テスラにおけるギガキャストの基本的な考え方と方向性【後編】:いまさら聞けないギガキャスト入門(8)(1/3 ページ)
自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第8回は、第6回の前編と第7回の中編に続き、テスラのギガキャストに関する基本的な考え方とその方向性について見てみる。
テスラのギガキャストに関する基本的な考え方とその方向性について、連載第7回の前編と第8回の中編で紹介してきた。今回の後編では、テスラのギガキャスト技術のきっかけとなったイーロン・マスク氏の発想と2018年の特許出願、そしてその特許におけるギガプレスの詳細とその方向性を決定付けた製造プロセスについて見てみる。
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6.おもちゃのクルマからのインスピレーション
本連載では、ギガキャストの技術の根幹である「ギガプレス」という超巨大ダイカスト成形機が、これからの自動車製造技術に革命を起こす可能性があり、一大変革の到来である、ということを言ってきた。
連載第1回でも述べたが、ギガキャストは、テスラ CEOのイーロン・マスク氏が机の上にあったアルミ製のダイカストでつくられたホットウィール※1)のおもちゃのクルマからインスピレーションを得たといわれている。
※1)ホットウィール(Hot Wheels)は、米国玩具メーカーのマテルが1968年9月7日に発表した亜鉛合金製ダイカスト成型のミニカーシリーズのブランド。3インチサイズのモデルを中心に18分の1スケールや43分の1スケールの製品がある。日本では、米国の販売と同時に輸入され、1976年頃に「トミカ」という名称で300円前後で販売された。
マスク氏はきっと、「この3インチのミニカーをダイキャスト技術で現実の実際的なサイズでクルマが作れないか? それを阻む制限、条件は何なのか? その対価はどれくらいなのか?」と考えたであろう。
その結果、連載第6回で述べたが、「クルマを作る工程そのものを、コンピュータや半導体のように単純化/統合化できないか」という考え方でクルマづくりをしようとする発想/思想に到達した、ように思える。
その中心となる考え方が「HPDC(High Pressure Die Casting:高圧ダイカスト)」「CAPEX(Capital Expenditure:設備投資)の抜本的削減」「MBH(Minutes per Build Hour:車両1台当たりの労働工数)の低減」という3つのキーワードであった。
また、連載第6回と第7回で述べたが、「Factory is the product(工場こそ製品である)」という言葉は、2016年3月31日の株主総会で、イーロン・マスク氏が最初に述べたもので、また、「ここ2〜3カ月の間に、車両製造の方が実際の車両エンジニアリングよりも改善の可能性が少なくとも10倍高いことに気づいた」とも言っている。
さらに「私たちは、本当の問題であり、真の困難であり、最大の可能性があるのは、その機械を作る機械を作ることだと気付いた。言い換えれば、工場を建てることなのである。工場を製品として考えるんだ」と話した。つまり、「機械を作る機械を作る」⇒「工場こそ製品である」という考え方/思想の一つとしてギガファクトリーがあり、ここで見ているギガキャスト、ギガプレスがあるように思われる。
7.テスラが2018年に特許出願した「US20190217380A1」のコンセプト
そして、マスク氏は「同じ設計哲学で、フルサイズの自動車が同じ設計哲学で製造できない理由は実際にはない」と考え、2018年1月18日に米国特許「US20190217380A1」の「Multi-directional Unibody Casting Machine for a Vehicle Frame and Associated Methods」※2)を出願したのである。
※2)US20190217380A1“Multi-directional Unibody Casting Machine for a Vehicle Frame and Associated Methods”は、テスラの米国特許出願である。
優先日:2018年1月18日
出願:2018年1月18日
公開:2019年7月18日
出願人:Tesla, Inc.
