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ナフサ危機は去ったのか――サプライチェーン強靭化から読む石油化学の今後ごりおの化学素材業界最前線レポート(2)(1/3 ページ)

化学メーカーに勤務しつつ、化学や素材の業界における動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについてSNSで情報発信しているごりお氏の連載。第2回は、サプライチェーンの強靭化から読む石油化学の今後について解説します。

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 中東情勢が、ひとまず落ち着きを見せつつあります。

 2026年6月15日、米国とイランは戦闘を終結する覚書に合意しました。合意の持続性など予断を許さぬ展開は続いていますが、覚書によれば、事実上封鎖していたホルムズ海峡も、順次開放に向かうとされています。

 原油の国際相場は、一時の100ドル越から70〜90ドル台へと後退。塗料や溶剤で起きていた流通の目詰まりも、解消に向かっています。供給不安はやわらぎ、相場は落ち着きを取り戻しつつあるといえそうです。

Brent原油価格チャート
原油価格チャート[クリックで拡大] 出所:EIA/FRED

 もちろん、戦闘が止まることと、物流が平時へ戻ることは、同時ではありません。

 船舶の往来が平時のペースに戻るのには時間がかかり、原油価格が下がっても、製品価格がすぐに下がるわけではありません。企業の手元には高値で仕入れた原料在庫が残り、先安観から発注を手控える、買い控えの反動にも注意が要ります。

 しばらくは、こうした後遺症に気を配る必要があるものの、数カ月にわたって石油化学業界を揺らしてきた危機は、最悪の局面をひとまずは脱したといえそうです。現場としても、ようやく一息つける、という空気が戻りつつあるのではないでしょうか。

 では、問題は完全に終わったのかといえば、そうとは言い切れません。

 中東危機は、日本の石油化学産業がいかに重要な基盤であるかを、改めて認識させる出来事となりました。

 今回はなんとか対応が間に合ったものの、「次に同じことが起きたとき、日本の供給網は耐えられるのか」という課題が顕在化しています。関心は「モノを確保できるか」から、「有事にも耐えられる供給網を、どう設計しておくか」。つまり調達の幅、備蓄、産業の競争力までを含む問いへと、移り始めているのです。

そもそも、何が起きていたのか

 では改めて、今回の危機が何だったのか、簡単に整理しておきます。中東情勢の悪化で浮き彫りになった課題は、ナフサの調達です。

 ナフサは、原油から得られる石油化学の出発原料。簡単に言えば、プラスチックや合成ゴム、溶剤、塗料や接着剤といった素材の基になる液体です。これを高温で分解する設備をナフサクラッカーと呼び、そこではエチレンやプロピレンといった基礎化学品が得られます。

 つまりナフサという1つの材料から、階層的に、多様な製品群/産業へと枝分かれしていく構造になっています。故にナフサの調達が不安定化すると、その先に枝分かれする素材までが、まとめて影響を受けることになります。

 実際にナフサの供給不安を引き金に、包装材や日用品、自動車部品、電子部品、住宅資材まで、製造業の幅広い現場に影響を及びました。

石油化学製品ができるまで
石油化学製品ができるまで[クリックで拡大] 出所:石油化学工業協会(JPCA)

 ナフサが供給不安へ陥った原因は、その中東依存と在庫の薄さです。

 日本は、ナフサの調達を中東に大きく依存しています。中東原油由来の国内精製分まで含めると、実質8割が中東由来とされています。加えて、ナフサの国内在庫は20日分程度とされ、原油ほどの余裕はありません。

ナフサの国産/輸入推移
ナフサの国産/輸入推移[クリックで拡大] 出所:JPCA

 実際、今回の危機では、ホルムズ海峡の事実上封鎖を受けて、国内のクラッカーが減産や稼働延期を迫られました。2026年3月の稼働率は68.6%と、統計を取り始めた1996年以降で最も低い水準とされています。

 中東情勢が悪化すると、石油化学の大本が真っ先に影響を受ける。そしてその影響が、幅広い製造業に波及する。産業を支える石油化学の構造的な脆さが、数字に表れた形です。

 では、なぜ日本の石油化学は、中東にこれほど依存しているのか。そして同じ危機に陥らないために、これからどう備えればよいか。重要になるのが、効率性と強靭性という、相反する2つの観点です。

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