検索
連載

世界最高の織機「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」はいかにして完成したのかトヨタ自動車におけるクルマづくりの変革(13)(3/6 ページ)

トヨタ自動車がクルマづくりにどのような変革をもたらしてきたかを創業期からたどる本連載。第13回は、1924年(大正13年)に完成し、1925年(大正14年)に本格量産を開始した「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」の技術詳細について解説する。「世界最高の織機」はいかにして完成し、どのような革命を起こしたのだろうか。

Share
Tweet
LINE
Hatena

(2)たて糸切断自動停止装置

 たて糸切断自動停止装置は、経(たて)糸が切れた瞬間に織機を停止して欠陥布を防止し、安全性を向上するためのものだ。

 たて糸切れを検出する最初の発明は、連載第7回の図12に示した1903年(明治36年)の「ヘルド(綜絖)探知機械式糸切断自動停止装置」(特許第6787号)である。これは、たて糸が切れると、たて糸の開口に用いる糸製のヘルド(綜絖)の下端に吊り下げられた金属製の細長い重鐶(じゅうかん)が落下することにより、揺動する探知プレートの動きが妨げられて停止機構が働き、織機が自動的に停止するものであった。

 1908年(明治41年)には、連載第8回の図15に示したように、たて糸を開く部品(金属製ヘルド)を使って電気信号で糸切れを検出し織機を止める装置、つまり電気式で織機を停止させる「ヘルド探知電気式経糸切断自動停止装置」(特許15009号)を発明した。当時まだ電気利用が十分に普及していなかった時代において、佐吉の先進的な着想を示すものである。

 1910年(明治43年)には、連載第9回の図11に示した「ヘルド探知機械式(改良型)たて糸切断自動停止装置」(特許第18663号)を発明した。この装置では、たて糸が切れると薄い金属製のヘルドが落下し、このヘルドの落下を機械的に探知して織機が停止する。探知プレートをヘルド枠ごとに設けることにより作動が安定した。

 1924年(大正13年)には、ドロッパ(薄い金属製のヘルド)を使った「ドロッパ探知機械式たて糸切断自動停止装置」を特許申請し、特許64513(67066)号を取得した。こちらは連載第11回の図8で解説した通りだ。

 無停止杼換式豊田自動織機(G型)に用いられたたて糸切断停止装置は、1925年(大正14年)3月14日に出願し、1927年(昭和2年)9月に特許取得し、公告された特許第73218号によるもので、その構造は図4(a)に示す通りだ。同図中のオシレーティングバー(3)は、(4)に装着したカムタペットシャフト(5)により揺動するレバー(9)およびバネ(10)の力により(9)と一体に動くように係合されているロッド(8)に連結している。

図4
図4 たて糸切断自動停止装置(特許第73318号)[クリックで拡大] 出所:四十年史 豊田自動織機製作所、トヨタ産業技術記念館

 たて糸が切断せず、ドロッパ(1)(1’)(2)(2’)が落下しないときは、オシレーティングバーはノッチバー(16)の間を、左右に自由に揺動することができる。しかし、たて糸が切れ、ドロッパが落ちると、図4(a)のように(3)が(16)まで達することができず、妨げられた力により、バネ(10)の力に抗して、レバー(9)とロッド(8)の係合が外れ、(6)(7)(8)(11)を経て、ストップロッド(12)を押し下げ、(12)の中ほどに設けられた突起(13)は、筬框(おさかまち)脚に設けられた突起(14)と衝突し、筬框の前進運動により、ハンドル(15)を押して運転を停止させる。また、右側のドロッパが落ちたときは、(12)を引き上げ、突起(13)は(14’)と衝突し、同様に運転を停止させる。

