日本の製造業は「人件費が高い」は本当か? OECD33カ国で20位の現実:小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(51)(1/3 ページ)
ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回は、日本の製造業の人件費について見ていきます。
前回は、経済協力開発機構(OECD)のデータベースを基に「日本の製造業の固定資産の種類と規模」について国際比較で紹介しました。日本の製造業では、相対的に投資が多く、どの固定資産でもその資産残高が大きく積み上がっている状況となっていました。「日本の製造業は投資が少ない」といった印象を持つ方もいるかもしれませんが、統計データで確認する限りはむしろ「日本の製造業は投資が多いのに付加価値が増えていない」という状況だったことが確認できましたね。
さて、今回は、前回と同じくOECDのデータベースを基に、日本の製造業の人件費について見ていきたいと思います。
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日本製造業の付加価値の分配と雇用者報酬
われわれの経済活動を国際比較可能なように体系的に整理した統計が国民経済計算(SNA: System of National Accounts)です。SNAはわれわれが良く耳にするGDPを計算するための統計としても知られていますが、付加価値(GDP)の生産だけでなく、その分配についても明らかにしている点が特徴です(図1)。
生産された付加価値は、その生産に寄与した各部門に分配されます。
- 雇用者:雇用者報酬(人件費)
- 企業:営業余剰・混合所得(純)
- 政府:生産・輸入品に課される税-補助金(消費税、関税など)
- 資本:固定資本減耗(ここでの資本とは、固定資産のこと)
ここで、労働力を提供した雇用者(企業に雇われて働く労働者のこと)に分配されるのが「雇用者報酬(Compensation of employees)」です。雇用者報酬とは、雇用者が直接受け取る給料(賃金/俸給)に、社会保険料の企業側負担分などの雇主の社会負担(Employer's social contributions)を加えたもので、企業側から見た人件費を表します。各国で社会システムが異なりますので、このような雇用者報酬という指標で統一することで、企業から見た人件費がより公正に比較できるようになります。
「営業余剰・混合所得(純)」とは、企業側の手元に最終的に残る取り分です。われわれになじみのある企業会計の指標で説明すると、営業利益に相当します。厳密に言えば営業余剰が企業、混合所得は個人事業主の分であることを意味します(ここでは個人事業主も企業の一部として扱っています)。
「生産・輸入品に課される税-補助金」とは、取引価格に影響する税金のことで、具体的には消費税や関税が該当します。この生産/輸入品に課される税から補助金を差し引いた分が、付加価値の生産のうち政府への分配と見なされます。
それでは、日本の製造業の付加価値の分配について、具体的な統計データを見てみましょう。図2は日本の製造業の付加価値の分配について、時系列で推移を示したものです。
以前の記事「日本の製造業の『投資しても稼げない』実態 付加価値を生まない構造の正体」でもご紹介したように、日本の製造業の付加価値は1997年のピークから減少傾向が進み、リーマンショック後は拡大傾向となっているものの、いまだに当時のピーク値を超えていません。その分配構造を見ると、変化の様子をより詳細に把握することができます。
労働者への分配となる「雇用者報酬」は1997年の64.2兆円をピークに減少傾向が進み、2024年に57.0兆円と当時よりも7兆円以上減少しています。減っているのは雇用者報酬だけでなく、企業側の取り分である「営業余剰/混合所得(純)」も、政府への分配となる「生産・輸入品に課される税-補助金」も減っていますね。
一方で、固定資産の維持費用といえる固定資本減耗は1997年の31.9兆円から、2024年には41.7兆円と10兆円近く増えています。
これまでに紹介してきたように、付加価値が増えない中で、高い水準の投資が維持され、その維持費用がかさむことで、むしろ企業自身や労働者の取り分が圧迫されているという状況が示されています。
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