NTTが「解釈可能な自律成膜」を実現、成膜/評価サイクルを約3倍に高速化:研究開発の最前線(2/2 ページ)
AIが導き出した最適解は、なぜ最適なのか? NTTが開発した「AI駆動型ラボ」は、ロボットとAIを組み合わせ、これまでブラックボックスだった実験結果を人間が理解できる「ルール」に変換する。同技術は、次世代半導体の開発サイクルを3倍に高速化し、世界初の成果を生み出した新技術に迫る。
複雑な予測結果を人が解釈しやすい簡潔な形に整理
今回の技術の実証実験では、温度、スパッタ電力、Ar流量、O2流量の4つの成膜パラメータから成る成膜条件の自律最適化を行った。ここでは、まずサファイア製のウエハー上で成膜条件を探索/最適化し、そこで得られた条件をβ-Ga2O3基板上の成膜へ転用することで、高品質なβ-Ga2O3単結晶薄膜の実現を目指した。
薄膜品質の指標として、光学測定の自動解析から得られ、膜中の欠陥や乱れの程度と相関するアーバックエネルギー(EU)を用いて、この値が小さくなる条件を探索した。56回の自律探索により、サファイア製のウエハー上でスパッタ法により作製したβ-Ga2O3の薄膜として、報告されている中で最小のEU=182meVを示す成膜条件を発見した。
アーバックエネルギーとは、半導体や絶縁体の光吸収スペクトルから求められる指標の1つで、材料中の欠陥や原子配列の乱れに由来する光学的な不均一性の程度を反映する。
サファイア製のウエハー上に作製した薄膜では、低いEUに加えて、異なる結晶相のない、目的とするβ-Ga2O3のみで構成されたヘテロエピタキシャル成長を確かめた。ヘテロエピタキシャル成長とは、異なる材料の基板上で、結晶の向きが一定の関係を保ちながら成長することを意味する。
この条件をβ-Ga2O3基板上の成膜に転用することで、高品質なβ-Ga2O3単結晶薄膜(原子が規則正しく並んだ結晶構造を持つ薄膜)を実現した。
また、自律最適化の過程で得られた成膜条件と薄膜品質のデータをランダムフォレストを用いて解析した。その結果、複雑に見える薄膜品質の変化は、温度、スパッタ電力、Ar流量、O2流量それぞれの影響を足し合わせることで大部分を予測できることが分かった。
一方で、温度とO2流量の組み合わせだけは、単純な足し合わせでは予測しきれず、重点的に調整すべき成膜パラメータの組み合わせであることが明らかになった。
これにより、ランダムフォレストが学習した複雑な予測結果を、「各パラメータの寄与」と「温度-O2流量の相互作用」から成る、人が解釈しやすい簡潔な形に整理できた。
これらの知見から、「各パラメータを順に調整し、最後に温度とO2流量を重点的に調整する」という、人が実行可能な成膜ルールを抽出し、この成膜ルールに基づいて研究者が再最適化を行った。
その結果として、EUが163meVまでさらに低減し、より高品質な成膜条件に到達した。これにより、抽出した成膜ルールが単なる相関の説明にとどまらず、実際の成膜条件最適化に有効な指針であることを実証した。
今回の技術は、ロボットによる高スループット実験と、機械学習による成膜条件の提案/データ解析を連携させることで、多次元の成膜パラメータ空間を効率的に探索し、その結果を人が理解/転用できる成膜ルールへとつなげられる。そのため、半導体材料、酸化物材料、量子材料など、条件探索が複雑な材料/デバイスプロセスへの活用が期待される。
今後は、複数の評価指標を扱う最適化や、材料物性/成膜プロセスの知識を取り入れたAIモデルの高度化を進める。さらに、多様な材料や装置での検証を通じて実験プロセスの自動化/知能化を推進し、材料/デバイス研究の効率化を加速する。また、実験データの蓄積に伴う成膜条件の提案や科学知識の獲得を高度化/自動化し、より賢く実験を進めるAI駆動型ラボの研究基盤へと発展させていく考えだ。
NTT 物性科学基礎研究所の若林勇希氏は「今回の技術をNTTの研究開発全ての基盤とし、研究開発能力を格段に引き上げて、実際に使える製品を製造しようと考えている。問題として実際に使えるレベルにするために改良が必要だが、この改良が順調に進んだ際に、グループ会社で生産する可能性もある」と明かした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
NTTが350時間の連続動作が可能な人工光合成デバイスを開発
NTTは、350時間の連続動作が可能な人工光合成デバイスを開発した。半導体光触媒と金属触媒を電極として組み合わせ、気体状態にある二酸化炭素の効率的な変換を可能とした。
NTTと富士通が光電融合デバイスの開発で提携「IOWN構想でゲームチェンジ」
NTTと富士通が「持続可能な未来型デジタル社会の実現」を目的とした戦略的業務提携に合意したと発表。同提携では「光電融合製造技術の確立」「通信技術のオープン化の推進」「低消費電力型・高性能コンピューティング実現に向けた共同研究開発」を進める。
NTTが光電融合デバイスの専門企業を設立「自動車やスマホにも光通信を広げる」
NTTグループで光電融合デバイスを手掛けるNTTイノベーティブデバイスが同社設立の背景や事業方針などについて説明。光電融合デバイスの適用領域を通信からコンピューティングに広げることで、早期に年間売上高1000億円の突破を目指す。
電力損失がSiの20分の1、NTTが次々世代パワー半導体AlNのトランジスタ動作に成功
日本電信電話(NTT)は、SiC(炭化シリコン)やGaN(窒化ガリウム)を上回る次々世代パワー半導体材料として期待されるAlN(窒化アルミニウム)を用いたトランジスタ動作に成功したと発表した。AlNのトランジスタ動作に成功したのは「世界初」(NTT)だという。
NTTが1波長当たり光伝送で世界最大容量の1.2Tbpsを実現、伝送距離の拡大も
NTTは、1波長当たり1.2Tbpsの光伝送を実現するデジタルコヒーレント信号処理回路と光デバイスを開発したと発表。これまでは1波長当たりの容量は800Gbpsが最大だったため「世界最大」(同社)を実現した。800Gbpsの光伝送距離を2倍以上に拡大することにもつなげられるという。


