テスラにおけるギガキャストの基本的な考え方と方向性【後編】:いまさら聞けないギガキャスト入門(8)(2/3 ページ)
自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第8回は、第6回の前編と第7回の中編に続き、テスラのギガキャストに関する基本的な考え方とその方向性について見てみる。
9.2018年の特許出願の本当の意味
この2018年の特許出願の本質は「世界最大のダイカストマシンを作ること」ではない。
本当の狙いは、車体を構成する多数の部品を、できるだけ大きな構造体として統合し、それを一度の鋳造工程で作ることで、自動車工場そのものを簡素化すること、にある。
特に重要なのが次の5段階である。
- 部品数を減らす
- 接合と溶接を減らす
- ロボット、治具、検査工程を減らす
- 工場の設備、面積、工程を減らす
- 車体製造そのものを「組立中心」から「一体成形中心」へ変える
この意味で、2018年の「Multi-directional Unibody Casting Machine」という特許出願は、後のテスラのギガプレス/ギガキャスト戦略を理解するための重要な技術資源であるといえよう。
ただし、この特許出願そのものは放棄されており、実際のギガプレスがこの特許図面と完全に同じ構造であると断定することはできない。一方で、テスラがこの特許で示した「大型車体構造を一体鋳造し、部品数、接合、設備を減らす」という製造思想は、その後の「モデルY」における大型一体鋳造によって現実の量産技術へ発展した、と整理するのが最も正確である。
10.2019年に公開された「US20190217380A1」
図13は、テスラにおけるギガキャストの基本的な考え方を表すもので、2018年の特許出願からモデルYの1ピース鋳造実現までの内容を表すテスラ1部品鋳造ロードマップの概要になっている。
そして、2019年7月22日、テスラは、モデルYのような次期車を作るための革新的な配線アーキテクチャの開発に取り組んでいることを発表した。
同年初めにマスク氏は、テスラがモデルYのボディーにプレス加工された鋼材やアルミニウム部品のシリーズから、アルミニウム鋳造設計へと移行すると述べた。「大型鋳造機が手に入れば、部品数は70個から1個に減り、部品を組み立てるためのロボットの資本支出が削減される」(同氏)。
そして今、2019年に「US20190217380A1」が公開されたことにより、テスラがモデルYの製造に使用する新しい鋳造機械の姿が明らかになった。
11.US20190217380A1で何を変えようとしたのか
ここからは、このUS20190217380A1の内容について説明する。
従来の自動車ボディーは、非常に多くの部品から構成されている。例えば「モデル3」のリア側では、プレス成形⇒部品加工⇒搬送⇒ロボット溶接⇒接着/リベット⇒検査という工程を多数組み合わせて、1つの車体構造を作る。
部品A─┐
部品B─┤
部品C─┤
部品D─┤
部品E─┤
: ├─→ ロボット溶接 ─→ 車体構造
部品70─┘
これに対してテスラは、「70個程度の部品を、巨大な鋳造によって1個に近づける」 という方向へ進もうとした。同社が目指した方向は、つまり、「部品をたくさん作って組み立てる」から、「できるだけ大きな部品を一発で作る」への転換である
≪溶融アルミ→巨大ダイカスト金型→大型一体鋳造車体構造部>
12.最大のポイントは「多方向金型」
この「多方向金型」が、この特許出願を理解する上で最も重要な部分である。
通常の大型ダイカストマシンでは、「固定側金型(Cover Die)」と「可動側金型(Ejector Die)」を基本として、2つの金型を開閉して製品を成形する。
ところがテスラの特許では、この考え方を拡張し、中央に「中央ハブ(Central hub)」を置き、その中央ハブの周囲から複数の金型を可動する。
図14に、その特許出願の主な概念図を示す。
つまり、「X方向+X方向反対側+Y方向+場合によってはZ方向」など、複数方向から金型を閉じるという発想である。
特許本文でも、第1/第2のエジェクターダイを第1軸方向に動かし、第3のエジェクターダイをそれとはほぼ垂直な第2軸方向に動かす構成が記載されている。さらに実施形態によっては、X/Y/Z軸方向への移動や回転まで想定されている。
表6は、図14で最も重要な6つの構成要素番号、名称、役割を整理したものである。
| 番号 | 名称 | 役割 |
|---|---|---|
| 102 | 中央ハブ(Central hub) | 金型の「中心」:金型の中心となる固定部 |
| 106系 | 固定側金型(Cover Die) | 「固定側」:中央ハブ側に配置される固定側金型 |
| 108系 | 可動側金型(Ejector Die) | 「可働(動く)側」:周囲から移動する可動側金型 |
| 114 | キャビティ部(Mold cavity) | 「キャビティ部/製品を作る空間」:溶湯が入る車体形状の空間 |
| 116 | ホワイトボディー(Vehicle frame) | 「ホワイトボディー/完成する車体フレーム」:ダイカスト鋳造で作られる車体フレーム |
| − | 溶融アルミニウム | キャビティに注入される材料 |
| 表6 図14で最も重要な6つの構成要素番号、名称、役割 | ||
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![図14 US20190217380A1の特許出願の主な概念図[クリックで拡大] 出所:Google Patents](https://image.itmedia.co.jp/mn/articles/2610/13/spac_261013gigacastentry08_14.jpg)