製造業にとっての「SaaSの死」の意味 AIは業務システムに何をもたらすのか:製造ITと「SaaSの死」の複雑な関係(前編)(2/2 ページ)
AIエージェントの普及が進む中で、製造業の業務を支えるITシステムの在り方も大きく変わろうとしている。「SaaSの死」といわれる中で、AIエージェントによるシステム環境の変化について解説する。
生成AIとAIエージェントの違い
製造ITに関連するアプリケーションでも最近は「AI対応」をうたうものも増えてきています。しかし、そこで注意しなければならないのは、単純に生成AIを呼び出すだけで、「AI対応」をうたっている製品です。これは、深い意味で業務内容を理解してくれるわけではなく、翻訳ツールレベルのAI活用にとどまります。これでも自然言語でのやりとりは可能となる利点などがありますが、業務システムと組み合わせ、将来的に人の作業の代替を期待するのであれば、専門業務用のAIエージェント機能を保有しているかどうかを確認する必要があります。
専門業務用のAIエージェントは、例えば、ERPのシステムロジック、データ構成、発生頻度の高い業務を事前学習しており、運用時のレスポンス速度、回答データの網羅性と精度を確保しています。
次世代ERPではAIエージェントが「エンジン」となり、AIエージェントを介して多くの業務処理が実行されます。また、次世代ERPではユーザーインタフェース(UI)の概念が大きく変わります。今までは「画面デザイン」「使いやすさ」などが製品評価のポイントでしたが、次世代ERPでは全く新しいユーザーエクスペリエンス(UX)が提供されます。
下の図はもうすぐ正式リリースされるRootstock ERPの最新バージョンの画面イメージですが、画面右側で「チャットを始めましょう」と呼びかけています。これがAIエージェントで、ユーザーは基本的にここに自然言語で問いかけたり、要望を伝えることで作業を進めます。
次世代ERPでも「受注管理」「MRP計算」「購買管理」「製造管理」「出荷管理」「財務会計/管理会計」などの従来のERPの標準機能は実装されています。従来の方法でのシステム運用に加え、AIエージェントを呼び出して業務処理を行う選択肢が追加されます。
想定される運用イメージは、例えば受注登録、PO発行などの単純な作業については従来のシステム操作を行い、トレーサビリティー検索やMRP計算時の揺らぎ処理などの複雑な作業については、AIエージェントを活用することで、処理時間の短縮や複数要因の同時検討などが可能となります。
また、システムをうまく活用できない「動かないシステム」からの脱却にもAIエージェントが大きな役割を果たします。
今までのシステム運用はまず多くのシステム機能を理解し、正しい手順で操作することが必要でした。これが、多くの担当者にとってハードルが高く、決まった機能しか使えない状況を生んでいました。AIエージェントを有効活用することで、必要な機能やデータについてはAIエージェントが自動で判断して活用しますので、習得のための一連のプロセスが不要になります。さらに、AIエージェントを介して今まで使ったことのない機能も使えるようになります。
今までExcelに出力し、加工していたデータ処理も、AIエージェントが求める形で出力してくれます。AIエージェントには学習機能が備わっており、継続的に運用をすることで、より大きな効果を発揮できます。データも蓄積され、それを学習することで処理スピードやデータ精度が向上します。
AIが実現する世界
AIの技術革新スピードは今後さらに加速し、社会インフラの一部になることは間違いありません。世界中の企業でAIエージェントが運用されると、次に実現するのは複数のAIエージェント間の相互会話です。
例えば、顧客AIエージェントからの発注情報を自社のAIエージェントが受け取ったり、また自社AIエージェントから仕入れ先AIエージェントに発注情報を伝えて納期回答を得たりすることができるようになります。従来はメールやFAX、EDIによって行っていた受発注業務の概念が大きく変わるかもしれません。セキュリティ面の課題などがあるため、すぐに置き換わるとは思いませんが、AIエージェント間コミュニケーションの前提となる複数プラットフォーム間の標準プロトコルは既に決まっており、こうした世界の実現への歩みは着実に進んでいます。
次回は、AIと製造業務の関係についてさらに掘り下げて紹介します。欧米での先行した取り組みとともに、これから国内の製造業はAIによってどのように変化していくのかを考察します。
筆者紹介
栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役
経歴
1995年 マレーシアにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。タイ、日本、中国に現地法人設立
製造業向けERP「ProductionMaster」とMES「InventoryMaster」リリース
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asia設立
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却。パナソニックFSインテグレーションシステムズ株式会社 代表取締役就任
2020年 Rootstock Japan株式会社 代表取締役就任
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
AIエージェントを「既に活用」は11%、今後の期待は「設計/開発」用途に集中
MONOistは「製造業のAIエージェント活用実態調査」を実施した。調査期間は2026年2月12日〜3月2日で、有効回答数は328件だった。本稿ではその内容の一部を抜粋して紹介する。
完全自律型AIエージェントの検討、導入は15%にとどまる
Gartnerは、生成AIおよびエージェント型AIが企業アプリケーションに与える影響についての調査結果を発表した。ITアプリケーションリーダーのうち、完全自律型AIを検討、試験運用、導入している割合は15%だった。
クラウドリフトで再成長する日本オラクル、AIエージェントがさらなる強みに
日本オラクルが2026年度の事業戦略について説明。これまで推進してきたミッションクリティカルシステムのクラウドリフトに基づく基幹システムのモダナイゼーションの知見とノウハウをパートナーに展開する一方で、生成AIやAIエージェントを支えるデータとコンテキストを包含するAI-Readyなプラットフォームの構築に重点を置く方針である。
AIが話し合って調達を決める? 自律稼働SCMを目指すパナソニック コネクト
パナソニック コネクトは、R&D部門の取り組みを紹介するとともに、現在力を入れているSCM(サプライチェーンマネジメント)ソリューションの現状と今後の強化方針について説明した。
AIが同僚に? マイクロソフトが産業用AIエージェントで示す新たなモノづくり
Microsoft(マイクロソフト)は世界最大級の産業見本市「ハノーバーメッセ(HANNOVER MESSE) 2025」において、ローコード/ノーコードで作れる産業用AIエージェントをはじめとしたAIソリューションを公開。AIの“同僚”によって効率化される製造業界の姿を提示した。
データは可視化した後どう使う? AWSが示すAIエージェント活用
AWSジャパンは年次イベント「AWS Summit Japan 2025」において、AWSのサービスを活用したスマート製造のデモンストレーションを行った。

