「元が取れない太陽電池」という神話:小寺信良のEnergy Future(13)(1/4 ページ)
太陽電池を製造するには、高温でシリコン原料を溶かさなければならない。このときに大量の電力を使う。さらに太陽電池には寿命がある。このため、「太陽電池は元が取れない」という意見をよく耳にする。実際はどうなのか。火力発電や原子力発電とも比較した。
そろそろ企業の決算報告が出そろう時期となった。大手家電メーカーからは軒並み赤字の数字が出ているが、電力各社も東京電力*1)を除く9社のうち、7社が最終赤字となった。原因は、原子力発電所の停止後、火力発電所で代替し、燃料費がかさんだためとされている。
*1) 東京電力は2月7日現在、2011年4〜12月期連結決算を発表していない。
現在日本にある発電用原子炉54基のうち、稼働中のものは3基。2012年4月中には全原子炉が停止する見込みだ。稼働可能なものの多くは定期点検による停止だが、地元の反発などが強く、再稼働は難しいだろう。そうなれば、火力発電への依存はさらに長期化する可能性もある。
火力発電は出力調整がしやすいため、これまではピーク時の需要を稼ぐためのマージン分として使われてきた。それが常時稼働することとなり、需要の変動に対するマージンが少なくなっている。
さらに火力発電は、運転のために枯渇資源である石油などを消費し、燃やすことでCO2を排出するため、環境負荷が高い発電装置である。コストの問題だけにとどまらず、長期間このまま使い続けるわけにはいかないだろう。これをカバーするためには、原子炉ほどの大電力ではないにしても、太陽光や地熱、風力、潮力といった小規模な再生可能エネルギー装置の稼働が必須である。
日本の立地条件から考えれば、マルチな発電システムを併用していくことは、そもそもマストだったはずだ。これが地続きのヨーロッパ諸国ならば、電力が足りなければ他国から輸入し、余剰があれば輸出できる。電力は1つの貿易商品なのだ。いざとなれば対応策があるヨーロッパ諸国でさえ、多くの発電方法を実際に稼働させて、リスクを分散している。
一方われわれは原子力発電を、ブラウン管や電子レンジのように、枯れた技術だと勝手に思い込んでいた。日本のように隣国との間が海洋に阻まれている島国の中で、原子力発電というたった1つの発電方式に集中するような政策を採ってきた*2)のは、今から考えれば異常であったわけだ。
*2) 東日本大震災以前は、石油価格高騰と新興国の石油消費量増加、中東石油への極端な依存(87%)、CO2排出量削減の実現、高速増殖炉(もんじゅ)による燃料サイクル確立の早期実用化などを理由に、発電電力量に占める原子力発電の比率を2009年時点の29.2%からさらに高める議論が続いていた。「2020年をめどに発電電力量に占める『ゼロ・エミッション電源』の割合を50%以上とする中で、原子力発電の比率を相当程度増加させることが目標」(エネルギー白書2010、関連記事)。
太陽光の環境負荷は大きいのか、小さいのか
現在環境負荷が少ない再生可能エネルギーの中で、最も現実的な選択肢として見られているのは、太陽電池による太陽光発電だ。ここでは太陽光発電の金銭的なコストではなく、発電施設としてのライフサイクルの中で、どれぐらい環境負荷があるのかに注目してみたい。
太陽電池を使った発電施設を作る際には、製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用までの各段階でそれぞれ環境負荷がかかる。これらの段階全ての負荷を合計したものを、「ライフサイクルアセスメント」(LCA)として評価できる(図1)。
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