冷たいモーターが333km走行のカギ:電気自動車 SIM-LEI(3)(2/2 ページ)
SIM-Driveが開発した「SIM-LEI」は1充電当たりの走行距離が333kmと長く、ほぼ同じ容量の二次電池を搭載した他社製EVの1.5倍以上走行できる。秘密は冷たいモーターにあった。
モーターの出力を高めるための3つの工夫
なぜ、アウターローター方式を採ったのだろうか。外側の回転子に永久磁石を配置できるため、従来のモーターよりも永久磁石の数を多く、磁石の面積を広くとることができるからだ。「磁石の数に比例した出力が得られ、大きなトルクを生み出せた」(新井氏)。
モーターの出力を増やす工夫はこれ以外にも、2つある。
まず、コイルの配置だ。モーターが生むトルク(回転力)を高めるためには、密にコイルを巻けばよい。少ない電流であってもコイルを巻いた数に比例して力が出せる。どの程度密にコイルを巻いたかは、コイルの占積(せんせき)率に現れる。コイルの巻線機メーカーと協力して占積率58%を実現した。
次に、磁界解析による最適設計*2)を利用したことだ(図4)。「計算機シミュレーションで発生する磁場を確認し、永久磁石の形状や配置、コイルの配置などを最適設計した。1回の設計で当初の予定通りの性能が実現できている」(新井氏)。
*2)JSOLが開発した電磁界解析ソフトウェア「JMAG」を用いた。
コイルを巻いた固定子のヨークで発生する磁場と、外側の回転子の永久磁石が発する磁場を計算して、その2つの相互作用からどのような力が発生するかを確かめて設計した。
インバーターには課題あり
EVのモーターを駆動するには、直流を交流に変換するインバーターが欠かせない。インバーターの変換効率が低ければ、二次電池に蓄えた電力が無駄になり、回生にも悪影響が出る。
インバーターの性能にはさらなる改善が必要だという。「走行時のEVは実に静かだ。このように静かなEVだと、インバーター用の水冷ポンプ*3)が意外にうるさく感じた。将来は水冷ポンプのないEV、効率の良いインバーターを採用してユーザーが快適に乗れる車を目指したい」(新井氏)。
*3)インバーターの損失を低くすれば、熱として失われる電力を少なくでき、水冷ポンプが不要になる。例えば、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体を内蔵したインバーターを採用するといった手法がある。
数字で見る駆動系の工夫
SIM-LEIの駆動系の全体像を図5に示した。
4つの車輪全てにインホイールモーターを内蔵し、二次電池は前輪用と後輪用に分けた。電池に故障が生じたとしても、駆動力を失わないためである。
インホイールモーターの最大出力は1個当たり65kW(図6)。「トヨタ自動車のプリウスなどのHV(ハイブリッド車)はモーターを1つだけ搭載しており、出力は約60kW。SIM-LEIはHV4台分のモーターを1台に積んでいるといえる」(新井氏)。
これまでに紹介したさまざまな工夫により、モーターの性能を高めており、トルク定数1.8Nm/Aという値に性能の高さが現れているという。なおトルク定数とは、モーターに電流を通したときにどの程度の力に変わるかを示した値であり、定数値が高いほど電流が少なくて済む。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 2.7兆円分の石油を節約できる電気自動車「SIM-LEI」の秘密
(1)電気自動車は節電に逆行するのか - 空気抵抗をどうしても減らせない
(2)走行距離を伸ばすために不可欠な努力 - 「乗り心地が最悪」という常識を打ち破る
(4)モーター内蔵タイヤは重く、路面の影響を受けやすくなるのか - 1回充電で333km走行可能、SIM-Driveが先行開発車を完成
100km/hの定速走行時でも305km走行