機械設計者が思わず「簡単に言うなや!」と身構える要求6選【後編】:設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策(17)(2/2 ページ)
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを取り上げ、その解決アプローチを解説する。連載第17回は、機械設計者が思わず「簡単に言うなや!」と身構えてしまう要求6選の後編として、産業用ロボットの活用、メンテナンスフリー、出荷前状態の完全再現という3つの要求を取り上げる。
事例(6):出荷前の状況は現地で100%再現できるように
これは、ご自身で実際に機械設計のプロジェクトをやり切った経験や、現場で組み立て/調整した経験のない方から、たまに出てくる発言です。
自動機の機械設計がスタートしてからエンドユーザーに納品されるまでは、一般的に次のように進みます。
- 顧客から支給される仕様や要望に沿って設計をする
- 設計したCADモデルや図面を顧客に提出し、デザインレビューを行う
- 設計図書について顧客の承認を得て、部品発注、組み立て/調整(電気制御も含む)業者への発注をする
- 設備メーカーの工場内で装置を組み上げ、試運転する
- エンドユーザーに来訪してもらい、仕様通りであるか、あるいは追加要望がないかを確認してもらう(いわゆる出荷前立ち会い)
- 装置をエンドユーザーの工場へ搬送し、据え付け/試運転をする
- 装置の取り扱いについてオペレーターさん/保全さんへレクチャーをし、納品完了
「機械設計の作業自体」はおおよそ1〜3.までなのですが、機械設計者がプロジェクトの一員として1〜7.まで関わるケースも多い印象です。4.以降はプロジェクトマネジメントとして対応する場合もあります。
ただ、3.で設計作業が終わったとしても、実際に装置を組み上げたり、試運転で動かしてみたりすると、所々問題点が見つかります。また、顧客から「認識していたものとなんか違う」と指摘されるケースも少なくありません。
そのような問題に柔軟かつスピーディーに対処できるよう、いきなりエンドユーザーの工場で組み上げるようなことはせず、まずは設備メーカー内で対応するのです。
そのような中、5.の段階でたまにあるのが、
今日時点では問題がないことを確認しました。でも現地に輸送して据え付けた後も、今日の状況が100%再現できることを保証してください。
という指摘です。
ここで説明しておきたいのが、この「100%再現」というのは、「仕様書通りに動くこと」という意味ではありません。それをさらに超えて、「調整ねじ、アジャストパッド、スピコン、センサーの取り付け、アンプの設定、ソフトウェア全般を現時点から一切変更することなく、エンドユーザーの工場でも仕様書通りに動くこと」という意味です。一見あり得ない話に思えますが、筆者自身も経験があります。
おそらく発言者の方の中では、「せっかく適切に動くように今日時点でできているのだから、その状態を完璧に維持すれば現地での工期が短縮できるはずだ! そのための出荷前確認なのだから!」と考えているのでしょう。
これは「大筋の考え」としては間違っていないのですが、とはいえ「微々たる変更もしてはいけない」というのはかなり無理がある話です。
結論からいうと、そんなことをすると逆に現地でうまく機械が動かなくなります。
理由の1つが、「設備メーカーの工場内とエンドユーザーの工場内とでは、そもそも環境が同一ではないから」です。
代表的なのが「床の状態」です。基本的に工場の床は「きれいな水平」にはできていません。一見きれいな床に見えても、必ず不陸(床のうねり、傾き、凹凸など)が存在します。この不陸の違いによって、特に工程間の搬送が安定しなくなるというのは、本当にあるあるです。
2つ目の理由が、「エンドユーザーの工場へ輸送するために、一部装置を分解しなくてはならないから」です。
生産設備の多くはトラックに積み込んで陸路で運搬しますが、トラックの荷台にそのままでは載らない規模の装置となると、そもそも一部を分解しないとエンドユーザーの工場内への搬送自体ができません。
また、最近はカメラや画像センサーなどといった精密機器を取り扱う設備も多いため、輸送中の破損を防ぐために「あえて精密機器は取り外して厳重に梱包(こんぽう)する」という対応もよくあります。
3つ目の理由が、「量産稼働によって初めて発覚する問題もあるから」です。
多くの場合、設備メーカー内で試運転調整する際には、顧客から実際のワークをいくつか支給してもらい、それを使って作業を進めます。
ですが、この支給されたワークは、
- そもそも支給されたワークの数が少ない
- 完全に新品のもの、あるいは既に何回も手に触れられた後のもの
- 不良品や品質にばらつきのあるワークが含まれていない
という場合も割と多く、その中で作業をするしかありません。
一方で、実際の生産稼働においては1日に何千個も生産しますし、その中でワーク自体の品質がばらついているのが普通です。
また、搬送用パレットなどは、新品のものから使い古されたものまでピンキリであるのが一般的でしょう。
最終的には、このような状況も含めて対処、あるいは取り扱いの注意喚起をしていく必要があります。
そもそも論、設計では基本的に「装置の稼働環境が変わったとしても正常に動作できるよう、必要箇所に調整機構/調整パラメーターを用意している」ものです。
出荷前から指一本の変更も許さない!!
微々たる変更だとしても、対応が必要な事態になれば始末書!
という指示を実際に受けた経験が筆者にはありますが、実は設備設計の基本的な考え方や、現場で現実的に対応できる範囲からかなり逸脱しています。そのような厳密なところまで管理しなくとも、正常稼働できるように設計している方が一般的なのです。
ただ、「必要なところに適切な調整機能を付与する」「不必要に誤差要因/調整機能は付与しない」といった部分は設計者の腕の見せ所でもあります。そのスキルを日々磨いていく姿勢は、設計者として重要でしょう。 (次回へ続く)
筆者プロフィール:
りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者
2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い【前編】
社会や現場課題を解決するためのアイデアを考え、それを具現化する「機械設計」の仕事ですが、実は「製品設計」と「設備設計」で文化や仕事の進め方が大きく異なります。今回は【前編】として、「設計対象物」「QCDの優先順位」「新規性の有無」をテーマに“製品設計と設備設計の違い”を分かりやすく解説します。
いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い【後編】
社会や現場課題を解決するためのアイデアを考え、それを具現化する「機械設計」の仕事ですが、実は「製品設計」と「設備設計」で文化や仕事の進め方が大きく異なります。【後編】では、製品設計と設備設計における「予算配分」「求められる知見」の違いに触れるとともに、「製品設計と設備設計のこれから」について言及します。
機械設計者が思わず「簡単に言うなや!」と身構える要求6選【前編】
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを取り上げ、その解決アプローチを解説する。連載第16回は、機械設計者が思わず「簡単に言うなや!」と身構えてしまう要求6選の前編として、「レイアウト変更」「からくりを使った低コスト化」「左右対称の装置」の3つを取り上げる。
ソフト設計者が混乱する機械屋からの要望【安全対策編/後編】
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを取り上げ、その解決アプローチを解説する。連載第15回は、ソフトウェア設計者が現場で混乱してしまう機械設計者からの要望【安全対策編】の後編をお届けする。
ソフト設計者が混乱する機械屋からの要望【安全対策編/前編】
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを取り上げ、その解決アプローチを解説する。連載第14回は、ソフトウェア設計者が現場で混乱してしまう、機械設計者からの要望【安全対策編】をお届けする。
ソフト設計者が現場で困惑する機械屋からの追加要望【異常編/後編】
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第13回は、前回に引き続き、ソフトウェア設計者が現場で困惑してしまう、機械設計者からの追加要望【異常編】をテーマにお届けする。

