テスラにおけるギガキャストの基本的な考え方と方向性【前編】:いまさら聞けないギガキャスト入門(6)(2/5 ページ)
自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第6回からは前後編に分けて、テスラのギガキャストに関する基本的な考え方とその方向性について見てみる。
2.注目すべき3つのキーワード「HPDC」「CAPEX」「MBH」
ここからは、注目すべき上記の3つのキーワードである、高圧ダイカスト(HPDC)、設備投資(CAPEX)、車体1台当たりの工数(MBH)について見てみる。
2.1 HPDCを採用した背景
HPDCは、溶融金属を高圧で金型に注入/射出し、一体部品を作る成形技術である。その背景の主たる考え方は、「部品を減らすことが最大の改善」という思想である。
従来の自動車ボディーは、図1に示すように、部品A、部品B、部品C、部品Dを溶接して車体構造を作っていた。大まかなプロセスは以下に挙げる(1)〜(5)で構成される。
- (1)プレス加工した鋼板
- (2)多数の補強部品
- (3)溶接接合
- (4)接着
- (5)ボルト締結
また、図2に、テスラがモデルYの前に生産していたEV「モデル3」の車体後部の組み立て工程を示す。
以下に、図2の(1)〜(8)の各工程を簡潔に説明する。
- (1)部品の準備(数十個以上の部品)
左右サイドメンバー、クロスメンバー、床部品、補強材、ブラケット類など、車体後部を構成する数十個以上のプレス部品を準備する - (2)左右サイドメンバーの取り付け
車体後部の基本骨格となる左右のサイドメンバーを治具上に配置し、組み立ての基準となる位置を決定する - (3)クロスメンバーの取り付け
左右のサイドメンバーを連結するクロスメンバーを取り付け、車体後部の寸法精度と構造剛性を確保する - (4)床部品の取り付け
トランク床や後席下部の床パネルを組み付け、車体後部の床構造を形成する - (5)補強材の取り付け
ピラー周辺やホイールハウス、サスペンション取り付け部などに補強材を追加し、衝突安全性やねじり剛性を向上させる - (6)ブラケット類/小部品の取り付け
配線や内外装部品を取り付けるためのブラケット、ステー、ナットプレートなど、多数の小部品を取り付ける - (7)結合/溶接/検査
各部品をスポット溶接や構造接着によって一体化し、寸法、強度、外観などの品質検査を実施する - (8)完成:車体後部構造
数十個以上の部品が一体化され、高剛性・高精度な車体後部構造が完成する
このように、従来工法では多数の部品を1つずつ位置決め/溶接して車体後部を構成するため、工程数、溶接点数、CAPEX、製造時間が大きくなることが特徴である。この課題を解決するため、後にテスラはギガキャストを導入し、数十個の部品を大型アルミ鋳物1点へと置き換える製造方式へ移行した。
つまり、これまでの自動車工場は「たくさんの部品を作る工場」であった。これに対してテスラのギガキャストは、「アルミ溶融⇒高圧注入⇒巨大金型⇒大型一体部品」といったように、コンピュータや半導体の製造のような単純化/統合化を目指している。
テスラは、大型ダイカスト鋳造成形機「ギガプレス」を用いて、車体後部などを大型一体成形する方式を採用した。
本連載の第1回、第3回(特に4ページ目のコラム)、第4回などで述べてきたが、HPDCとは溶融アルミを高圧で金型に射出し、短時間で成形する工法である。テスラのギガプレスでは、FSA(Foundry Star Alliance)のCostamp Group(コスタンプグループ)がこの技術を担う。なお、自動車の大型構造部品に適用するには、極めて大きな射出力と金型剛性が必要である。そして、テスラが導入した6000〜9000トン級のHPDCは、この用途に特化した世界最大級の鋳造機であった。
ここで重要なのは、なぜ部品点数について「70点⇒1点」が可能になるのか、ということである。
繰り返しになるが、70点の部品を用いていたときには以下の工程が必要であった。
- プレス成形
- 切断/穴あけ
- 溶接/接着
- 寸法補正
- ロボットによる搬送/組み立て
これらをギガプレスを用いて「1回の鋳造で置き換える」ことによって、以下のような効果が生まれた。
- 工程数が激減
- 溶接点がゼロ
- 300台ものロボット台数の削減
- CAPEXの減少
- MBHの改善
中でもマスク氏が重視したのが「CAPEX」と「MBH」である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