 図4(b)に、たて糸切断自動停止装置の仕組みを示す。

 その動作原理は、たて糸1本の切断を検知→ドロッパ落下→リンク機構作動→織機停止という流れで、以下のような特徴がある。

  • 無停止杼換式豊田自動織機(G型)には通常、2570本のたて糸があるが、この装置は、そのうち1本でも切れた時、織機を自動的に止める
  • この装置によって、たて糸抜けの不良が減り、織物品質が向上した
  • たて糸には、1本ごとにドロッパと呼ばれる穴の開いた薄い金属板がつり下げられている
  • たて糸が正常な時は、ドロッパは糸に支えられているが、糸が切れると支えを失って落下する
  • ドロッパが落下すると、リンク機構が働いてコンバインドレバーを引き上げ、リンク機構でストップフープを押し下げ、ガイドブラケットに引っ掛かり、連結棒を引き下げて、織機の起動ハンドルを戻し、自動的に織機の運転を止める仕組みになっている

(3)たて糸送出装置

 品質の良い織物を織るには、たて糸の張力を常に適正に保つ必要がある。たて糸送出装置は、織られた製布の量に応じて一定の張力でたて糸を送り出す装置で、力織機の運動において特に重要な役割を果たす。たて糸張力を均一に保つことは、製織能率を高め、製品の品質を向上させるために不可欠である。

 豊田佐吉は自動織機の発明を志すに当たり、この送出装置の開発に最も力を注いだ。連載第6回の図8で示した、1896年(明治29年)に特許取得したたて糸送出装置は、重鍾を利用した「重鍾式経糸送出装置」である。

 1901年(明治34年)に発明した、連載第7回の図5に示した「アンクル(歯止め)式経糸送出装置」(特許第5241号)は重鍾式経糸送出装置の改良型で、重鍾の替わりにアンクル(歯止め)という部品を利用したものであった。

 1914年(大正3年)には、連載第9回の図14に示した「ウォーム歯車式たて糸送り出し装置」(特許27006号)を発明する。テンションローラの変位をフィードバックして、ウォーム歯車を筬打ちごとに微細に回転させ、張力を一定に保ちながら、たて糸を送り出す積極的方式であるため、張力がより正確に調節され、織物品質を一段と向上させた。

 さらに、豊田喜一郎が、「無停止(ノンストップ)自動織機(G式)のたて糸送出装置」を発明した。1924年(大正13年)12月24日に出願し、1925年(大正14年)6月23日に特許68677号を取得したもので、たて糸の張力を常に一定に保つための改良型たて糸送出機構(Positive Warp Let-off Mechanism)を備えており、織りの進行に応じて正確に糸を送り出すことで、糸切れや織りムラを防止する機構を備えている。また、たて糸の張力を検出し、その張力に応じて、たて糸を送り出す量を自動的に調節する機能も有していた。

 図5に、無停止(ノンストップ)自動織機(G式)のたて糸送出装置とその動作原理を示す。

図5
図5 無停止(ノンストップ)自動織機(G式)のたて糸送出装置とその動作原理[クリックで拡大] 出所:四十年史 豊田自動織機製作所、トヨタ産業技術記念館

 図5(a)は、1901年(明治34年)10月24日に特許申請し、翌年3月7日に取得した「織機(5.経糸送出装置)」特許5241号の動作原理図である。機構図的には、連載第9回の図14(b)に示す「ウォーム歯車式たて糸送り出し装置」の動作原理図をご覧いただきたいが、図5では機構が大きく異なり、主要部品のフリクションラチェットホイールはセクタレバーから分離し、レギュレーションロッドおよびレースソードと連結している。セクタレバーの後端にバックレストが配置されている。動作原理は以下の通りだ。

  • 図5(b)に示すようにたて糸の張力が強いとき
    • セクタレバーが上がり、フリクションラチェットホイールの回転量が増える
    • その結果、たて糸の送り出し量が増え、張力が小さくなる
  • 図5(c)に示すように、たて糸張力が弱いときの挙動
    • セクタレバーとその先のコネクティングロッドが下がり、フリクションラチェットホイールの回転量が減少
    • その結果、たて糸の送り出し量が減り、張力が大きくなる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る