製造業にとっての「SaaSの死」の意味 AIは業務システムに何をもたらすのか:製造ITと「SaaSの死」の複雑な関係(前編)(1/2 ページ)
AIエージェントの普及が進む中で、製造業の業務を支えるITシステムの在り方も大きく変わろうとしている。「SaaSの死」といわれる中で、AIエージェントによるシステム環境の変化について解説する。
筆者は長く製造業のITシステムに関わっており、その変遷を見てきました。15年以上前には「システムが動かないのは彼の年収を3倍にするため?」というコラム記事を執筆しましたが、従来「動かない(十分に機能しない)システム」の代表格といえば、ERP(Enterprise Resource Planning)/生産管理システムでした。一部機能しか使用できず、Excelで補完しているような業務運用は今でも多く見られます。
しかし、近い将来、こうした状況は大きく改善されるかもしれません。それが専門的な業務プロセスへのAI(人工知能)活用の定着です。まずは背景からご説明しましょう。
2026年上半期、IT業界で最も話題を集めたのは「SaaSの死」でした。きっかけは2026年2月に米国のAnthropicがリリースした「Claude Cowork」です。Claude Coworkは、PCのローカルファイル操作やWebブラウザの自動操作、定型業務の自律実行などをこなすAIエージェント機能です。
こうしたAIエージェントが自律的に日常業務をこなすようになると、情報の部分的な管理や定型操作だけを担う既存システムの一部機能は不要になります。特に、これらはSaaS(Software as a Service)として提供されていた手軽なシステムに大きな影響を与えるとされており、こうした変化が「SaaSの死」と呼ばれ、大きな注目を集めました。
ただ、全てのSaaS型ソフトウェアが使われなくなるわけではありません。それでは、生成AIおよびAIエージェントが浸透する中で製造業のITシステムはどのようになっていくのでしょうか。まずは「SaaSの死」の正しい意味を考えてみましょう。
「SaaSの死」の影響をどう捉えるか
簡単な作業を代替するようなシステムが「SaaSの死」によって、AIエージェントに代替されるとした際に、それでも残るシステムやその在り方はどうなるのでしょうか。
ポイントは2つあります。1つは、AIエージェントが完全には代行できないような、業務理解が必要で変化が大きな環境などで使用するシステムです。そしてもう1つが、日々の進化が著しいAIの発展を取り込めるようにするということです。
ERPや生産管理などの製造業にとって重要な業務を担うシステムは、オンプレミス製品やSaaS製品が混在している状態です。海外では、AIエージェントをこれらの業務システムに融合させる、より大胆な動きが進んでいます。AIエージェントの活用を前提とし、それらにシステム内のデータを学習させ、より有益で正しい動作や作業を担わせられるようにします。つまり、AI運用を前提とした仕組みへの切り替えが進んでおり、これらに対応できないシステムが淘汰されるという動きが進んでいるのです。
すなわち、「SaaSの死」は、より正確に捉えると、SaaS型で提供されるソフトウェアそのものが使われなくなるというよりも、AI時代に対応できないために使われなくなるということを指しています。
AIや、その前提となるクラウドへの対応状況は、国内外のITベンダーで大きく異なります。Salesforce、ServiceNow、Workday、SAP、Oracle、Microsoftなど、クラウドベンダーから従来のERPベンダーまで巨額のAI投資を行っています。一方で国内ベンダーはクラウド化への対応が遅れており、対応するアプリケーションなども少ないという現状があります。ちなみに、欧米市場で新規ERPプロジェクトを進める場合、クラウドERPをRFP(Request For Proposal)の条件とするものが大半となってきています。
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