日本の石油化学は、どう生き残るのか:ごりおの化学素材業界最前線レポート(3)(2/3 ページ)
化学メーカーに勤務しつつ、化学や素材の業界における動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについてSNSで情報発信しているごりお氏の連載。第3回は、国内石油化学産業の生き残りをかけた取り組みについて解説します。
4年間続く低稼働
日本の石油化学は、ある危機に直面しています。
よく分かるのが国内エチレン設備の稼働率です。石油化学工業協会(JPCA)の発表によると、2026年6月の稼働率は66.5%でした。連載第1回と連載第2回で触れた3月の68.6%からさらに下がり、最低を更新しています。
2026年6月は3社のプラントが定期修理中だった事情はあるものの、採算の目安とされる90%を下回るのはこれで47カ月連続になります。約4年間、日本のエチレン設備は、収益を圧迫する低稼働を続けているのです。
連載第1回で解説した通り、エチレン設備は石油化学産業の出発点です。ナフサを高温で分解してエチレンやプロピレンといった基礎化学品を作り、そこから幅広い誘導品へつながっていきます。
その出発点であるエチレン設備の稼働率が、7割を切っています。石油化学は装置産業であるため、稼働率が収益性に直結します。巨大な設備を高い稼働率で回し、固定費を薄めることで、ようやく利益が出ます。稼働率90%が採算の目安とされるのはこのためで、66.5%は、動かしていても利益を出しにくい水準です。
内需の縮小と、中国の供給過剰
では、なぜ稼働率はここまで下がったのでしょうか。中東情勢のような一時的な要因に加えて、長期にわたり稼働率が低迷している、構造的な要因が2つあります。
1つ目は、国内需要の縮小。人口減少やユーザー企業の海外移転で、基礎化学品の内需は細り続けています。2024年の国内エチレン生産は498.2万トンと、500万トンを割り込みました。500万トンを下回るのは1987年以来のことです。
2つ目は、輸出先だった中国の変化です。かつては日本国内の余剰分を中国向けの輸出が吸収していました。ところがその中国が、自前の設備を大幅に増やしています。
経済産業省の資料によれば、中国のエチレン生産能力は2022年から2027年にかけて約2600万トン増える見込みです。この増加分だけで、日本の全設備の能力である620万トンの4倍を超えます。
中国政府も供給過剰は認識しており、新増設を抑える政策を打ち出しています。ただ、同じ政策の中に業界の成長目標が混在しており、過剰は2030年前後まで続くという見方もあります。かつて輸出を吸収していた中国は、いまや余った製品を輸出する側に回りつつあるのです。
世界で進む石油化学の再編
視野を広げると、世界の石油化学にも動きがあります。
日本と同じく、供給過剰に直面する韓国では、政府が石油化学の再編を主導しています。2025年8月に政府と石化大手10社が設備削減の方向で合意し、2026年2月には第1号案件として、大山地区にあるロッテケミカルの事業を分社化してHD現代ケミカルへ統合し、ロッテ側の年110万トン設備を3年間停止する計画が承認されました。
韓国は、日本以上に輸出を前提とした大型設備を抱えています。中国の内製化による販路縮小が企業財務や地域雇用にまで波及しているため、政府主導の再編を迫られていると見られます。
また、エネルギーコストの高さに悩む欧州では、閉鎖が先行しています。2024年から2027年にかけて、7基のエチレン設備、年約400万トン分の設備が閉鎖済みか、閉鎖の決定に至ったとされています。
需給の悪化や設備の老朽化に加えて、安価なロシア産ガスの供給減少と液化天然ガス(LNG)依存の高まりといった、構造的な不利が設備退出を早めているのです。
このように、設備の縮小は日本だけの話ではなく、世界で同時に進んでいます。
強みを持つ国も
一方で、立地や設備に強みを持つ国は、状況が異なります。
例えば米国では、シェールガス由来の安価なエタンを、エタンクラッカーで熱分解してエチレンを生産します。原油由来のナフサを使う日本や欧州に比べて、製造コストを抑えやすく、原油価格の影響も相対的に受けにくい構造です。
中国では、製油所とエチレン設備、その下流の樹脂工場までを一体化した、巨大な石油化学コンビナートが相次いで建設されています。新しく大規模な設備を動かし、原料調達から製品化までをまとめることで、製造コストを引き下げる構造です。さらに、巨大な国内市場を抱えるため、生産した製品を国内で大量に消費できることも強みです。
こうした「原料の安さ」「設備の大きさと産業集積」「消費立地」を優位性に、コスト競争力を発揮する国もあります。
日本に残された道は
ここまでを整理すると、内需は細り、輸出先だった中国は供給側に変わりました。日本は、米国のような安価なエタン原料を持たず、中国で相次ぐ新設/大型一貫設備ほどの規模や新しさも備えていません。規模とコストの勝負に持ち込んでも、勝ち目は薄い状況です。
そうすると、日本の石油化学に残された道は多くありません。次項では、どのような道筋が残されているのか、その中で分社化がどのような役割を持つのかを見ていきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.