発明者:Matthew Kenneth Kallas
PCT出願:WO2019143496A1
Google Patents:US20190217380A1
なお、非常に重要な注意点がある。この米国出願自体の法的ステータスは、現在のGoogle Patents表示では「Abandoned(放棄)」となっている。従って、「この特許がそのまま成立して現在のギガプレスを法的に保護している」と理解するのは正確ではない。テスラがこの出願で示した技術コンセプトと、その後実際に採用した量産設備は分けて考える必要がある。
マスク氏がインスピレーションを得たアルミ製のダイカスト製の子どものおもちゃのように、実際のクルマ1台のホワイトボディーが、ギガキャストにより100秒で出来上がれば、夢のようであろう。
これまでにも繰り返し述べているが、従来の自動車製造は常にホワイトボディー、車両フレーム+アンダーボディーの複雑さに苦労してきた。例えば、アンダーボディーにおける単一のリアアンダーボディー(シャシー)のために70以上の金属部品を溶接/接着、ボルト締めしてきた。溶接やボルト締めの箇所ごとに、人為的ミスや構造的弱点、重量増加のリスクが生じる。テスラやXiaomi Auto※3)のような企業における、AI(人工知能)監視による高圧キャスティングシステムが、現実世界で大きな影響を与えている。
※3)Xiaomi Auto(シャオミ自動車)とは、中国のXiaomiが全額出資する子会社で、2021年11月から自動車市場に本格参入した。“スマート電気自動車(EV)事業”を手掛けており、スマートフォン、家電、IoT(モノのインターネット)と連携する次世代EVを自社開発する自動車ブランド。代表は、Xiaomi創業者のレイ・ジュン氏。最新情報では、SU7/YU7シリーズの純電セダンと、ポンチェン(Pongchen)シリーズの増程式SUVを展開し、累計納車台数は70万台超(2026年時点)に達しているという。Xiaomi Autoは、大きく以下の2つのシリーズを展開する。
SU7/YU7シリーズ(純電セダン):2024年3月に初代SU7を納車開始、2025年の年間納車台数は41.1万台(前年比200%増)、空力性能(Cd=0.195)、大型ダイカスト、CTB一体型バッテリーなど最新技術を採用
ポンチェン(Pongchen)シリーズ(増程式SUV)、2026年7月発表、N70(5人乗り)、N90(7人乗り)、WLTC航続距離:最大380km(EV)、電力不足時燃費:5.7L/100km
将来像としては、産業用AIネットワークがアルミニウムの溶融流量、温度分布、圧力の変化を仮想シミュレーションで解析し、現実世界ではリアルタイムでIoT(モノのインターネット)によって監視し、巨大な構造部品のマイクロ欠陥ゼロで即座にダイカスト鋳造サイクルを調整するという近未来が示されている。
だからこそ、AI駆動の巨大ダイカスト成形マシンによるギガキャスト技術は製造業の世界で最も破壊的な市場の一つになる可能性がある
今後数年でギガキャスト/メガキャスト技術が全てのEV(電気自動車)製造における世界標準となれば、自動車メーカーは数千台の組み立てロボットの利用を取りやめるだろう。工場の生産スペースとコストを大幅に削減し、軽量かつ安全なEVが製造できるようになる。
8.2018年の特許出願とギガプレスの関係
表5に、テスラの特許とギガプレスの関係を整理した。
| 時期 | 技術の意味 |
|---|---|
| 2018年1月 | Teslaが多方向ユニボディー鋳造機を特許出願 |
| 2019年7月 | 特許「US20190217380A1」として公開 |
| 2019年 | マスク氏が「70部品→1部品」の構想を説明 |
| 2020年 | IDRA+FASグループ系の超大型HPDC設備をフリーモントへ導入 |
| 2020年末頃 | モデルYの1ピース級リア鋳造が確認される |
| 2021年 | テスラがギガプレスによる大型リアボディー鋳造の映像を公開 |
| 現在 | テスラの修理資料でもモデルYの「1-Piece Cast Rear Under Body」を確認可能 |
| 表5 テスラの特許とギガプレスの関係 | |
この流れを見ると、テスラのギガキャストの技術発展が非常によく理解できるだろう。
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