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阪大、初の日本一! ほんまに車が好っきやねん第8回 全日本 学生フォーミュラ大会 レポート(4)(3/3 ページ)

最終回は、阪大が優勝を勝ち取った真の理由に迫っていく。「車が好き!」という気持ちが、彼らを強くした!

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チーム全員の思いを1つに

 大会当日はこれまで行ってきたことがすべて報われ、電光石火のごとく優勝を勝ち取ったかといえばそんなことはない。レースを含め、大会はそんなに甘いものではないのだ。

 まずオートクロス後、エンデュランスに向けて車両チェックを行ったところ、スタビライザのボルトが緩んでいたりメインハーネスが断線寸前だったり、といった思わぬトラブルが待っていた。今年の大会では天気にも恵まれず、今年の夏はほとんど雨が降らなかったこともあってウェット路面時の走行データが限りなくゼロに近い状態だったという。

 冷静に路面状況を読み、アクセラレーションで1位、スキッドパッドで3位という結果だったが、オートクロスでは15位という優勝から大きく遠ざかる結果であった。

 これは大阪大学に限らず、ほとんどのチームが想定外のトラブルに遭遇するのだ。そのような中で結果を出せたのは「チーム力」だと筆者は確信した。

 筆者も毎年、二輪の祭典「鈴鹿8時間耐久ロードレース」にメカニックとして参戦しているが、トラブルがないレースウイークは経験したことがない。チーム全員の思いが1つになって初めて結果というものがついてくることは、これでもかというほど経験してきている。

 学生フォーミュラに参加しているチームによっては、授業のカリキュラムとして学校を挙げて取り組んでいるところもある。しかし大阪大学は――いい方は悪くなってしまうが――ごく普通の大学にある1サークルとして活動しているにすぎない。

 筆者が一番知りたかったのは、サークルとしての活動だけで、数あるチームを押しのけて優勝を勝ち取ることができた真の理由である。サークルとしての体裁である以上、活動することに「強制」や「義務」は存在しておらず個々のモチベーションだけで成り立っているのだ。モチベーションの維持というのは、学生ならずとも非常に難しいことであるが、そこに最も大きな存在として確立していたのは、

 「車が好き! 車を作りたい!」

というチーム全員の一致した揺るぎない思いであった。

 もちろん大会の結果は1年間活動を行ってきた集大成であり、対外的に評価される場であるから重要であることに違いはない。

 しかし彼らは、

 「車を作りたい! という思いをベースに活動しているので、結果がすべてではありません」

といい切った。それを証拠に、来年度の車両の仕様は浪速Xをベースに細かな修正だけで望むのかと聞いたところ、

 「いえいえ(笑)。サスペンションの構造をごっそり変更すると思います。量産車でいうマイナーモデルチェンジではなく、フルモデルチェンジですね。そうじゃないと、新しいメンバーが車を作るという楽しみを味わえないですから」

と、筆者が想像していたこととまったく違う答えが返ってきたのだ。

 結果が出ている仕様を一新するのは非常に勇気が要ることである。それを証拠に、大ヒットしている量産車はフルモデルチェンジをしても、あまり大きな変化を加えにくい傾向があることはご存じだろう(いまより売れなくなるリスクを背負いにくい)。つまり、人間は良い結果が出ている物を目の前にすると、リスクを背負ってまで大きな変化を加えようと決断しにくいのだ。

 数年間の経験を積み重ねていけば、年々チームとしてのレベルも技術も向上していくだろうという先入観があるが、学生ということを踏まえると決してそうではない。なぜかというと、知識と経験を重ねた主力メンバーは必ずいつか卒業してしまうという大きな問題が常に存在しているからだ。

 つまり学生フォーミュラで結果を出すためには、集積してきたノウハウを惜しむことなくチーム内に波及して引き継ぐことが非常に重要となる。もちろんそこにはモチベーションの温度差という壁も存在するだろう。だからこそ大阪大学は、

 「自分たちで作るんだ!」

という重要な要素を意識的に作り出すため、常にフルモデルチェンジを心掛けているのだ。簡単なようでなかなか決断できないことである。

 いくら車好きでも、先輩が作った車の手直しだけではモチベーションは維持できない。「自分たちの車だ!」という思いがあるからこそ、チームが結束して大きな力となる。そして全員の思いが詰まった車は素晴らしい結果へと導いてくれるのである。なかなか思うような結果が出ないと悩んでいるチームはぜひとも参考にしていただきたい点だ。過去に繰り返し行ってきた工夫の集大成ともいえる車は、過去のメンバーの思いが詰まった車である。

 いまのメンバーや将来参加するメンバーのモチベーションを維持するためには、自分たちの車だと自発的に思える環境作りが必要なのだ――と筆者は痛感した。少なくともいままで集積してきた走行データや車作りのノウハウは今後に生かすことはできるのだ。

来年への意気込み

 最後に大阪大学フォーミュラチームより、来年に向けた意気込みを語ってもらった。

 「日本一、力強いチームを目指します!」 (2011年チームリーダー 久堀 拓人さん)


写真左より2010年チームリーダー 奥西 晋一さん、2011年チームリーダー久堀 拓人さん

 「来年もカワサキパワーを爆発させます!」 (2010年パワートレイングループ リーダー 和泉 恭平さん)


写真左より2010年パワートレイングループリーダー和泉 恭平さん、2011年同グループリーダー時野谷 拓己さん

 「来年も全員のベクトルを合わせて頑張ります!」 (2011年ボディリーダー佐藤 俊明さん)


写真左より2011年のボディグループリーダー佐藤 俊明さん、サスグループリーダー 田谷 要 さん、電装グループリーダー田辺 誉幸さん

 勇気あるフルモデルチェンジを行う大阪大学の第9回大会の結果がいまから楽しみである。

Profile

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成や完成検査員(テストドライバー)を経て現在はスポーツカーのスペシャル整備を担当している。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



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