メカトロ機器を素早く動かしたい、LMガイドの剛性を見積もる:冴えない機械の救いかた(11)(1/4 ページ)
本連載「冴えない機械の救いかた」では、メカ設計の失敗事例を題材に、CAE解析や計測技術を用いて、不具合の発生メカニズムとその対策を解説していく。第11回は、メカトロ機器を素早く動かしたときに発生する振動問題を取り上げる。LMガイドやボールねじの構造を確認し、LMガイドにホリゾンタル荷重やヨーイングモーメントが作用したときの剛性を見積もる。
今回は、メカトロ機器を素早く動かしたときに発生する振動問題の対処法です。
以前執筆した連載「CAEと計測技術を使った振動・騒音対策」の第15回と重複するところもありますが、初心者向けにリライトするとともに、LMガイド(直動ガイド)やボールねじの剛性が思っているより小さいこと、LMガイドのレイアウト失敗事例を新たに加えます。
では、生産現場で稼働する機械にはどのようなことが求められるのか、考えてみましょう。
メカトロ機器を素早く動かしたい
生産に使われる機械には、1日当たり、1時間当たりの生産数の向上が常に求められています。生産性向上ですね。このためには機械を速く動かす必要がありますが、動かすだけでなく、素早く停止しなければなりません。つまり、急加速/急停止が求められます。
生産物(以降、「ワーク」と呼びます)を位置決めして加工や組み立てを行い、次の位置に移動して再び加工や組み立てをする機械を考えましょう。
図1は、位置の時間変化を示します。横軸は時間、縦軸は機械の位置です。位置は0[mm]から10[mm]へ移動するものとしましょう。10[mm]の位置への移動が完了したら、加工や組み立てを行います。
赤色グラフがスピードアップ後、青色グラフがスピードアップ前の機械の位置です。図1右図は、急停止したときの機械の位置を拡大したものです。
スピードアップした場合は、停止するための加速度が大きくなりますね。そのときに発生する慣性力は「加速度×可動部質量」で表され、この力が可動部と機械本体に作用します。この慣性力によって機械は振動します。
今まで「振動対策の第一選択肢は機械の剛性(ばね定数)を上げること」と言い続けてきました。今回も同じスタンスで話を進めます。直動ガイドのレイアウト失敗事例がメインとなるので、剛性を下げてしまうような直動ガイドのレイアウトを紹介します。
もちろん、可動部質量の削減も同様の効果がありますね。この点は以前の連載「フリーFEMソフトとExcelマクロで形状最適化」を参考にしていただければと思います。
図1を見ると、スピードアップした結果(赤色線)、機械の振動が増大し、位置決め完了に要する時間が伸びました。つまり、生産性向上は失敗に終わりました。
振動がゼロになるまで待つと、かなり長い時間待たなければならないので、ある時点で位置決め完了と決めて加工を始めることになります。振動がゼロになっていないため、ある程度の振動を許すことになり、位置決め精度が低下します。その結果、製品品質も下がってしまいます。
このとき許した振動量を「許容値」としましょう。製品の小型化や高精度化に伴い、この許容値を小さくしたいという要求があります。その結果、位置決めに要する時間が伸び、単位時間当たりの生産量が低下します。
前述した関係を図2で表現しました。言葉で説明すると、生産性向上のためにスピードアップしたら振動が増大し、位置決め精度が低下して、製品品質も下がってしまいます。
一方、製品の小型化や高精度化の要求に応えるため、高精度な加工や組み立てを行いたい場合は、振動がなくなるまで待たなければならず、単位時間当たりの生産数が低下することになります。
このように、生産性向上と製品品質向上は相反する関係にあり、図示したループが出来上がります。モノづくり競争の世界では、生産性向上と製品品質向上が常に要求されるため、このループは無限ループとなります。
無限ループだからといって、仕事が終わらないと悲観することはありません。AI(人工知能)がこの手の仕事を、メカの改造を含めて全て肩代わりするには、まだ時間がかかると思います。定年する年齢まで仕事が存在するのですから、いい仕事に就いたと考えましょう。
XYテーブルのおさらい
本シリーズではXYテーブルが頻出します。XYテーブルのうち、X軸方向に動かすテーブルを1軸アクチュエーターと呼びましょう。1軸アクチュエーターを言い換えるとX軸テーブルであり、図3に1軸テーブルを示します。
サーボモーターによってボールねじを回転させると、ねじ対偶に従ってボールナットがねじの軸方向に進みます。ステージは、ボールナットとLMブロックに結合されています。ベース側にはLMレールが取り付けられており、ステージはLMレールの方向だけに直線運動します。
運動の自由度には、X方向並進、Y方向並進、Z方向並進、X軸回り回転、Y軸回り回転、Z軸回り回転の6自由度がありますが、これらの機械要素によってX方向の並進だけに限定されます。
LMブロックとLMレールを合わせて、LMガイド(Linear Motion Guide)ないしは直動ガイドと呼びます。ロータリエンコーダーは、サーボモーターの回転角を測定して電気信号のパルスを出力します。このパルスに従ってモーターの回転角が制御されます。これをフィードバック制御と呼び、後でフィードバック制御の挙動を詳しく説明します。
図4にボールねじとLMガイドの構造を示します。滑り対偶となる部品はなく、全て転がり対偶(ボールの転がり)となっています。ボールはリターンパイプ内を通って循環します。全て転がり対偶と書きましたが、リターンパイプ内ではボールが滑っているかもしれません。
以前、ねじ締結に加えたトルクの80〜90[%]は摩擦に費やされ、残りの10〜20[%]が軸力の発生に使われると書きました。とても効率の悪い機械要素です。
一方、ボールねじの機械効率は90[%]程度です。ねじ締結体はナットを押してもボルトは決して回りませんが、ボールナットを押すと、ボールねじは簡単に回転を始めます。
また、通常の滑り摩擦係数は0.2[-]程度ですが、LMガイドの摩擦係数(クーロン摩擦です)は0.00*[-]台です。転がり対偶の機械要素にクーロン摩擦を導入することには抵抗がありますが、それくらい滑りやすいとお考えください。
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