折れる前に曲がる――テーブル脚の座屈という見落とし:CAEで逆引きするトラブル診断の思考法(3)(3/3 ページ)
連載「CAEで逆引きするトラブル診断の思考法」では、身近な製品トラブルを起点に、「なぜ壊れたのか」を逆算して読み解くCAEの思考プロセスを解説する。第3回では、テーブル脚の座屈を題材に、強度計算だけでは見落としやすい「安定性」の問題を考える。
断面形状で座屈耐性は数倍変わる
最後に、設計上最も効果のあるポイントに触れておきたい。座屈耐性を決める断面2次モーメント(I)は、同じ断面積でも形状によって大きく変わる。材料の断面を外側に配置する方が、Iの値は大きくなるからだ。
試しに、同じ断面積(=同じ材料の量、同じ重さ)で3つの断面を比べてみる(図4)。
中実の丸棒を基準にすると、図4の例では、同じ量の材料を中空の管にするだけで座屈耐性はおよそ4.6倍、角管にすればおよそ5倍に跳ね上がる。板厚や材料を増やさなくても、断面の形を変えるだけで座屈にこれだけ強くなるのだ。
ただし、軽量化のために外径を小さくしたり、板厚を安易に薄くしたりすると、断面2次モーメントが大きく低下し、座屈耐性が大きく落ちることがある。重要なのは「中実か、中空か」そのものではなく、材料をどれだけ外側に配置できているか、そして断面2次モーメントを確保できているかである。
勘との対比:「強度OK」は「座屈OK」ではない
「強度は足りているはず」という現場の勘は、材料が降伏しないか、圧壊するかどうかを問う限りにおいては正しい。家具の脚が仕様荷重で自ら潰れることは、まずない。長年の設計実務に裏打ちされた合理的な感覚だ。
しかし、CAEの視点で見ると、2つの見落としがある。
1つ目は評価対象としての「限界」が異なるということだ。強度計算が見ているのは、「材料が永久変形をするか」や「材料が破断しないか」などだが、座屈が問うのは、「真っすぐな状態を保てる荷重」だ。細長い部材では、その限界が非常に小さい。「強度OK」と「座屈OK」は、全く異なる合否判定基準なのだ。
2つ目は、「応力コンター」への過信だ。前回まで主役だった応力コンター図だが、それだけでは、座屈の安全性を判断するのが難しい。低応力の部材が座屈することもある以上、「赤くないから安全」とは到底言えない。座屈を見るには、座屈固有値解析で、固有値とモード形状を求めるという、別の手続きが必要となる。
勘は「脚は大丈夫か?」という問いを立ててくれる。CAEはその問いに対して、強度の視点だけではなく、「今の荷重の何倍で、どんな形で崩れるか」という固有の答えを返してくれる。両者は補い合う関係である。
※なお、一般的な線形座屈解析で得られるのは、座屈固有値とそのモード形状である。徐々に荷重を増やして、座屈が始まり、さらに変形が大きく進んでいく様子を見たり、飛び移り座屈のような現象を確認したりする場合には、非線形解析の実施が必要になる。
まとめ:「強度の物差し」だけで測らない
今回のテーブルの脚の座屈から得られる教訓を整理する。
第1に、座屈は強度だけではなく安定性の問題だ。材料に余力があっても、細長い部材はある大きさの荷重で、軸と直交する方向に大きくたわむ。理想化された柱では、ある荷重を境に急に横方向へたわむ。実際の構造物では、初期たわみや荷重の偏心により、座屈前から横たわみが徐々に増えることもあるが、いずれにしても、「折れる前に曲がる」を前提に置くことが出発点になる。
第2に、細長比という別の物差しを持つこと。σcr=π2E/λ2が示すように、ある細長比を超えれば座屈が破損を支配する。強度計算を通っても、細長比のチェックは欠かせない。
第3に、断面形状が効くこと。同じ重さでも、中空化や断面の取り方で座屈耐性は数倍変わることがある。板厚を足すよりも、形を変える方が効くことも多い。
カタログの耐荷重や静的な強度計算だけでは見えない「安定性の限界」を、CAEは座屈固有値解析で可視化してくれる。まずは、座屈という現象を頭の片隅に置き、細長い圧縮部材を見たら固有値解析を一度走らせてみる。そこから始めてみてはどうだろうか。
次回は、自転車フレーム破断を取り上げる。「転倒の衝撃で折れた」と思われた破断が、実は通常走行の繰り返しによる疲労亀裂だった――溶接部の応力集中と、累積する荷重のストーリーを追う。 (次回へ続く)
【ポイント】現場ではこう疑う――「テーブル」編
細く長い脚、軽量化で外形寸法を変えずに薄肉化した脚を見たら、強度計算だけで安心しない。細長比λ=Le/rを概算し、オイラー座屈荷重と設計荷重を比較する。CAEでは応力コンターに頼らず、座屈固有値解析で、最小固有値(=座屈安全率の目安)と1次モードを確認するのが座屈解析の最低ラインだ。
参考文献/参考資料:
- [1]リコール情報(家具/住宅用品)|経済産業省
- [2]製品事故情報/リコール情報|NITE(製品評価技術基盤機構)
- [3]リコール情報サイト|消費者庁
- [4]S. P. Timoshenko, J. M. Gere『Theory of Elastic Stability』McGraw-Hill(座屈理論の古典)
- [5]日本機械学会編『機械工学便覧』(座屈・弾性安定の章)
Profile
水野 操(みずの みさお)
1967年生まれ。mfabrica合同会社 社長。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。3D-GAN理事。外資系大手PLMベンダーやコンサルティングファームにて3次元CADやCAE、エンタープライズPDMの導入に携わった他、プロダクトマーケティングやビジネスデベロップメントに従事。2004年11月にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、オリジナルブランドの製品を展開。2016年に新たにmfabrica合同会社を設立し、3D CADやCAE、3Dプリンタ関連事業、製品開発、新規事業支援のサービスを積極的に推進している。著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)などがある。
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