東大、念願の総合優勝! さよならSkywave650:第7回 全日本学生フォーミュラ大会 レポート(4)(3/3 ページ)
東大、出場7回目にして悲願達成! そして、メンバーとともに戦ってきたエンジンが、チームを卒業していく。
ITを過信して目的を忘れるな
3次元CADでのモデリングやデータ管理については、最低限は行うが、他校と比較して特別優れているわけではないようだ。モデリングのやり方も人それぞれだし、設計内容の管理にも、基本的に担当1人1人に任せているという。他人がデータを修正しづらい、実機とモデルと形状が合っていないなどの問題はあるが、フォーミュラ車両を作るうえでは大きな支障はないとのこと。管理面に時間をかけるより、多少やりづらい環境の中で、お互い尋ね合いながら問題を解決していく方が、自分たちにとっていい経験になると考えているようだ。編集部注*あくまで学生フォーミュラの活動の場合です
東京大学チームも、FEMなどの解析ソフトウェアを使っているが、現時点では、あまり深入りしないようにしているとのこと。「車体剛性にしても、エンジンにしても、まず実験で検証します。実験で出る値を見てからスタートしないとダメ、というのが僕らの基本的な考え方なんです。解析ソフトウェアは、あくまで性能の方向性を予測するツールです」(後藤さん)。
「エンジンパートの設計では、CFDとエンジン性能解析の2種類の解析ソフトを使っています。CFDソフトは今年から新たに導入しましたが、エンジン性能の中でクリティカルなポイントとなるリストリクタの内部流体解析のみで取り入れました。それ以外の解析は、エンジン性能解析ソフトがメインです」とエンジンパートを担当する岩崎 成記さんは説明した。
「(他校でも)サージタンク内流体解析などよく行われていますが、その影響が果たして車両全体の性能のうちで何%を占めるのかどうかが問題だと思います。またCFDの結果の流れがきれいなら、いい性能が出るのかどうかは、僕たちには正直よく分かりません。解析にたくさんの時間をかけることはせず、サージタンクを何個も何個も作ってひたすら実験しています」(岩崎さん)。
他校では、同じサージタンクを5年間使い続ける場合もある。もちろんチームの事情によりやむを得ない場合もあるが、東京大学については“あり得ないこと”だという。
「とにかく、『何をやったら、走行タイムが伸びるのか』を見失わないことが肝心だと思います。何でもかんでもやればいい、というものではありません。CFDをやると、何だか格好よく見えるけれど、設計の本質は格好よさやきれいな絵ではありません」(岩崎さん)。
「解析ソフトについては、もし卒業研究の課題なら、もっと頑張ってやるのかもしれませんが……、少なくとも、僕たちのフォーミュラ活動においては、まだ積極的に解析ソフトを開発に取り入れるレベルではないと考えています。解析ソフトを使わなくても、十分改善できる見込みがある部分がまだたくさんあるからです」(後藤さん)。
さよならSkywave650
「ずっと勝ち続けられるマシンを作りたいです。他校のレベルも上がってきていて、どんどん戦いが厳しくなってきていると思います。もっと軽量コンパクトにして、競技にもっと最適なパワーが出せるマシンを作っていきます。それには、今年の車両にも載っていたエンジンではちょっと無理があると考えています……」と来年度のテクニカルディレクターの甲斐 奨也さんはいう。
東京大学といえば、サイドエンジンレイアウトのユニークな車両。そんなレイアウトになる理由には、全長がとても長い「Skyawave650」(以下、「Skywave」)というエンジンが積んでいることにある。
「Skywaveは、とにかく重くて長い。利点は、ないです」(秋元さん)
「おまけに、馬力もあまり出ないし」(後藤さん)
えっ? それじゃあ、どうしていままで使ってきたの!? ――その理由について、秋元さんはこう説明した。
「僕の入学する前からあった『UTFF 01』よりSkywaveが積まれていました。デメリットが多いので、過去も『今回は変えよう!』と議論されてきました。それでも、いままで変えずに来たんです。ずっと採用し続けているうちに、車両もそれに合わせて進化してきましたし、あえて他校が使わなさそうなエンジンを選んで挑戦することに意義があると考えてきたこともあります。それに、エンジンだけで車両の性能が決まるわけじゃありません。それぞれ利点や欠点はありますが、どのエンジンでも勝てる可能性はあると思います。実際、今回もそれがかなったので」。
もしUTFFシリーズにSkyweveが載っていなけければ、これほどにエンジン出力と向き合うこともなかっただろうし、サイドエンジンレイアウトで他校にはないユニークな形状になることもなかっただろう。それに、得られた利点(旋回性能向上など)もあった。何より、デメリットを克服するための知恵の蓄積が、チームの力となっていった。
6年間にわたりフォーミュラ活動に携わってきた修士2年の秋元さんは、いよいよ来年に就職する。Skywaveもまた、彼とともにUTFFを去る。彼らが築き上げてきた技術と思いは、後の世代に脈々と受け継がれていくだろう。
「勝つための解は1つじゃないことを今回の大会で学びました。エンジンを変えることは、UTFFにとって大きなチャレンジになりますが、これからも頑張っていきます」(甲斐さん)。
次期UTFFのエンジンはコンパクトなものになるそうだが、少なくとも、普通の車両には絶対しない!! とのこと。サイドエンジンレイアウトに匹敵するユニークな新車の誕生が、いまから楽しみだ。
関連リンク: | |
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⇒ | UTFF01は、欠番!? UTFF闇歴史 |
学生フォーミュラ大会は、学生に、さまざまな問題解決に奮闘してもらうためのイベントでもある。先人が作ってくれた道をそのまま歩むだけでは、経験もそれなりのものになってしまうだろうし、面白みにもかける。やはり自らが開拓した道で成功した方が、喜びもひとしお。ただ、冒険し過ぎて車両が故障し、大会でまともに走ることができなければ、テンションは大いに下がってしまう。さあ、そのトレードオフをどうしようか! チームのレベルや方針に合わせて活動のやり方がいくつもあるようで、奥が深い。
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