PLM的な情報管理なんて実現しない?:PLM導入プロジェクト、検討前に読むコラム(4)(2/2 ページ)
製品ライフサイクル全体を管理するためにはPLMを基軸としたシステム作りが急務。PLM導入・改善プロジェクトを担当する際に事前に知っておくべき話題を、毎回さまざまな切り口から紹介していきます。
成功企業に共通するのは“3つの要件”のクリア
これらのPLMシステムの導入に成功している企業にはいくつかの共通点があります。
PLMシステム導入を成功させている事例に共通する、システム構築の際にクリアした3つの要件を紹介したいと思います。
要件1:PLMで管理されるデータはコンテンツとしてではなくコンテキストとして扱う
PLMには、パーツや部品表情報および図面やドキュメントなどの製品に関するさまざまなデータが管理されています。
これらのデータを見ることで部品の重量やコストおよび仕入先の情報を得たり、図面の作成者や作成日および承認の履歴などを確認することが可能となります。これらの情報は製品設計にかかわる誰もが共通で必要とする情報といえます。
このように情報そのものを管理しているデータのことをコンテンツと呼ばれています。
データを活用する目的が同じ場合はコンテンツ状態のデータ管理で十分です。
一方コンテキストデータとは、データを活用する状態(背景)や与えられた条件に合わせて、必要な形で提供するデータのことを指します。
PLMシステムは製品のライフサイクルにわたる情報を統合管理していますが、PLMにアクセスする人の部門や業務によって見たいデータの形は異なります。
例えば、設計変更情報1つにしても、設計部門では原因から処置および再発防止にわたる一連の対策がどのように実施されているのかを把握する必要はありますが、購買部門としては新しく採用された部品に関する仕入価格や納期に関する情報が気になりますし、製造部門では新規部品をいつから、どのラインで適用を始めるのかを考えなければなりません。
同じ設計変更情報1つを取ってみても部門や業務内容によって必要とする情報が異なるため、PLMのような製品のライフサイクルにわたるデータ管理を行うシステムでは、情報にアクセスする人の状態や条件(コンテキスト)を踏まえた情報を提供できるようにしてあげる必要があります。
モノづくりはしばしば、設計情報を後工程作業で作成される成果(媒体=メディア)への転写活動であるといわれています。
情報の転写を行う先は設計・製造プロセスの次工程ではなく、モノづくりのV字プロセスの対面に当たる工程を指しています(図1)。
PLMというシステムで管理されている同じ情報を目的とタイミングが異なる部門で有効活用させるには、コンテキストを考慮した形で必要な情報のみ必要な人に提供できるようにしないと情報は有効活用されません。
同じ目的でデータにアクセスしているPDMシステムの場合、データはコンテンツとしての管理形態で十分ですが、さまざまな部門が同じシステムで管理されているデータにアクセスするPLMの場合は、コンテキストを踏まえてデータを管理していく必要があるといえます。
要件2:モデルベースフレームワークによるPLMシステムの構築
製品のライフサイクルにわたる情報を管理するPLMシステムには、ライフサイクルのさまざまなフェイズの業務で要求される機能が求められます。
最近のPLMシステムもそれに対応して数多くの機能を持つようになりましたが、モノづくりは企業ごとの文化が反映されていることもあり、お仕着せの機能ではそのまま使えないことも多々あります。
このようなPLMを利用する環境の特性が、PLMシステム構築時にカスタマイズ作業が発生する原因でもあり、これを避けて通れません。
よってPLMシステムは柔軟に機能の追加開発や変更できることが要求されてきます。
また、PLMシステムの追加開発や変更に時間がかかるようでは意味がありません。現場の業務プロセスはどんどん改善され変わっていっているのにシステムが従来のルールのままでしか動かないという事態は避けなければなりません。
PLMシステムの導入を成功させる手法としてはアジャイル開発によるシステム構築のアプローチが効果的です。
アジャイル開発とはイテレーション(反復)と呼ばれる短い開発期間を定め、成果物を完成させ、イテレーションのサイクルを繰り返すことでリスクを最小化してシステムを構築する手法です。
