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「ひげそりは洗面台」を変えた、パナソニックの“小さいシェーバー”ヒットの理由:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(42)(5/5 ページ)

ひげそりの場所や時間、求められる価値が変わる中、日常使いの小型シェーバーという新市場を切り開いたのがパナソニックの「ラムダッシュ パームイン」だ。大ヒットを生んだ発想と、それを支える小型化技術や設計の工夫など、舞台裏を小寺信良氏が伝える。

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世界から見た、日本のひげそり市場

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実際に6枚刃のラムダッシュ パームインを試してみる小寺氏

小寺 実際に動かしてみると、すごい振動数ですよね。昔のとは全然違います。

池田氏 一般的な回転式のモーターだと、大体1分間で8000回転や9000回転、多くても1万回転くらいなんですけど、ラムダッシュ パームインでは、5枚刃と6枚刃は1分間の往復数が1万4000回です。3枚刃でも1万3000回ぐらいになっています。

永島氏 その振動を支えるバネも、最初はもう大きな金属バネだったんですが、どんどん小さくなってきて、今の樹脂バネはものすごく細いものを使用しています。このすごい細さを成形するのが難しくて、彦根工場で内製しています。彦根工場で開発から生産まで一貫でできる点は、こういうところには生きていますね。

 さらに細かな設計のポイントをいうと、ひげをそるときのチリチリ音は、わざと出しています。試作で内刃をすごく鋭く改良した時に、鋭すぎてサクサク切れてしまって、音がしなくなって物足りないという声があったんです。そこからもう一度、ひげをそる音が鳴っている方がよいというところに注目し、わざわざ音が鳴る板を間に入れて、ひげそりの振動を増幅させていたりします。

小寺 他社製のシェーバーだと、ヘッドを変えてマルチに使えるというのが売りになっていたりします。パームインはそういう方向ではない、ということでしょうか。

田中氏 実はマルチシェーバーみたいなものは、地域性による差が非常に大きいんですね。日本の男性のひげそりは、クリーンシェーブと呼ばれるように、全体をそってしまう方がほとんどです。残している人は非常に少ないんです。一方で、トリマーの本場というと、米国や欧州、中東になりますが、こうした地域は、ひげの一部を残していたり、1週間伸ばしてまたそってを繰り返されていたりとか、ひげの扱いが多様なんですよね。こうしたニーズに全てヘッドで対応できるのかという議論はありました。

池田氏 ここにはリニアモーターのバランスとか、設計上の繊細な部分にも関わってきます。例えば、ボディートリマーに搭載されている回転式のモーターは、もっと回転数が遅いんですよ。そういう回転モーターだといろんなアタッチメントを付けやすかったりするんですが、ラムダッシュ パームインでは、最初から高い往復数のリニアモーターで一番効率のいい形を追求しています。このスピードだとトリマーの場合、毛を弾いて中に入らなかったりします。

 パナソニックでもプロ用のバリカンでリニアタイプなどは出していますが、それは本当に散髪用のリニアモーターをゼロベースで最適化して作っているという背景があります。

 ラムダッシュ パームインについては「60点で全部できますよ」という製品じゃなくて、ひげそりだけでいいから100点を目指すという感じで、リニアモーターならではの抜群のそり味を追求しています。

小寺 他のポイントとして、日本のお家芸的な部分では、やっぱり刃の良さみたいなところはあるんじゃないかと思います。

池田氏 刃の加工の伝統というのは、調理用の包丁や日本刀など、日本には長い歴史があります。われわれのこの刃の工法にも思想として取り入れています。パナソニックの刃の特徴としては、内刃も外刃もどっちもステンレスでダブルエッジという非常に耐久性の高い素材工法で作られています。

 内刃をステンレスで作る例は多いと思いますが、外刃は普通はニッケルなどを電気鋳造で作ります。一方、パナソニックは薄いステンレスの強靭な板を打ち抜いて作っています。削り出していく方が、刃物としてすごく強いんですね。

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刃の加工の伝統を思想として受け継いだラムダッシュ パームインの刃。内刃も外刃もステンレスを採用している[クリックで拡大]

小寺 その強靭さは、やはり耐久性が高くなるからということでしょうか。

池田氏 高速でずっとこすり続けることになりますので、普通は外刃がだんだんすり減り、薄くなっていくんですね。刃の寿命末期になると、内刃が肌に近くなってくるので、肌が刃穴からグッと入った時にピリつきの原因になったりすることが起こるんですけど、パナソニックは刃の厚みが最後までほぼほぼ変わらず、使用感も含めた耐久性を高く保てます。


 日常使いの小型シェーバーという新ジャンルを作り出しておよそ3年が経過し、最近はようやく他社もその市場に気づいたのか、追従製品が登場してくるようになった。

 とはいえ、シェービングの意識変化や世代間ギャップをとらえながら、メンズ美容領域を拡大したというのが、ラムダッシュ パームインチームの功績だろう。ラムダッシュは今後、ボディートリマーやヘアカッターなどを含む、メンズ美容全体のブランドへと拡大していく。その道筋を切り開いたのも、パームインの成功があったからだ。

 パナソニックは電気シェーバー自体、1955年から作り続ける老舗だが、ラムダッシュというブランドが登場したのは2002年のことである。筆者のようなオジサン世代では、ラムダッシュと聞けば新進気鋭のめっちゃそれるひげそりというイメージしかなかったが、気が付けばもう四半世紀がたとうとしている。

 若い人が「ラムダッシュ」という響きから受ける印象は、全然違ったものになりそうだ。

⇒連載「小寺信良が見た革新製品の舞台裏」のバックナンバーはこちら
⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

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ライター/コラムニスト。1963年宮崎市出身。
18年間テレビ番組編集者を務めたのち、文筆家として独立。家電から放送機器まで幅広い執筆・評論活動を行う。一般社団法人「インターネットユーザー協会」代表理事。2015年から4年間、文化庁文化審議会専門委員を務めたのち、2019年に家族で宮崎へ移住。近著に改訂新版「学校で知っておきたい著作権」がある。

Twitter(現X)アカウントは@Nob_Kodera

近著:改訂新版「学校で知っておきたい著作権」(汐文社)


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