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観察から介入へ、問いを立てるAI駆動開発(後編)マテリアルズインフォマティクスの基礎知識(6)(2/2 ページ)

マテリアルズインフォマティクス(MI)の基礎知識について解説する本連載。第6回は、ベイズ最適化やLLM(大規模言語モデル)、自律実験系を例に、AIが候補予測から問いの提案へ踏み込む過程について考察します。

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3.「良い問い」の設計にむけて

 AIに研究記録を大量に与えれば、重要な問いを自動的に立てられるのでしょうか。

 優れた研究者は、手元にある表形式のデータだけを見て問いを立てているわけではないはずです。過去の理論や文献、失敗した実験に加えて、装置の癖や試料を扱ったときの違和感、顧客や社会が求める性能、使える時間や設備まで組み合わせながら、次に確かめるべきことを考えているのだと思います。そこには、言葉や数値として明示しにくい身体知や暗黙知も含まれます。試料の扱いにくさや装置の微妙な挙動から得られる感覚のように、研究者自身は判断に使っていても、実験記録には十分に残っていない知識です。

 同じ材料系でも、基礎学理を理解したい研究室と、半年以内に製品化したい企業では、良い問いの在り方が異なります。何を優先して確かめるべきかは、データだけでなく、研究者が置かれた目的と環境によって変わります。

 AIにも問いを提案させることはできます。しかし、AIが使える情報は、その時点で参照できる文脈、検索、ツール、記憶としてアクセス可能になったものに限られます。研究者の経験や現場の制約に加え、身体知や暗黙知の多くも、何らかの形で記録、整理そして共有されなければAIからは見えません。AIに良い問いを提案させるためには、研究の文脈をどこまでAIから参照できる形にできるかが重要になります。

図2:AIが渡される情報と、研究者が問いに使う文脈
図2:AIが渡される情報と、研究者が問いに使う文脈[クリックで拡大]

4.記録すべきものは学習の過程

 今後、AIが次の実験をより賢く選ぶためには、条件と結果の一時点のスナップショットとしての整理では不十分になり得ます。何を確かめようとしたのか。なぜその条件を選んだのか。想定とどのように異なったのか。どの前提が弱まり、どの仮説が残ったのか。測定不能や再現しなかった試行を、どう解釈したのか。こうした研究の文脈まで参照できれば、AIは単に過去データに整合する候補を返すだけでなく、「なぜ次にそれを試すのか」まで含めて提案できるようになります。研究者の思考過程により近い形で、実際の判断/行動の変容を加速するはずです。

 履歴といえば、合成/加工プロセスや材料状態にも履歴があります。同じ組成でも、原料を混ぜる順序や温度プロファイルなどによって、出来上がるサンプルの性質は変わります。AIが材料を考えるためには、そこへ到達したプロセス履歴も必要です。これまでのデータマネジメントは、実験を後から再現するための記録を主眼としてきました。これからは、材料が現在の状態へ至ったプロセスと、研究者が現在の仮説へ至った過程を残し、次の研究者やAIが問いを選ぶために使うという役割も加わります。

 さて、AIが内側の実験ループを回すほど、研究者はどの問いを追い、何を証拠とみなし、どこで立ち止まるかを考える役割を担います。AIが次の実験を選べるようになることと、研究として何を問うべきかが自動的に決まることは同じではありません。問いをAIとともに更新していくためには、実験のループだけでなく、その外側にある目的や判断のループも設計していく必要があります。

⇒連載バックナンバーはこちら

筆者紹介

MI-6 代表取締役 Co-founder / miLab 編集長 入江満(いりえみつる)

東京工業大学・大学院(現:Science Tokyo)においてバイオインフォマティクスを専攻。総合シンクタンク、ITベンチャーを経て、当社共同創業。"MI"を基軸にした解析サービスおよびプロダクトの開発をけん引。現在は事業・プロダクト・R&Dの責任者として執行全般を統括。


参考文献:

[1]Iwazaki,S.,Takeno, S., Tanabe, T., & Irie, M.(2023).“Failure-Aware Gaussian Process Optimization with Regret Bounds.” Advances in Neural Information Processing Systems 36.

[2]wazaki, S., Tanabe, T., Irie, M., Takeno, S., Matsui, K., & Inatsu, Y. (2025). “No-Regret Bayesian Optimization with Stochastic Observation Failures.” Proceedings of the 28th International Conference on Artificial Intelligence and Statistics, PMLR 258, 415〜423.

[3]Chen, Z. et al.(2026).“An agentic artificially intelligent X-ray scientist.” Nature Machine Intelligence, 8, 1075〜1086.

[4]Liu, X., Ouyang, B., & Zeng, Y.(2025). “Balancing autonomy and expertise in autonomous synthesis laboratories.” Nature Computational Science, 5, 92〜94.

[5]Osmani, A.(2026).“Loop Engineering.” AddyOsmani.com, June 7, 2026.


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