AIカメラで「最後の砦は人」を脱却、レンゴーとキリンビールの工場安全DX:ファクトリーイノベーション Week2026【秋】(2/3 ページ)
「ファクトリーイノベーションWeeK2026秋」において、特別講演「【工場の安全対策】AI/デジタルICTで従業員の安全を守るには」が行われ、レンゴーとキリンビールが登壇した。AIやIoT、ウェアラブル機器などを活用した安全対策に関する両社の講演を抜粋して紹介する。
約4000枚の画像で再学習、AIの精度が大幅向上
レンゴーは、自社工場の機械や人の作業姿勢などを撮影した約4000枚の画像を用意し、AIモデルを再学習させた。その結果、AIモデルの精度を示すAP(Average Precision)は0.42から0.79へ向上した。
実際の映像でも、再学習前は人がしゃがんだり、ワークの陰に隠れたりすると検知が途切れることがあったが、再学習後は継続的に認識できるようになった。設備の一部を人と判断していた誤検知も解消された。しかも、評価に使用した映像は再学習用データには含まれていない。
「AIとしては初めて見た映像でこれだけ精度の差が出た。現場を教え込ませることで、精度が非常に上がることが分かった」(藤岡氏)
そして重要なのが、AIカメラを単なる「監視」にとどめないことだ。レンゴーでは、AIカメラが人を検知すると生産設備にインターロックをかける。
「警報を出したところで、それを聞いて何かするのは人。人は警報を聞き流すし、そもそも聞こえないこともある。AIカメラからの信号で設備を止めることが必要だ」(藤岡氏)
当初は比較的誤検知の影響が少ない場所を中心に導入していたが、2026年9月からは、誤検知による停止が大きな生産ロスにつながる設備にも対象を拡大した。
「FAの現場で使っていくには、検知漏れがないことはもちろんだが、それ以上に誤検知をしないことが最大のポイントになる。誤検知さえしなければ、厳格なインターロックをかけられる」(藤岡氏)
VLMで「安全ベストを着ているか」まで判断
レンゴーでは次の技術として、VLM(Vision Language Model、視覚言語モデル)の活用も検討している。従来の画像認識AIが「人がいる」といった対象物の検出を得意とするのに対し、VLMは画像の意味を言語として理解できる。例えば、「この人は安全ベストを着用しているか」と問い掛ければ、着用の有無だけでなく、その判断理由まで回答できる。
「画像認識AIでまず人がいることを判断し、その画像をVLMに投げて、正しい服装や安全具を着けているのかを判断させることができる」(藤岡氏)
レンゴーでは2027年頃から、安全対策以外も含め、VLMを製造現場で活用する実証実験を始めることを検討している。
一方、藤岡氏は「安全機器は過信したらダメ」とも強調する。
「人の正しい行動、ルールを守ることが大前提。AIカメラを含む安全センサーは、人がルールを守れなかったり、見過ごしたり、失敗したりしたときに災害が起きないよう補助するものだ」(藤岡氏)
キリンビールが進める10のデジタル施策
続いて登壇したキリンビールの宮浦直人氏は、「デジタルICTが切り拓く未来のプラントオペレーション」と題し、より広い視点からAIやデジタルICTによるプラントオペレーションの変革を紹介した。
キリングループは2035年に向け、長期経営構想「Innovate2035!」を策定。その中で、AIやデータ活用によって生産性向上と価値創出を両立する「KIRIN Digital Vision2035」を掲げる。
「AI、ICTはあくまで課題解決の手段の1つでしかない」(宮浦氏)
生産領域では、最適な生産物流体制へのシフト、サプライチェーンの効率化、AI/ICTによる業務や働き方の変革を進める。ただし宮浦氏は、「進めていく上で一番重要なのが安全最優先の考え方。ベースとなる安全の文化は最優先で根付かせる」と強調した。
具体策は、情報活用基盤の整備、工場間の可視化、AIによる製造計画の自動化、カメラシステム、設備の兆候管理、無線環境と遠隔監視、オペレーションの無人化、ICTによる従業員の安全支援、原材料/備品の自動発注、デジタルツインによるマルチオペレーションの10項目に及ぶ。
まず進めたのが、工場内外に散在していたデータを集約するIoTプラットフォームの構築だ。
「以前はシステムサーバが工場内に乱立し、各システムにアクセスしてExcelでデータをまとめ、その後PowerPointで資料を作るという業務プロセスがあった。IoTプラットフォームを設けることで、そこにアクセスすれば必要なデータを利活用できる状態を目指した」(宮浦氏)
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