矢崎総業が直面したAI活用の壁、オラクルの「Fusion」採用が必然となった理由:製造IT導入事例(3/3 ページ)
日本オラクルのAI関連イベント「Oracle AI Forum」のオープニング基調講演では、同社の三澤智光氏が提示した「AIを使って何を目指すのか」をテーマに、矢崎総業 執行役員 AI・デジタル室 室長 情報システム統括室 室長の丹下博氏がゲストとして登壇し、同社の事例を紹介した。
過去トラ情報2432件のうちAI活用できたのは27件
丹下氏は、データ整備の難しさについて、過去トラ(不具合/トラブル報告書)情報のAI活用に関する事例を紹介した。矢崎総業で蓄積した過去トラ情報2432件のうち、約1%の27件でしかAI活用ができなかったというのだ。「典型的なガベージイン、ガベージアウトが発生した」(同氏)。
原因としては、データはあるがAIが読めない「書き方の問題」と、そもそもデータになっていない「形式の問題」に分けられる。例えば「書き方の問題」では、同じものを指す言葉の表現がぶれる。同一の材料が最大12通りの表記に分裂していたり、矢印や色で補足説明しているもののその意味が値として記載されていなかったりする。回数を書くべき数値欄に「散発」や「トライ多数」などの言葉が入っていることもある。
丹下氏は「これまでデータ統合では、マスターを合わせてマスターデータで統合するというのが皆さんやられていることかと思うがAIでは全く異なる。LLM(大規模言語モデル)を用いている以上、言葉の表記上の意味やオントロジーを合わせていかないとLLMは反応しないというところにぶち当たっている。これは、今までのITの常識が変わったと感じさせられた。マスターで統合しろ、はもう通用しない、オントロジーのような形で意味が分かるようにしないとAIが本当の意味で使えないところにきている」と述べる。
そして、「データがあるのに使えない」ことの構造的原因は、データ量ではなく、データの状態が問題にあるという。「意味や文脈の欠如を合わせる形でデータを統合しなければならない。一部のサイロ化された部門だけであれば意味を統合しなくても問題ないが、複数の部門にまたがって企業全体で効果があるような形でAIを使おうとすると、データがオントロジー的に統一されていないと最終的に使えなくなってしまう」(丹下氏)。
矢崎総業の場合、グローバルの46拠点に膨大なデータがあり、このオントロジー的なデータ統合をどこから、どのように進めるかが大きな課題となっている。そこで、丹下氏がデータ統合で取り組もうとしているのが、データベースを先に作ってそこからオントロジーを作っていくというやり方だ。「いきなり全てのデータが統合できるわけではないが、数十%でもそこに入っていけば、相当統合がしやすくなる。世界中に散らばる膨大なデータをどうやって統合するのかという答えがない中で、このやり方は理にかなっており、ぜひトライしていきたい」(丹下氏)。
そのために今回導入を決めたのがFusionだ。丹下氏は「矢崎総業ではオラクルの競合製品のERPをグローバルで導入しており、当初はFusionの導入は全く考えていなかった。しかし、AI時代に入って、オラクルのデータ主義が生きるようになってきたと感じている。ERPの下にあるデータをAIで自由に使えることは、シンプルだけどすごいことだ。他社製ERPのAIはERPを効果的に使うためのAIであり、Fusionもそれはできるが、その下に集まっているデータベースをAIをはじめさまざまな形で使えるという違いがある」と説明する。
もう1つの導入の理由がSaaSであることだ。「他社のERPはクラウドであってもSaaSではないことがある。なぜSaaSであることが重要かというと、これまでも経験してきたERPの苦しいバージョンアップ作業を次の世代を担う人たちやらせたくない。だからこそ、バージョンアップが自動的にできるSaaSであることが必要だ」(丹下氏)。
矢崎総業におけるFusionの導入は、日本からスタートしており、2027年秋までに財務系システムを中心に構築を完了させる計画だ。その後、グローバルにも展開を広げていく方針である。
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