「乗り心地が最悪」という常識を打ち破る:電気自動車 SIM-LEI(4)(1/3 ページ)
SIM-LEIはタイヤの内部にインホイールモーターを備えたことで、333kmという走行距離を実現できた一方で、タイヤが重くなってしまった。一般にはタイヤまわりが重い車は乗り心地が悪くなるといわれている。この問題をどう解決したのだろうか。
1充電で333kmを走行するために、「SIM-LEI」にはさまざまな技術が詰め込まれている。効率が良く回生能力にも優れたモーターを採用し、車体の空気抵抗を減らしたことなどだ。
だが、無理に走行距離を伸ばそうとすると、快適性や安全性、さらには車体の量産性が悪くなる可能性がある。例えば、大陸横断が可能なレース用ソーラーカーは、燃費という観点では素晴らしい性能を発揮するが、快適性は最悪ともいえる。
第4回では、SIM-LEIのシャーシの設計について触れ、走行距離を伸ばしながら、どのように快適性などの課題を解決したのかを解説する。
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インホイールは乗り心地が悪くなる
SIM-LEIは、タイヤの中央部にモーターを備えたインホイールモーターを採用したことで、燃費(電費)を高めている。ただし、モーターは永久磁石とコイルの固まりであり、かなり重い。
自動車の車体を単純なモデルに置き換えて考えると、ホイールと車体がスプリング(ばね)を通じて上下に連結していると見なすことができる(図1)。ホイールが軽ければ軽いほど、「ばね下」が路面の凹凸に追従しやすくなる。このため自動車の設計ではばね下、すなわちホイールなどの重量を軽減することが乗り心地の良さにつながるという常識がある。
この議論が正しいとすれば、SIM-LEIはホイールまわりが重いために路面の凹凸に追従できず、がたつきが生じて乗り心地が悪くなるはずだ。「インホイールモーターを採用すると、乗り心地が悪化するのではないかという根強い意見がある」(SIM-Drive社長の清水浩氏)。
そこで、SIM-LEI開発に当たり、ばね下質量を2倍に増やした場合のばね上(車体)の振動レベルを評価した。結論から言うと、かえって乗り心地が向上する。「ばね下質量が増えると、共振周波数が下がる。このため、高速走行時には振動レベルが下がる。道路の継ぎ目など細かい凹凸がある波状路でも乗り心地が向上する」(開発監兼シャシー開発部部長を務めたSIM-Drive技術顧問の吉田寛氏、図2)。ばね下の慣性質量が大きいことから、路面からの入力に対してばね下が振動しにくい効果が効くということだ。
「従来の振動論では同一変位に対して周波数を上げたらどうなるかを調べていた。車速が上がることは自動車の運動エネルギーが上がることなので、衝撃入力が速度の2乗で効いてくる。従って、高速走行時の振動レベルが低いと言うことは、入力が非常に小さいことを意味する」(吉田氏)。
高速走行時や細かい凹凸がある波状路では問題がないという主張だが、低速走行時や大きな凹凸がある波状路では問題が起きるのではないのだろうか。「そのような条件では、タイヤやスプリングのたわみ動作が非線形になり、振動レベルは大きくなる。しかし、ショックアブソーバーの調整によって広い範囲で振動を吸収できることが計算から分かった」(吉田氏)。
ばね下が重いと乗り心地が悪くなるという常識には、正しくない場合があるということだ。それではなぜ、このような常識が生まれたのだろうか。吉田氏によれば、自動車をめぐる過去の設計や技術状況にとらわれていたためだ。
ガソリン車など、車軸で動力を伝達する方式の自動車では、左右の車輪が異なる回転数で動くようディファレンシャルギア(デフ)を備えており非常に重い。そこにサスペンションが付いている。後輪の支持剛性、特に横方向の横剛性が低い上に、ショックアブソーバーやサスペンションの設計が洗練されておらず、摩擦が大きかったり、非線形な特性を持たせることができなかったという。このような構造の自動車が舗装率の低い道路を走行していた。「以上のような条件では、実際に乗り心地が悪かったのだろう。SIM-LEIのような構造を採って初めて、ばね下が重いことがよい効果を生む」(吉田氏)。
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