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クランクシャフトはオイルクリアランスに要注意いまさら聞けない エンジン設計入門(5)(3/3 ページ)

クランクシャフトのベアリングが焼き付かないよう、メタル嵌合(かんごう)により適切なオイルクリアランスに追い込む。

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コンロッドベアリングとメタル嵌合

 さてメインベアリングに焦点を当ててきましたが、クランクシャフトにはもう1つ重要なベアリングが関連しています。それはコンロッドとクランクシャフトの連結部に組み込まれている「コンロッドベアリング」です。

 基本的な構造はメインベアリングと同じですが、オイル穴やオイル溝は設けられていません。荷重を受けるのは主に燃焼行程時のみで、メインベアリングに比べると荷重が少ないということが理由として考えられます。

 もちろんコンロッドベアリングにもメインベアリング同様にメタル嵌合がありますので、コンロッド側面にはサイズ番号が刻印されています(写真7)。

コンロッドキャップのサイズ番号
写真7 コンロッドキャップのサイズ番号

 クランクシャフトにはコンロッドベアリング用のサイズ番号(クランクピンの径)も刻まれているので、それと組み合わせてベアリングを選択します。

「じゃあ、太くすれば?」――それは、簡単にいかない

 これまで、「クランクシャフトとメタル(ベアリング)はとても過酷であり、トラブルが起こりやすい」と繰り返し説明してきました。

 この点だけを考えれば、

 「クランクシャフトを太くして強度を高め、メタルの幅も広くして単位面積当たりの荷重を減らす」

という工夫が思い付くと思いますが、実際にその手法が行われていないのには、大きな理由があります。

 まずクランクシャフトに注目して考えてみると、太くすることは、つまり、質量が増えることになります。エンジンの主運動部品の軽量化がエンジン性能に大きく影響するというのは前回説明しましたが、クランクシャフトも例外ではありません。そうとなると、クランクシャフトはできるだけ細く軽くしたいという方向性は当然の結果といえます。

 クランクシャフトを細くすることによるメリットは軽量化だけでなく、クランクピンとメタルとの摺動面における周速が遅くなり、フリクション低減に結び付きます。周速は軸直径に比例して変化し、太くなれば速くなり、細くなれば遅くなります。

 クランクシャフトを細くすることのデメリットとしては、当然ですが強度低下です。つまりクランクシャフトが曲がりやすくなり、ピストンからの荷重によって容易に変形することになってしまいます。

 クランクシャフトの曲がり(振れ)が及ぼす影響は先述した通りで、メタルとピンとが平行に当たらなくなり、偏摩耗や油膜切れによる焼き付きが発生してしまい、折損の可能性も高くなります。

 これらを考慮し、設計時には問題が起きないギリギリの範囲でクランクシャフトを細くしています。

 次にメタルに注目して考えてみます。メタル幅を狭くすることでクランクシャフトとの摺動面積が減ってフリクション低減に結び付きます。しかしデメリットとして、単位面積当たりの荷重が増え、焼き付きやすくなるという点があります。

 ここまでクランクシャフトに関するいろいろな説明をしてきましたが、とにかく「焼き付きの可能性」が常に付きまとう部品であることがお分かりいただけたと思います。

 それもそのはず、自動車を走らせるために必要である、

 「ピストンで発生する直線運動を円運動に変換する機関」

という大役を担っているからです。

 これほど大役を担っているからこそ、クランクシャフトはエンジン性能に直結します。レースの世界などでは、レース中という非常に限られた時間内だけエンジンが動けば良いという割り切った考えがありますので、極限までフリクション低減を図ります。

 例えばオイルクリアランスですね? オイルクリアランスが大きいと、その分クランクシャフトをストレスなく回転させることができます。ただしメタルに均一に荷重が掛かりにくいというデメリットもあります。ですから、レースの世界だからこそ追求できるセッティング手段といえるでしょう。

 周囲をあっといわせるような工夫で、耐久性を落とさずにクランクシャフトの軽量化やフリクションを低減できる方法をぜひ見つけてほしいですね。ピストンで発生した動力を無駄なくタイヤに伝えることができれば、当然、燃費向上につながりますから。

 石油の価格高騰で社会が混乱している現状を打破する燃費向上技術に、本解説が少しでもお役に立てることを筆者は強く願っております。



 次回は「バルブ」について詳しく解説する予定ですのでお楽しみに! (次回に続く)

⇒ 連載バックナンバーはこちら

Profile

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



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