まずLED照明が実用化にこぎ着けました。一方の有機ELでは、1998年にリン光材料が登場し、2004年ごろから発光効率向上が始まり、2011年には有機EL照明も実用領域に達しています。

 照明の技術進歩を振り返ると、白熱電球から蛍光灯の登場までに約60年を、その後のLED照明/有機EL照明の登場までに約60年を、それぞれ要しています。そして、LEDの面光源化の工夫は進められているものの、いまのところ点光源であり、有機ELは面光源ですから、照明市場における両者のすみ分けも可能になるわけです。

 それでは、後発にもかかわらず、日欧米の有機EL技術開発成果をテコにして、有機ELディスプレイ事業への参入を果たし、現在のところ独占状態を誇る韓国企業が、照明事業開発にどう取り組んでいるかをあらためて見てみましょう。

韓国勢の海外市場での動向に表れる“お国事情”

 サムスン電子およびグループ企業(以降、サムスン)は「LED-TV」用のLEDチップから参入したLED事業の対象を、照明市場にまで拡大しようとしています。既にサムスンLED(Samsung LED)は2011年5月に、米国で自社ブランドのLED販売を発表しています。当初、米国で販売する製品は従来の白熱灯ソケットを活用できるLEDランプ、ハロゲンランプや蛍光灯などを代替する製品のようです。

 サムスンLEDは2010年に、エキュティブランズ(Acuity Brands:米国の照明機器企業)と提携関係を築き、米国市場進出の準備を進めてきました。そして、エキュティブランズにLED照明モジュールを供給するだけでなく、米国市場向け製品開発も進めています。米国市場進出を果たした後には、欧州市場などへと展開する考えのようです。

 一方、LGイノテック(LG Innotek)も米国進出に着手しており、2011年5月の「LIGHT FAIR International 2011」で、LED照明モジュール戦略製品を発表しました。このようなLGグループ(以下、LG)の動きは、LGイノテックのLED照明モジュール供給事業と、LG電子のLED照明製品事業の組み合わせで、量産効果と照明市場動向把握を狙っているものと推察されます。

 LGイノテックは、既に欧州市場に進出しており、2010年末にはズントベル(Zumtobel Lighting Group:スイスに本拠地を置く照明企業)と、LED照明の共同開発および販売協力に関するする契約を締結しています。このことからも、LGのLED照明事業における部品供給事業重視の方針が裏付けられます。そして、この事業開発方針ならば、LED照明事業において、サムスンに対抗できるものとなるわけです。

 どうやら、LED照明事業開発の海外市場展開は、サムスンが製品事業開発先行で、LGが部品供給事業開発先行で、それぞれ進められるものと推察されます。

 このようにサムスンとLGの両社がいつも海外市場への進出に積極的なのは、韓国の国土と人口のいずれもが、日本の約3分の1という国内市場規模の小ささに起因しています。

 一方、北米市場は世界のLED照明市場の約30%を占め、しかも2010年から米国(連邦/地方の両政府)は従来の照明をエネルギー効率の高い製品に交換する事業を推進しており、LED照明使用に対するインセンティブプログラムが米国23州で施行され、ロサンゼルスなど30余りの都市では大規模なLED照明普及事業が進められている、という追い風もあります。

 また、中国市場でもLED照明の普及が進んでいます。しかも、中国国内にはLED照明メーカーが5000〜1万社あるとされます。今後は世界市場においても、LED照明分野の価格競争が加速するものと推察されます。


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