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今日から始める設計ムダ取り健康診断のポイントリーン製品開発でムダな工数を30%削減する!(2)(3/3 ページ)

製造業の利益率は米国で十数%、アジアでも10%程度あるのに、なぜ日本企業はわずか数%なのか? 設計業務のムダな作業を削減し、ぜい肉の取れた“リーン”な製品開発を目指そう。

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ステップ(2):弱っていないか? IT活用の基礎体力

 ここでの検診は、設計現場の方々に焦点を当てていきます。現場技術者1人1人にとって、どの程度までIT化が進んでいるかを確認するのが狙いです。いわば、ITシステム構築のための事前の基礎体力測定となります。

 各自のIT活用術や定着度合いを見るために、49個のチェックリストが用意されています。設計業務をITに置き換えて、どれだけリーンな製品開発ができているのかどうか。その“アタリをつける”ためのものです。このチェックリストはアンケート設問形式になっており、制限時間60分以内で完成させます。

 あいにく、紙面の都合ですべて列挙できませんが、代表的な質問内容を以下にご紹介します(図2)。

図2 ITシステム構築のための事前の基礎体力測定(一部の抜粋例)
図2 ITシステム構築のための事前の基礎体力測定(一部の抜粋例)

 設計現場では、どのくらいITを使いこなせていますか。ワープロや表計算ソフトに始まり、CAD/CAM/CAE、ビューア、最近はPDM/PLMのデータ管理の仕組みなど、設計者を取り巻くITインフラは充実しています。しかし、使いこなせているでしょうか。

 製品情報のデジタル化に関して、設計データの作成の観点で12項目、設計データの管理の観点で8項目、用意しています。次に、業務処理がどれだけITで自動化できているかに関して、変更管理の観点で6項目、構成管理の観点で5項目、製造側への情報伝達の観点で4項目です。最後に、組織間の業務コラボレーションに関して、設計製造の業務連携の観点で8項目、進ちょく管理の観点で6項目です。全部で49項目のチェックをしていきます。

 この49項目は、設計現場のIT活用として、最も取り組むべきテーマで厳選したものです。もちろん、設計者1人1人の役割や能力によって、それぞれの項目の重要度や関心度は異なります。ムダを取るポイントも異なるわけです。すでに、IT活用が進んでいる人もいると思います。同じ部署であっても、別の人はできていないかもしれません。そのあたりを、大局的に見ていくのがステップ(2)のねらいです。

 例えば、表2を見てください。これはある企業で実施した例です。現場の技術者30人分の設計業務のメタボリック状態を数値化した結果です。特に、赤くなっている部分が、IT活用の基礎体力が弱っていた個所です。一方で、ITをしっかりと活用できている人もいます。つまり緑色の部分です。しかし、全体でみると非常に少数です。

表2 ある設計現場のアンケート実施結果
表2 ある設計現場のアンケート実施結果

 真っ赤な部分の分布が広がっていると、IT活用に問題を抱えている可能性が高いと仮定できます。それが、個人の問題だけでなく、部署全体に波及している場合もあります。ITツールが用意されているにもかかわらず、業務プロセスが従来のままで、IT本来の能力が発揮できていないのかもしれません。IT活用の良し悪しは、組織能力に大きく影響を与えます。

 ある意味でMRI検査のようなものだと、解釈してもいいと思います。赤くなってしまった個所は、何らかの血栓や梗塞の疑いのある部分です。どうしてそうなってしまったのか、ディスカッション形式で、本人と確認をしていくことになります。

 約1週間後に、49項目のアンケート結果とともに、1回30分程度の個人面談やスクール形式でのフォローアップセッションを持ちます。それぞれの人には、それぞれの事情やいい分があります。設計業務上の生活習慣に関して、本音を聞き出すセッションを持つようにします。

一応、流れは理解できたけど……

 さて、一般検診の流れの前半(ステップ(1)〜(2))を説明してきました。内容はいかがでしたか。特に、魔法の秘策はありません。いわれてみれば、当然の流れだと思います。設計業務のメタボリックが気になりだしたら、このような検診を受けてみることだと思います。

 しかし、正直にいって何かしっくりこない。そう思う読者の方もいると思います。1つには、この検診自体に自分にとってのうれしさが見えてこないからかもしれません。会社としてのビジョンより、現場の技術者1人1人が納得できるビジョンも必要かもしれません。

 例えば、家電メーカーに勤務している機構設計者のYさん(35歳)が、こんなことを話してくれました。

要するに、面倒な雑ワークは短時間でできるように簡略化したいんです。本当に没頭したい自分の専門である設計技術で造詣を深めたいんです。そして、明るいうちに仕事が終わり、プライベートな時間を平日でも持ちたいんです。もちろん、ノー残業デーはありますよ。でも、手放しで喜んで帰宅できないでしょ。だって、翌日は雑ワークの整理で徹夜なんですから。寝だめするために早帰りするのも虚しいです……

現場が納得できる「大義(ビジョン)」も必要

 このYさんの思いに、私はハッとしました。確かに、現場が納得できる現場の大義(ビジョン)は必要です。皆さんも、Yさんの視点で、もう1回検診内容を見直してみてください。そうすれば、ムダ発見のための検診も、納得感を持って取り組めると思います。

 例えば、こういうのはどうでしょうか

雑務は楽にサクサクできること! ― 自動処理の徹底でスピード2倍 ―

本当にやりたい仕事はキツイの大歓迎! ― 専門性の高い業務を10%追加 ―

休日以外にもプライベートの時間がほしい!  ― 平日に1日2時間のフリータイム確保 ―

 会社が勝手に決めたあるべき姿(To-Be)は、確かに現場からすれば、絵に書いた餅のように見えるので、あまり真剣に受け止めない傾向があります。そこまでは、たどり着けないだろうという気分になりがちです。どうせ取り組むならば、自分にとって得なことを考えましょう。それでいいと思います。さあ、始めましょう。自分のワークライフバランスのためにも、リーン製品開発の取り組みを。

 そういえば、ある部品メーカーの設計部長のTさん(48歳)が教えてくれました。

To-Be像を見ながら、自分のできること、つまりCan-Beを探しなさい

 自分にとって、おいしいCan-Beは何かを見つけることです。小さな成功体験を積み重ねていくことで、ある日すごく大きな山の頂上(To-Be)に、結果としてたどり着けばいい、そんな自分自身の個のビジョン作りも大切なことです。

*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***

 さて、新年度(平成20年度)がスタートしました。リーン製品開発のための健康診断(ワークショップ)を始めるには、非常に良いタイミングです。一日でも早く取り組んでみませんか。

 次回は最終回です。ステップ(3)の「服用するITの処方せんの作成」について、どのITがどんな業務に効果があるのか、IT活用のうれしさを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

筆者紹介

PTCジャパン株式会社  ビジネス開発推進室 ディレクター 後藤 智(ごとう さとし)

武蔵工業大学工学部卒。豪州ボンド大学大学院にて経営学修士(MBA)取得。CAD/CAM/CAEに関するアプリケーションエンジニア、PDM/PLMに関する業務コンサルタントやプロダクトマーケティングを歴任。現在は、製造業の製品開発プロセスに関する業務改革および情報化推進のビジネスアドバイザーを担当。


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