今日から始める設計ムダ取り健康診断のポイント:リーン製品開発でムダな工数を30%削減する!(2)(2/3 ページ)
製造業の利益率は米国で十数%、アジアでも10%程度あるのに、なぜ日本企業はわずか数%なのか? 設計業務のムダな作業を削減し、ぜい肉の取れた“リーン”な製品開発を目指そう。
ステップ(1):会社側の大義(ビジョン)の理解
会社の事業戦略や設計現場の業務上の取り組みに関する問診です。現場のムダ取りの「大義(ビジョン)」を、マネジメント層がどう考えているか確認します。
設計部や製造部の部長さん以上の方が対象です。できる限り、事業部長さんまで巻き込んでほしいところです。会社の規模によっては、ずばり社長さんや、次期社長候補の息子さんも、ぜひメンバーに加わってください。
インタビュー形式で進めます。1人当たり約1時間です。限られた時間ですが、マネジメント層1人1人の想いを直接肌で感じながら意見集約することが大事です。
まず、ステップ(1)で使用する問診票には、「製品開発のありたい姿」を9個用意しています(表1)。1〜6は、会社の成長性に貢献するための製品開発の方向性です。6〜9は、会社の収益性に貢献するためのものです(6番目は、成長性と収益性の両方に関係があります)。
1. 現在の市場の中で、新規顧客層への浸透をはかることにより、シェアを拡大すること
2. 市場シェアを維持するため、競合の市場参入に対して何らかの障壁を設けること
3. 顧客の要望に、これまで以上に適切に対応し、売上数量を伸ばすこと
4. 主力製品ラインの販売に加え、サービスおよびその付随品などを販売することで収益を拡大すること
5. 新しい革新的技術や応用製品の開発に取り組み、新しい市場を開拓すること
6. 高付加価値製品を開発することによって、高価格でも売れるものを提供すること
7. 製品自体のコストを削減すること(原材料、人件費など)
8. 製品のライフサイクル全般にわたるコストを削減すること(企画、開発、調達、生産、販売、保守など)
9. 製品に関する有形資産・無形資産の再利用性を高めること(有形:在庫、無形:知財)
表1 9つの製品開発のありたい姿
次に、この優先順位に応じて、設計現場ではどういう取り組みをITで合理化してほしいと考えているかを、もう少し掘り下げた質問で投げていきます。これには、約80の質問カードが用意されています。
日本では、図1に示したような21種類の内容が話題の中心になることが多いです。この21種類について、それぞれ優先順位を考えていきます。先ほどの9個のありたい姿との相関関係も見ながら1つ1つマッピングをしていきます。
マネジメント層の考えの方向性は、当然担当の責任内容によって1人1人異なります。その方向性の相違点や特異点を、この機会に確認することで、幹部同士のコンセンサスを合わせられる効果もあります。
幹部同士でベクトルがばらばらのままでは、どの業務のムダを除去すればいいのか、現場側が振り回されてしまいます。会社の方向性にマッチしないITを導入しても、それこそムダなIT投資になりかねません。
ところで、「上の人は、何も考えていないから、こういう活動は意味がない」と、思っている読者の方はいませんか。
決してそんなことはないです。誰でも、その役職・役割に応じた“ありたい姿”というものは、必ず持っています。ただ、そのことが、うまく表に現れていないのかもしれません。経営層に対しても、きちっと問診する機会を持ち、会社の大義(ビジョン)を確認しなければ、現場のムダ取りの意義が見えてきません。
例えていうならば、「来春の結婚式までに、無理のないウォーキングで、3kg程度のダイエットで済む」のか、「徹底した食事制限までして、いまから夏休みまでに、10kgも減量しなければならないのか」。この2つは大きな違いです。いま、自分の会社の製品開発システムが、どのくらい危機的な状況に直面しているのかを、真剣に計測する時期に来ています。
下記に、ある企業での実例として、5人の経営幹部の方々の、それぞれのスコアを一覧にしてみました。この企業の経営層が考えている製品開発戦略の方向性や、中間層が期待している設計現場のあるべき姿について、皆さんはどのように感じますか。ちなみに、私は、社長と工場サイドのベクトルが合っていないことが、非常に気になります。
ある経営幹部のスコア一覧
1.現市場の中で、新規顧客層へのシェア拡大を……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
10 | 9 | 9 | 10 | 7 |
2.競合の市場参入に対し、何らかの参入障壁を……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
2 | 2 | 2 | 2 | 2 |
3.顧客の要望に、これまで以上に適切に対応し……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
8 | 5 | 8 | 5 | 9 |
4.サービスや付属品などで、収益を拡大……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
5 | 7 | 5 | 7 | 6 |
5.新しい革新的技術や製品開発で、新しい市場を……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
4 | 6 | 4 | 4 | 4 |
6.高付加価値製品で、高価格でも売れるものを……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
7 | 4 | 3 | 6 | 8 |
7. 製品自体のコストを削減する……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
9 | 10 | 10 | 9 | 10 |
8. 製品ライフサイクル全般にわたるコストを削減する……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
3 | 3 | 6 | 3 | 5 |
9. 製品に関する有形・無形資産の再利用性を……
全体 | 社長 | 取締役全員 | 本社サイド | 工場サイド |
---|---|---|---|---|
6 | 8 | 7 | 8 | 3 |
考察 総じて「1. 新規顧客層へのシェア拡大」「7. 製品コスト削減」の優先度が高くなった。全社で一致した視点といえる。「3. 需要対応力の強化」「6. 高付加価値製品の開発」に関して優先度にややバラツキが見受けられる。6は工場サイドでの優先度は高いが、経営サイドからは現状を改善、筋肉質化してから次のステップに進みたいという意向がフォローアップインタビュー時に議論された。
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