今日から始める設計ムダ取り健康診断のポイント:リーン製品開発でムダな工数を30%削減する!(2)(1/3 ページ)
製造業の利益率は米国で十数%、アジアでも10%程度あるのに、なぜ日本企業はわずか数%なのか? 設計業務のムダな作業を削減し、ぜい肉の取れた“リーン”な製品開発を目指そう。
皆さん、こんにちは。PTCジャパンの後藤です。3回シリーズで、設計業務のムダ取りとIT活用のお話をしています。前回は、「日常業務に隠されたムダをとことん洗い出す」という内容でした。第2回の今回は、そのムダを発見するための健康診断(ワークショップ)の流れや、IT活用によるムダ取りのポイントをお話します。
まず、本連載の焦点を、もう少し明確にしておきたいと思います。
業務範囲 製品の企画〜設計〜試作〜生産準備(製品開発プロセスの部分)
活用するIT CAD/CAM/CAEやPDM/PLMに関するエンジニアリングシステムを前提
対象者 設計部や製造部の中間管理層(部長・課長)を基軸に、製品を統括する経営層(事業部長・技師長クラス)と、設計を担当している実務層(設計主任・設計担当)の、3階層の組織の代表を想定
この枠組みの中で、高いモチベーションを持った中間管理層が、俊敏なリーダーシップを発揮しながら、“設計業務のマネジメント・コントロール”を実践する。そして、経営層と実務層の相互理解を得ながら、ムダのない効率的な「リーン製品開発」を目指していきましょう。
見えないところで進行しているIT活用のムダ
ITでムダを取り除くはずが、かえって設計作業のムダ工数を生み出していることはありませんか。以下に示した例は、見えないところでムダ工数が増殖している典型的な例です。
- 部内サーバに保管してある過去データを流用するより、自分のPC上にあるデータを使って設計する。これが一番作業が早いと主張するベテラン設計者のAさん
- 朝一番のメールチェックが日課の設計リーダーのBさん。1つ1つ丁寧に「全員に返信」しながら、開発メンバーの進ちょく管理を徹底しているという
- CADモデルや図面を、PDMによって厳格に管理している技術管理課長のCさん。国内の正社員のみがアクセスできる仕組みの徹底で、安心の表情を見せる
- 若手設計者には、ITを駆使した設計能力が重要だと力説する設計部長のDさん。現場で必要な機能を満載した設計システムを、5年前に完成させたと自慢げだ
これらの例は、ITの定着化が進んでいるようにも見えますが、残念ながら活用のポイントが少しずれてしまって、知らず知らずのうちに、製品開発プロセスの生産性を低下させています。本来であれば、IT活用でもっと業務を楽にしてくれるはずが、ITによるメタボリックの兆候が出ています。
読者の皆さんは、もうお分かりですね。社内の関係者の意識や行動パターンを観察してみてください。意外と自覚症状のない人が多いのです。
前回記事の内容に納得感のあった読者の皆さんは、設計業務におけるムダ工数に関して、強い問題意識を持っている方です。しかし、自分の職場に戻ってみれば、そのような問題意識も希薄な状態であったり、ムダ工数を発見するほど時間的に余裕が持てなかったり、何ともいえないもどかしさを感じていることでしょう。
そうであるならば、一刻も早く「検査」を受けることです。
定期健康診断で自覚症状のなかったポリープが見つかることがあるように、設計業務上の不都合なムダを、定期的な検査を繰り返すことで発見しませんか。今回は、そんなお話をしています。
IT導入前にやっておくべきこと
ITを導入する際には、その導入の前に設計現場の基礎体力を、客観的に計測しておくことが重要です。現在の症状をユーザー自身が自覚することです。そして、基礎体力に見合った適切なITを、適切な場所に、然るべきタイミングで、然るべきユーザーに活用させる必要があります。
また、経営層側にも自覚してほしいことがあります。このまま何も対策しなければ、設計業務が破たんしかねないという実態を知ることです。設計現場の低い生産性の原因を確認せず、財務的に積み上げた数値だけで、経営目標が決定されていることはありませんか。
経営目標と現場実態とのギャップがしっかり見えてくれば、設計業務のムダ工数に関しての問題意識が全社的に高まります。設計業務プロセスのどの部分にドロドロ血が滞留しているか自覚できます。そして、サラサラ血にするには、どういうプロセス・チェンジとIT活用が必要なのか。それがしっかりと見えてきます。そのためには、“IT導入の前に”、このような意識改革の機運を盛り上げなければなりません。
設計業務のIT活用に関するメタボリック検診
さて、設計業務のムダを発見するために、どんな健康診断(ワークショップ)をするものなのか、基本的な流れをご紹介します。もし過去5年以上、このような観点で設計業務の定期検診をしていないのでしたら、それは大変なことです。さあ、始めてみませんか。設計業務のIT活用に関するメタボリック検診のスタートです。
検診の流れは、大きく3つで構成されています。
ステップ(1)経営層と中間管理層への問診 設計業務のムダ取りとIT活用の必要性に関する、会社の大義(ビジョン)を確認する
ステップ(2)実務者層に対してIT活用に関する基礎体力の測定 現場技術者1人1人が、ITを活用できているかどうかの実態を知る
ステップ(3)服用するITの処方せんの作成 どのITが、どんな業務に効果があるのか、IT活用のうれしさを仮定する
検診順序は、(1)→(2)→(3)が一般的ですが、(1)と(2)は順序が逆でも、また並行して行っても構いません。ただし、(3)は必ず最後です。(1)と(2)の結果を踏まえながら実施するようにします。
今回はステップ(1)と(2)の内容を、次回(最終回)にステップ(3)の内容をご紹介します。
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