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ポテチはなぜ白黒になったのか? ナフサから見る石油化学サプライチェーンごりおの化学素材業界最前線レポート(1)(2/3 ページ)

化学メーカーに勤務しつつ、化学や素材の業界における動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについてSNSで情報発信しているごりお氏の連載。第1回は、国内で大きな関心を集めるナフサの動向や今後の展開について解説します。

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中東情勢の悪化による石油化学産業への影響

 ここまでは、石油化学産業のサプライチェーンを概説しました。ナフサを原料にさまざまな石油化学製品が作られ、幅広い製品群/産業へとつながっていきます。

 では中東情勢の悪化を受けて、石油化学産業は、具体的にどのような影響を受けたのでしょうか。

 まず問題となったのは、石油化学産業の大本である、ナフサの調達です。

 日本は輸入ナフサの多くを中東に依存しており、これは国内消費量の4割程度に相当します。中東原油由来の国産ナフサも含めれば、実質8割は中東由来とされています。中東情勢の悪化は日本の石油化学産業にとって、急所を突かれた状況といえます。

ナフサの国別輸入比率(2024年)
ナフサの国別輸入比率(2024年)[クリックで拡大] 出所:石油化学工業協会

 加えて、ナフサの国内在庫は20日分程度とされており、原油ほど余裕があるわけではありません。

 このような理由から、真っ先に影響を受けたのがナフサクラッカーです。例えば、ホルムズ海峡の事実上の封鎖から1週間が経過した3月6日、三菱ケミカルは鹿島で運営するナフサクラッカーの減産を決定しています。三菱ケミカルに限らず、原料ナフサの供給制約から、国内のナフサクラッカーは稼働率の低下や再稼働の延期を余儀なくされました。

 前項で説明した通り、ナフサクラッカーは石油化学産業の出発点であり、ナフサを高温分解することで基礎化学品を製造しています。そのナフサクラッカーが中東情勢の緊迫化により、「いつ止まるか」といった問題に直面していました。

 これは川下の化学製品に波及する大きな問題であり、政府や企業は中東以外からのナフサ調達、輸入ルートの見直しを急ピッチで迫られました。

 では中東情勢の緊迫化を受けて、ナフサクラッカーの現状はどうなっているのでしょうか。

 2026年3月、国内のナフサクラッカーの稼働率は68.6%まで低下しました。これは1996年に統計を取り始めて以来、過去最低の水準とされています。中東情勢の影響が数字に表れたといえます。

範囲:2023年4月〜2026年3月。石油化学工業協会の月次実績概要メモから、稼働プラントの実質稼働率試算を集計
範囲:2023年4月〜2026年3月。石油化学工業協会の月次実績概要メモから、稼働プラントの実質稼働率試算を集計[クリックで拡大] 出所:石油化学工業協会

 一方で、2026年5月時点では、米国や中南米、アフリカなど中東以外からのナフサ調達が進んだことで、国内ナフサクラッカーは低稼働ながらも操業を継続している状況です。

 旭化成 代表取締役社長の工藤幸四郎氏は2026年4月の時点で、ナフサ調達について「6月中旬から6月末くらいまではめどが立った」と述べており、操業を維持できる体制が整いつつあります。

 つまり平時ほど潤沢ではないにせよ、「今すぐ完全に止まる」リスクは低下したとみられます。まだ不透明感は残りますが、ナフサ調達をさらに上積みできれば、その期間はまだ延びる可能性があります。

 一方で、これで全ての問題が解決したわけではありません。

 その後生じた問題が、供給の偏りと流通の目詰まりです。

 建築現場/印刷インクに使われる溶剤やシンナーは、不足が顕在化した分野の1つです。日本接着剤工業会や日本塗装工業会は「原料の調達はかなり厳しい状況にある」と同年4月にコメントしており、原材料の先行きが不透明な状況が続いていました。

 一方で、日本化学繊維協会は「供給の滞りは現時点では起きていない」としています。ポリエチレンやポリプロピレンといった汎用樹脂についても、相対的に余裕があるとみられています。

 溶剤やシンナーは不足しているのに、繊維や汎用樹脂は落ち着いている。では、なぜこのような濃淡が生じたのでしょうか。

 経済産業省は、代替調達や備蓄石油の放出によって、日本全体として必要な量は確保できていると説明しています。問題となっているのは絶対量ではなく、一部での供給の偏りや流通の目詰まりだということです。全体量は足りていても、特定の分野では必要な材料が必要なタイミングで届いていないわけです。

 この背景には2つの要因があります。1つが石油化学産業の「連産性」、もう1つが供給見通しの不透明さから生じた「不安」です。

 連産性とは、ナフサをクラッカーで分解すると、エチレン、プロピレン、ブタジエンといった複数の基礎化学品が同時に得られる性質のことです。この比率は原料の種類によってある程度決まるため、特定の製品だけを増産するといった調整は容易にできません。

 そのため、もともと国内需給がタイト基調にあった品目は、ナフサ供給が揺らぐと影響が出やすくなります。溶剤/シンナーに用いられるトルエンは、在庫を厚く持ちにくく、かつ需給がもともとタイトだった品目です。

 全体のナフサ供給量を確保できたとしても、供給の偏りから、どうしても需給がタイトな製品が生じてしまいます。

ナフサ分解工場
ナフサ分解工場[クリックで拡大] 出所:石油化学工業協会

 もう1つが、供給の不安です。

 経産省によれば、川上側から「5月以降の供給見通しが不透明」と伝わったことを受け、シンナーメーカーや卸/小売が防衛的に4月の出荷を絞り、実需とは別のところで供給不安が増幅したとされています。

 建築現場などで用いられるシンナーの流通経路は、石油化学メーカーから塗料メーカー、シンナーメーカー、販売店、現場までと、複層的です。サプライチェーンの各段階で出荷を絞る、注文を前倒しする、在庫を抱え込むといった動きが相次いだことで、必要なところへ届きにくくなったとみられます。

 なお、日本芳香族工業会のまとめによると、中東情勢が緊迫した3月のトルエン/キシレンの国内供給は前月水準をおおむね維持していたとされています。

 輸出向けの数量を国内向けに振り替えて補った形で、実績を見る限りでは、数量面で急激な供給変動は起きていませんでした。

トルエンやキシレンの国内供給
トルエンやキシレンの国内供給[クリックで拡大] 出所:日本芳香族工業協会資料より著者が作成

 こうした供給の乱れは、在庫構造や流通の複雑さによって、影響の出方が異なります。

 合成ゴムは、原料のブタジエンが逼迫(ひっぱく)しているにもかかわらず、供給を安定的に保てています。効果を発揮したのが在庫です。

 日本ゼオンは、非常時に備えて確保していた在庫を活用することで、稼働率を抑えながら供給を継続しています。加えて需要先のタイヤ業界でも原料在庫を比較的多めに持つ企業が多く、大きな混乱は起きていません。

 また、ポリエチレンやポリプロピレンといった汎用樹脂が比較的余裕を保てているのは、在庫の積み増しが進んでいたことや、輸出向けを国内向けに振り替えられる余地があったことによります。

 対して溶剤やシンナーは、危険物という性格上、現場で過剰在庫を積みにくく、商流も複層にわたります。突発的な供給不安が出た際に、現場まで影響が届きやすい構造だったとみられます。

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