ポテチはなぜ白黒になったのか? ナフサから見る石油化学サプライチェーン:ごりおの化学素材業界最前線レポート(1)(1/3 ページ)
化学メーカーに勤務しつつ、化学や素材の業界における動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについてSNSで情報発信しているごりお氏の連載。第1回は、国内で大きな関心を集めるナフサの動向や今後の展開について解説します。
石油化学産業の出発材料となるのが「ナフサ」
中東情勢の影響が、ポテトチップスのパッケージにも表れ始めています。
2026年5月、大手菓子メーカーのカルビーは、「ポテトチップス」や「かっぱえびせん」など一部商品の包装について、使用する印刷インクの色数を2色に変更すると発表しました。対象は「うすしお味」「コンソメパンチ」「のりしお」などで、カラー包装の在庫がなくなり次第、5月25日以降の出荷分から順次切り替わるとされています。
背景にあるのが、原油/ナフサの調達懸念です。ホルムズ海峡の事実上の封鎖により海上輸送が制限されており、石油を原料とした化学製品のサプライチェーンに乱れが生じています。
ポテトチップスといった実際の商品は、中身だけで成り立っているわけではありません。店頭に並ぶための包装フィルム、そこに印刷されるインク、物流に使われる資材など、周辺には多くの石油由来の化学製品が関わっています。
つまり白黒になったポテチの袋は、石油化学サプライチェーンの乱れが、生活者の目に見える形で表れた事例といえます。ナフサの供給不安は、工場や原料メーカーだけで完結する話ではなく、食品包装や日用品、建築資材など、私たちの身近な製品へと波及しています。
もちろんこれは、菓子メーカーに限った話ではありません。建築現場で使われる溶剤やシンナー、ごみ袋やプラスチック資材など、石油化学製品の不足や高騰は、あらゆる場面に波及し始めています。今後の国際情勢によっては、その影響がさらに拡大する恐れがあります。
いったい今、石油化学のサプライチェーンに何が起こっているのでしょうか。そしてこれからの私たちの生活には、どのような影響が想定されるのでしょうか。
本記事では、石油化学産業のサプライチェーンをひもときながら、その現状とこれからを解説していきます。
石油からさまざまな化学製品をつくる産業を「石油化学産業」といいます。プラスチックや合成繊維、合成ゴムなど、身の回りの多くの製品はこの石油化学産業が担っています。
その石油化学産業の出発材料となるのが「ナフサ」です。中東情勢の悪化を受けて、最近は、その名前を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。ナフサはガソリンに似た透明な液体で、原油から得られる石油製品の1つです。
ナフサは、ナフサ分解工場、いわゆるナフサクラッカーで処理されています。画像の四角い箱形の部分がそれに当たります。この中でナフサを高温分解することで、エチレンやプロピレン、ブタジエンといった複数の基礎化学品が作られます。
ナフサから得られた基礎化学品は、プラスチックや合成ゴムといった誘導品の原料として用いられます。誘導品は用途が細かく分かれており、その種類は数千にも及びます。そこから私たちのなじみのある包装材、合成繊維、接着剤、洗剤といった日用品、また自動車部品、塗料、家電部材などの工業製品へと広がっていきます。
つまりナフサという1つの材料から、階層的に、多様な製品群/産業へと枝分かれしていく構造になっています。これが、石油化学は裾野が広く、あらゆる産業を支える基幹産業と呼ばれるゆえんです。一方で、川下に行くほどサプライチェーンは複雑になり、全体像がつかみづらい要因でもあります。
このようにナフサから得られる石油化学製品は多種多様ですが、逆に言えば、石油化学製品の多くは元をたどればナフサに行きつきます。白黒になったポテトチップスの包装も、ごみ袋の値上げも、最終的には原油/ナフサの供給環境の悪化とつながります。
これがナフサの供給懸念が石油化学産業にとどまらず、あらゆる産業に波及している要因といえます。
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