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三洋HITの開発と20年前のGENESIS計画小寺信良のEnergy Future(3)(2/3 ページ)

小寺信良氏の次世代エネルギー連載。今回は、太陽電池開発のスタートが早かった三洋電機に、太陽電池の開発経緯と構造について聞いた。

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HITの構造的特徴

 高効率をウリにするHITは、実を言えば偶然と必然の産物であった。当時のアモルファス太陽電池は、低照度でも発電するが、高出力(高電流)が出せなかった。電卓や腕時計のような小さく省電力の機器には向いているが、大型ソーラーパネルには向かないと考えたのである。そこで三洋電機は、単結晶シリコン系の開発に着手した。1990年のことである。

 通常の単結晶シリコン太陽電池では、p型の結晶の表面に不純物を熱拡散させてn型の層を作る。いわゆるpn接合型ダイオードと同じである。ところが三洋電機はこれまでアモルファスしか作っていなかったので、pn接合を作る装置を持っていなかった。そこで仕方なく、アモルファス層をプラズマで形成して、シリコンの素材評価を行なっていた。

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図1 一般的な単結晶シリコン太陽電池の構造

 しかしこの方法では、思うような変換効率を引き出すことができなかった。そのときある研究員が、アモルファス太陽電池同様、不純物を含まないi層を入れてみたら、と言い出した。アモルファス太陽電池の構造は、p層とn層の間にi層がある、pin構造である。もともとそっちにはあるんだから、貼っつけてみろよ、という話になった。

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図2 一般的なアモルファス太陽電池の構造

 これでシリコン素材を評価したところ、飛躍的に効率が上がることが分かった。分かってみれば原理は簡単なことで、通常はp層とn層の間を電気が行き来する際に、電荷を運ぶキャリアの再結合が起こり、ロスが起こる。i層はこれを抑制するためのものだ。HITとは、従来の単結晶型とアモルファス型のハイブリッドなのである。

 現在商品化されているHITは、n型単結晶をアモルファスシリコン層で上下から挟み込んだ構造になっている。この対称構造には、幾つかのメリットがある。

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図3 HITの構造

 1つ目は高温に強いことだ。太陽電池は温度が上がると最大電圧(開放電圧)が下がる。これは単結晶でもアモルファスでも変わらない。しかし、電圧がどの程度落ちるのかは材料固有の性質(バンドギャップ)に依存する。このため、単結晶よりもアモルファスの方が電圧が下がりにくく、発電できる量もあまり下がらない。HITが夏場に強い理由だ。

 2つ目は、薄型化である。単結晶はシリコンの使用量が多いために高価だと言われており、最近では薄型化を進めている。薄型化で問題になるのは、熱による「反り」である。通常、材質の違うものを貼り合わせると、熱膨張率が違うために、高温になると反りが発生する。しかしHITは上下対称構造になっており、製造時の温度も低く、反りにくい。そのため、通常の単結晶型よりも薄型化に耐えられる。

 実は単結晶型で変換効率を上げるためには、なるべく多くの光が発電層を通過する必要がある。そのためには、純度の高いシリコンを大量に使って、発電層を厚くするのが近道だ。当然コスト削減のために薄型化すれば、当然変換効率は落ちる。薄くするほど、光が発電する前に向こう側に通り抜けてしまうからである。

 この相反する命題をクリアするためには、光を太陽電池に直交させるのではなく、なるべく斜めに横切らせる必要がある。現在のHITでは、表面に凹凸処理を施すことで、反射を抑えるとともに、光を拡散させて中を横切らせる構造になっている。

 3つ目は、両面発電である。上下が同じ構造であれば、当然上からでも下からでも光が入れば発電する。ただ論理的には、一方向から直進する太陽光を平らな面の両側に同じように当てることはできないので、単純に発電量が2倍になるわけではない。さらに安定した両面発電が可能なセルは現在のところ選別品に限られるため、高価格であり量産も難しい。さらに裏面にも光を通すためのフレームや設置枠など、通常とは違った構造が必要になる。今のところ採用例は少なく、三洋電機HIT全体の出荷量からすると1%程度しかないという。

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