このアジャイル開発でPLMシステムを構築するにはPLMシステム側のカスタマイズ手順もそれに準拠している必要があります。
モデルベースフレームワークによるユーザーレビューを巻き込んだアジャイル開発
このような要求に応えるべく、最近のPLMシステムにはモデルベースフレームワークを採用してアジャイル開発を可能にしているものが出てきました。
モデルベースフレームワークとはシステムで管理する対象をモデルとして定義し、このモデルに沿って開発を進めるアプローチです。
このようなモデルベースを可能にしているシステムでは、システムの仕様を記述するのではなく実際にリアルタイムで実装して動きを確認し、設定内容は自動的に仕様書として作成されるので仕様書を作成する必要がありません。また、コンパイルといった手続きを踏まずに即座に機能を確認することを実現していますので、ユーザーの要望を聞きながらシステムを開発していくことが可能です。
加えて、モデルベースフレームワークでは、面倒なデータベースやアプリケーションサーバなどのインフラに対する詳細な設定をあまり考慮することなくPLMシステムの開発に集中することができます。
PLMシステムの導入には現場の意識改革も必要になってきます。現場の意識改革は簡単にはいきません。意識改革を進めるにはやってみせて効果を実感させることが近道です。
意識改革が伴うPLMシステムの導入には、一気にシステムを導入するビックバン型より、効果を実感しながら導入できるアジャイル型のアプローチの方が効果的といえます。
要件3:利用ユーザー数の増加によるコストの問題を解決
PLMシステムの導入が進まない大きな理由にコストの問題があります。
設計開発業務の効率化を実現するために導入されるPLMシステムは設計部門だけに導入してもあまり効果は期待できません。
そこで、PLMシステム導入時には購買や品証および製造の部門まで含めた関係者まで広めてシステム計画を立案するのですが、設計部門の利用ユーザーが100人でも、購買や製造などを含めると数百人になったりします。
また昨今では、すべての業務を自社内で行っているわけではないため、外注先まで含めるとすぐに千を超える人たちでシステムを活用していかなければなりません。
PLMシステムはほとんどの場合利用者のヘッドカウントでソフトウェアライセンス費用が決まってくるため、設計部門の100名の利用ユーザー数であれば投資可能な金額でも、ひとたびライフサイクルという範囲でシステム化を考えると現実可能な金額では収まらなくなってきます。
しかし、最近ではPLMシステムをライセンスフリーで提供しているものも出始めました。
ライセンスがフリーなので何人で使おうとシステムには費用がかかりません。フリー(無料)となると「本当に使えるシステムなのか?」と心配になりますが、そこはフリーの良さを生かし、本格的に投資をする前に実際に利用して自社のニーズに合っているのかを確認することも可能です。
ネームドライセンス、コンカレントライセンス、無制限ライセンスおよびフリーライセンスとPLMシステムの販売形態もさまざまな形が登場しています。
このような多様な選択肢の中から自社の投資レベルに合ったPLMシステムを選択することをお勧めします。
ここに紹介したPLMシステム構築の成功のポイントはどれもPLMシステム構築を成功させるためにクリアする必要のある条件といえます。
ERPシステムが導入され、企業の中に分散されていた会計情報が、“One Fact One Place”の名の下に有機的に関連付けられ企業内の活動状態を数値で見えるようにすることができました。
同様に、PLMシステムも製品情報を中心に、製品を作るために必要な情報を関連付けた一元管理を実現し、製品をキーに必要な情報を簡単に取り出せるようになることで、モノづくりに必要な情報の所在を見える化することができます(図2)。
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企業活動にとって、お金の流れとともに“もの”の流れを把握し活性化することは非常に重要なテーマで“もの”の流れを見える化するにはPLMシステム構築が1つのソリューションとなります。
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