同じ機械なのに、なぜ性能が違う? 超音波溶接機の共振ずれとボルト破断:冴えない機械の救いかた(14)(3/4 ページ)
本連載「冴えない機械の救いかた」では、メカ設計の失敗事例を題材に、CAE解析や計測技術を用いて、不具合の発生メカニズムとその対策を解説していく。第14回は、同じ図面で製作された4台の超音波溶接機で、ある号機は溶接強度が出ず、別の号機ではボルトが1週間で破断した事例を取り上げる。CAE解析と振動計測から、ねじ締結部のフレッチングや共振状態のずれを読み解き、ボルト破断の対策と溶接強度の安定化に至った過程を追う。
理想的なメカ系の共振状態を実現しよう
図2の振動子、ホーン、共振構造物、ツールを理想的な共振状態で駆動できれば、圧電素子に印加する電圧を低くでき、余計な力を発生させずに済みます。その結果、いろいろな部品に不要な荷重をかける必要もありません。同時に、ツールの振動変位を一定にしておけば(共振状態なのでサインカーブで振動変位しています)、装置間の溶接強度のばらつきも抑えられます。問題は、理想的な共振状態を保ち続ける制御回路をどう実現するかです。
単にメカ系の共振周波数と、振動子に印加する電圧の周波数を一致させるだけでは不十分でした。溶接中、ワーク同士は最初は滑っていますが、だんだん固着していきます。ここもばね−マス系と考えれば、ばね定数と減衰定数が増加し、メカ系の共振周波数が変化します。そのため、時々刻々と変わる状態に合わせて、圧電素子の駆動周波数を変える必要がありました。この部分は、共振回路のスペシャリストの助けを借りながら、もう1人の方がメインとなって進めた仕事です。
フィードバック系を組み、メカ系の共振状態を観察しながら圧電素子の駆動周波数を変える制御回路が完成しました。これにより、(1)メカ系を常に共振状態で駆動する、(2)ツールの振幅を一定値に管理する、という状態を実現し、溶接強度が安定しない問題は解決しました。
ある機械は性能が出ない、ある機械はボルトが折れる理由のおさらい
ある機械は性能が出ない。ある機械はボルトが折れる――。その理由は前述した通りですが、ここでおさらいしましょう。
図10にばね−マス系の伝達関数を示します。機械の共振周波数、つまり図の青色線で伝達関数が最大となる周波数(図では角振動数と表記)は、号機ごとに少しばらついていました。そして、機械の共振周波数は溶接の進行とともに変化します。同時に、ばね−マス系の減衰も変化したと思います。
それぞれの号機で同じ周波数の電圧を圧電素子に印加していたとすると、各装置のツールの振幅は、図のオレンジ色のように理想的な共振状態のときより小さくなります。その度合いが装置ごとで異なるため、溶接強度にばらつきが出たと考えています。
連載第1回で取り上げた、昭和のラジオでバリコンが回せなくなった事態ではボリュームを大きくしました。同様に、溶接強度が目標値以下ならばボリュームを回します。しかし、共振状態なら小さくて済む電圧よりも大きな電圧を圧電素子に印加することになり、装置のいろいろな部分に余計な力が発生します。この力の大小も号機によって異なるため、ボルトが折れる装置が出たことになります。
以上が、超音波溶接機において、ある装置は溶接強度が出ない、ある装置はボルトが折れた理由です。
ツールとボルトの疲労強度計算
〜振動シミュレーションにおける減衰をどう表現するか〜
2正面作戦のもう1つは、金属疲労破断問題への対応でした。ツールの振幅と振動子の振幅を一定値に管理することになったため、その状態で駆動し続けてもツールが疲労破断しないことが要求されます。この作業は「ツールの振幅で管理しよう」と決めたときに着手し、前述した制御系の開発と同時進行で進めました。
共振状態のシミュレーションってどうするのでしょうか? 無減衰で時刻歴応答解析をすると、振幅はだんだん大きくなり、増加が止まりません。周波数応答解析で伝達関数を求めると、共振点の伝達関数は非常に大きく、でたらめな数値となります。この問題を解決するには、減衰効果を導入しなければなりません。
CAE解析ソフトで減衰効果を設定すること自体はたやすいことです。問題は、減衰定数をいくらにするかです。連載第2回のばね−マス系では、共振点の伝達関数のピーク値が減衰係数を変えるとコロコロ変わることを示しました。適当な減衰係数を設定しても、意味のある結果は得られません。
それに、単に減衰といっても、材料の弾性変形に伴う減衰なのか、接触している部品間での減衰なのか、それ以外の要因によるものなのかは見当もつきません。レイリー減衰というものがあり、実験値に合うように減衰定数を調整する手段がありますが、筆者は少し苦手です。というわけで、筆者の振動解析の減衰係数はいつもゼロです。その代わり、共振点のシミュレーションは諦めていました。
しかし、今回の共振状態のシミュレーションでは、減衰をうまく表現できました。最も減衰力が発生する場所を考えると、図11に示すように、上側ワークと下側ワークがゴシゴシ擦り合う部分ですね。これと比べれば、それ以外の減衰要素は無視できると考えました。
上側ワークと下側ワークに「摩擦あり接触要素」を設定し、摩擦係数(後で調整します)を与え、加圧しながら時刻歴応答解析をしました。振動子の振動は熱膨張で表現しています。図12に加振条件を示します。圧電素子の温度を超音波の周波数で変化させました。
図13に時刻歴応答解析結果のイメージを示します。縦軸はある点の変位や応力、横軸は時刻です。時刻歴応答解析の時間刻み幅は、見たい振動の周期の20分の1くらいというのはお約束ですね。減衰が大きく、7〜8周期で振幅が一定になったと記憶しております。
ツールの振動変位については、シミュレーション値とレーザー変位計による実測値が一致するように、温度変化幅や摩擦係数を調整して解析しました。
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