100%リーンな設計を実現する処方せんはコレだ!:リーン製品開発でムダな工数を30%削減する!(3)(1/4 ページ)
製造業の利益率は米国で十数%、アジアでも10%程度あるのに、なぜ日本企業はわずか数%なのか? 設計業務のムダな作業を削減し、ぜい肉の取れた“リーン”な製品開発を目指そう。
皆さん、こんにちは。PTCジャパンの後藤です。前回「今日から始める設計ムダ取り健康診断のポイント」は、設計業務のムダを発見するための健康診断(ワークショップ)の前半部分のお話でした。最終回の今回は、後半のステップ(3):「服用するITの処方せんの作成」の概要説明、そして3回シリーズ全体のまとめをしていきます。
これまでと同様に、設計部や製造部の若手中核リーダーを読者層に想定しています。今回はITツールの要素が加わるので、情報システム課のIT構築担当者の視点も含めました。どのITがどんな業務に効果があるのか、IT活用のうれしさを考えていきたいと思います。
そもそも「ITの効能」って、何だろう?
この連載記事について、何人かの読者の方々から貴重なメールをいただいています。例えば、機械メーカー勤務のKさんのコメントが非常に印象的でした。皆さんも、同様の考えをお持ちですか。
こんばんは。コラム読ませていただきました。身の回りの職場のことを思い浮かべながら、うんうんと何度もうなずいていました。
弊社でもようやく、いろんな業務にオートメーションといいますか、できるだけITの力を借りて、できるところはどんどん省力化しようとする動きが活発になってきています。
インプットすればすぐ答えが出るようなものを作ったりしているのですが、逆に技術が空洞化してしまうという弊害も出てきています。中身を知らずに設計していると、何か問題が起こったときに対応できないんですね。
そういう意味では、IT化する業務を選ぶべきなのか、それともIT化+αをやることで、技術の勘を維持すべきなのか。まだこれに対する答えは持ち合わせておりません。ぜひそのあたりもご解説いただけたらなぁと思いました。
確かに、IT化による技術者の能力低下を心配する話は、よく話題になります。なかなか一発回答できるほど、うまい秘策が見つかりません。ただし、明らかにいえることは、時間・空間を超える際の、業務の効率化や自動化については、ITはその能力を大いに発揮してくれると思います。
例えば、遠隔地同士で、リアルタイムに設計データを授受できれば、グローバルな分散環境であっても、意思決定や業務のスピードアップが狙えます。また、人が移動しないので、ムダな出張経費の削減にも貢献できます。
また、最近はコンプライアンスや環境保護に対する社会的責任を果たすため、技術者は膨大な書類作業を強いられています。その対策として、社内の手配書や部門間の申し送りのための書類作成の簡素化や、その資料自体を限りなくゼロにすることを試みている企業もあります。つまり、情報はすべてデータベース上に書き込み、オンラインで自動処理してしまうわけです。
いま、本質的な設計検討に使える時間は、本当に少なくなっています。物理的な移動時間とその経費。付帯業務で必要悪となっている書類作成の工数。こういったものは、極力なくしたいものです。IT化の恩恵として、一度にたくさんの設計検討ができるようになりました。この10年で10倍になっています。一方で、何でもかんでも簡単にデータ化できてしまうので、かえって仕事量が増えています。
その割には、“取りあえず集まって会議をする”という意識は昔のままです。社内手配用の必要書類の作成ルールについては、10年前のままで見直しはほとんどされていません。Kさんからのコメントで、あらためてIT活用の本質とは何かを考えさせられました。
さて、今回は服用するITの効能をエンドユーザーに理解させつつ、その処方せんの作成についてご紹介することでした。皆さんと一緒に、考えていきたいと思います。
設計業務のIT活用に関する健康診断 〜 ステップ(3)
まず、前回の内容を簡単に振り返っておきます。設計業務のムダを発見するための健康診断(ワークショップ)は、大きく3つのステップがありました。
ステップ(1)経営層と中間管理層への問診 設計業務のムダ取りとIT活用の必要性に関する、会社の大義(ビジョン)を確認する
ステップ(2)実務者層に対してIT活用に関する基礎体力の測定 現場技術者1人1人が、ITを活用できているかどうかの実態を知る
ステップ(3)服用するITの処方せんの作成 どのITが、どんな業務に効果があるのか、IT活用のうれしさを仮定する
今回はステップ(3)です。まず、ITは大きく5タイプに分けられることを説明します。次に、ITツールはどのように組み合わせていけば、エンドユーザーにとってメリットが出せるか考えていきます。その際、ITツール自体の細かい機能の吟味の前に、業務プロセスの中でITをどのように調和させるべきかに力点を置くようにします。
ステップ(3)は、ITの知識のある人の協力が必要不可欠です。設計業務と情報システムの両方が分かる人、もしくは、それぞれのエキスパートを集めてタッグを組みます。もし、社内にITの分かる人がいなければ、“ものづくりとITの両方が分かる”外部の専門家の力を借りてください。
活用するITのタイプ(5種類)
リーン製品開発に取り組む場合、必要となるITツールは大きく5つのタイプ(用途)に分類できます。製品開発に軸足を置いたITとして、製品データの作成・協業・管理・組立・伝達の5つの用途です。
これは、データ自体のライフサイクルを意識した分類になっています。そして、お互いは前後関係の流れを持っています。図1に、それぞれのタイプとデータの流れを示しておきます。この5つの用途を、できる限り一体統合型のITシステムとして構築しておくと、よりいっそう業務のムダ取りに貢献できるITとなります。この理想的なリーン環境を、製品開発システム(PDS:Product Development System)と呼ぶことにします。
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