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ナフサ危機は去ったのか――サプライチェーン強靭化から読む石油化学の今後ごりおの化学素材業界最前線レポート(2)(2/3 ページ)

化学メーカーに勤務しつつ、化学や素材の業界における動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについてSNSで情報発信しているごりお氏の連載。第2回は、サプライチェーンの強靭化から読む石油化学の今後について解説します。

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中東以外からの調達の難しさ

 では、危機のさなか、調達網は実際にどのように変化したのでしょうか。

 ホルムズ海峡の事実上封鎖を受けて、総合化学メーカー各社は中東以外、例えば米国やアフリカからのナフサ調達を進めました。これにより、低い稼働率を保ちながら、設備を完全には止めずに操業を続けることができました。

 「ナフサが手当てできずにプラントが止まる」という最悪の事態は、ひとまず避けられた形です。

 では今後も、調達網を中東以外へ広げることは可能なのでしょうか。

 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の三田部眞理氏は「米国はどこまで原油を輸出できるのか」と題したレポートで、米国産が中東産の受け皿になり得るのは確かだとしつつ、その量も持続性も限られるとみています。

 米国内のインフラや法規制、アジアへ運ぶルートの制約、政策の不確実性。こうした事情が重なり、中東を丸ごと置き換えるところまではいかない、というわけです。

米国原油輸出量の推移
米国原油輸出量の推移[クリックで拡大] 出所:JOGMEC

 さらに制約があるのは、インフラだけではありません。原油には、性状の違いがあります。米国産のシェールオイルは、軽質で硫黄分の少ない「ライト・スイート」、中東産は相対的に重質で硫黄分が多い「ミディアム〜ヘビー・サワー」が中心です。

 日本の製油所は中東産に合わせて作り込まれており、そこから得られるナフサを前提に、エチレン設備も組み立てられてきました。原油の種類が変われば、得られる留分の構成が変わり、ナフサの歩留まりや装置の使い方にまで影響します。調達先を増やすという発想には、設備という物理的な縛りがついて回ります。

 そして、もう1つの大きな壁が「コスト」です。

 調達先の多角化といっても、取引先の数や国の数を増やすだけでは十分ではありません。

 別々の会社から買っていても、同じ港や同じ海峡を経由していれば、脆弱(ぜいじゃく)性は残ります。原料の品質や航路、港湾までさかのぼって共通点を確かめなければ、見掛けだけの分散に終わりかねません。

中東情勢とチョークポイント
中東情勢とチョークポイント[クリックで拡大] 出所:資源エネルギー庁

 一方で調達先を分散させるほど、輸送距離や手配の手間は増え、コストは上がります。どの品目で在庫をどれだけ持つか、という管理の負担も重くなります。多様化は「できる」けれども、「タダではない」わけです。

 このように考えると、中東原油は大規模で生産コストが低く、まとまった量を安定して確保できます。平時のコスト競争という視点では、極めて合理的な選択でした。その積み重ねが、いまの高い依存度につながっています。

 実際、資源エネルギー庁の「エネルギー白書」によると、日本の原油輸入に占める中東依存度は、1967年度には91.2%でした。現在とほとんど変わらない水準です。

 その後、中国やインドネシアからの輸入が増えたことで、1987年度には67.9%まで低下しています。日本はオイルショックの経験を踏まえ、輸入先の多角化を進めていたのです。

 しかし、その後中国や東南アジア諸国からの輸入が減少に転じ、日本の中東依存度は再び上昇。2009年度には89.5%に達し、2023年度には94.7%と、一度下がった中東依存度がオイルショック前よりも高くなっています。

 中東の原油を、特定の地域がそっくり置き換えられるわけではない、ということを物語っています。

中東依存度の長期推移
中東依存度の長期推移[クリックで拡大] 出所:資源エネルギー庁

ナフサ備蓄は可能か

 ここまでは「効率性」という観点から、調達の多角化における課題について取り上げました。そして、効率を優先してきたのは調達先だけではありません。備蓄もまた、同じ課題を抱えています。

 第一次石油危機の反省から、1975年には石油備蓄法で民間備蓄が義務付けられ、1978年には国家備蓄が始まっています。積み上げの結果、いまでは原油換算で200日分を超える備蓄を持つに至りました。

 ただし、その備えは、原油や石油製品が中心です。石油化学の出発原料であるナフサそのものの備蓄は、前述した通り、20日分程度しかありません。

 こうした事情を背景に、自民党内ではナフサの民間在庫/備蓄の確保を求める議論が浮上しています。与党内や国会周辺でも、1993年まで存在した民間備蓄支援の法制化を含めた検討が求められました。

 政府側も、ナフサそのものの長期備蓄には課題があるとしつつ、備蓄方法や支援の必要性を引き続き検討する姿勢を示しています。

 では、簡単に備蓄を厚くできるかと言えば、そう単純な話でもありません。ここでも「コスト」、つまり効率性と強靭性のトレードオフが課題となります。

 備蓄は有事の備えになりますが、持てば持つほど保管や管理のコストがかかります。従って、そのコストを誰が負担するのか、という問題が生じます。

 企業だけが負担するのであれば、国際競争力を削ります。国が全てを抱えれば、財政の負担になります。需要家に転嫁すれば、川下産業のコストに跳ね返ります。

 備蓄は、社会全体にとって必要でも、誰かがその費用を負わなければ成り立ちません。ナフサ備蓄は、有事へ備えた在庫として有効であるものの、平時はその負担を誰がどう分け合うか、という課題があるのです。

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