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三洋HITの開発と20年前のGENESIS計画小寺信良のEnergy Future(3)(3/3 ページ)

小寺信良氏の次世代エネルギー連載。今回は、太陽電池開発のスタートが早かった三洋電機に、太陽電池の開発経緯と構造について聞いた。

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太陽光発電のビジョン

 太陽光発電のビジョンを語る上で、三洋電機元社長の桑野幸徳氏が提唱した「GENESIS計画」は外せないだろう。太陽電池は夜に発電できない、天候で出力が左右されるというデメリットがある。これをカバーするために、世界各地に点在する砂漠に大規模な太陽光発電システムを設置し、その間を電気抵抗ゼロの超電導送電線で接続、地球全体で電力を融通し合うという、巨大電力ネットワーク構想が、「GENESIS計画」である。

 桑野氏の試算によれば、変換効率10%の太陽光発電システムを全世界の砂漠の4%に敷設するだけで、全世界のエネルギー(2010年)をまかなうことが可能であるという。これが発案された1989年当時の技術的な水準からすればトンデモ理論であったかもしれないが、現在の技術では実現可能な話になってきている。実際にこの計画が発表された翌年に三洋電機はHITの開発に着手し、97年に実用化したわけである。

 一方の送電に関しては、現在2つの課題があるようだ。1つは超電導による送電の実現である。超電導とは、特定の金属や化合物を超低温に冷却したときに、電気抵抗がゼロになる現象だ。しかしほぼ絶対零度近くまで送電線を冷却するために莫大なエネルギーが必要となるという矛盾が発生する。

 そこで現在注目されているのが、「高温超電導」である。高温とはいっても絶対零度からすれば、という話で、100度とか1000度とかの話ではない。液体窒素の沸点である-196度(77K)以上で超電導現象を起こす物質がいくつか発見されている。これを利用した送電の実用化が、現在の課題の1つだ。今年住友電気工業などがいよいよ、横浜の変電所から一般家庭へ高温超電導ケーブルを使った送電の実証実験を開始する。

 実は超電導が発見されたのは意外に古く、1911年4月8日にオランダ・ライデン大学の物理学者、カマリン・オンネス教授の液体ヘリウム水銀冷却実験中のことであった。発見から100年、いよいよこの原理を応用した送電の実用化が始まるわけである。

 もう1つの課題は、直流送電である。ご存じのように現在の送電システムは交流をベースに作られている。しかし太陽電池で発電される電力は、直流である。これを損失なく送電するためには、交流に変換せず、直流のままで送電する必要がある。当然従来の送電インフラは使えないだけでなく、これを家庭内に引き込むとなると、各家庭に直流コンセントを新たに設置しければならない。

 現在家電製品は、交流を直流に変換したのち利用している機器も多く、それらは対応できるかもしれない。しかし実際にそれぞれの機器は異なる電圧で動いており、変圧する必要がある。交流ならトランスを使って簡単に変圧できるが、直流をそのままで変圧するのは難しく、いったん交流にコンバートして変圧したのち直流に戻すと、ロスが発生する。

 直流送電を実現するには、これまでの電気に対する一般常識を全てゼロリセットしなければならなくなるため、社会に対しての摩擦が大きくなるだろう。いっぺんに変えるのではなく、徐々に変えていくしかないのだが、少しずつでは家電製品の直流対応はなかなか進まない。結局最後は交流にすることになれば、いくら送電にハイテク技術を投入しても、コンバート時の電力ロスが無視できない大きさになるだろう。

 GENESIS計画そのままの実現には現場レベルでの障害がまだまだ多いが、スマートグリッドという考え方の先駆けとなったことには違いない。あとはいかにして高効率かつ現実的なものに落とし込んでいくか、という部分の開発が残っている。

(取材協力:三洋電機)

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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