連載
世界最高の織機「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」はいかにして完成したのか:トヨタ自動車におけるクルマづくりの変革(13)(2/6 ページ)
トヨタ自動車がクルマづくりにどのような変革をもたらしてきたかを創業期からたどる本連載。第13回は、1924年(大正13年)に完成し、1925年(大正14年)に本格量産を開始した「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」の技術詳細について解説する。「世界最高の織機」はいかにして完成し、どのような革命を起こしたのだろうか。
4.無停止杼換式豊田自動織機(G型)の主要な装置
図2に、無停止杼換式豊田自動織機(G型)の外観と主要な装置の対応を示す。また、表2では、図2に示した主要な装置を発明年順に列挙した。
| 年代 | 主要機構の装置名(図2と対応) | 目的 | 動作の仕組みと成果 |
|---|---|---|---|
| 1903年(明治36年)頃の発明/実用化 | (1)よこ糸切断自動停止装置(Weft fork stop motion) | よこ糸切断による織物欠点(スラブ/色むら)を防止 | よこ糸が正常なら「ウェフトフォーク」が往復動で持ち上がるが、糸切れ時にはフォークが上がらず、フォーク先端がウェフトハンマとかみ合い、リンクを介して起動ハンドル(主クラッチ)を自動的に外し織機が停止。当時の英国製織機に比べ、反応が迅速で不良率を大幅に低減 ・英国ドビー式織機の弱点「停止遅れ」を克服 ・糸切れ→即停止という現在の織機の標準概念を確立 |
| 1903〜1905年頃の発明/実用化 | (2)たて糸切断自動停止装置(Warp dropper stop motion) | 数千本のたて糸のうち1本切れただけでも即停止し品質を確保 | 各たて糸に通す細片金属板「ドロッパ」が糸切れで落下→その落下をてこ式リンクが検知→起動ハンドルを強制的に戻して停止。ドロッパの落下検知精度が高く、当時の英国式の“遅れ停止”問題を解決 |
| 1902〜1924年の長期研究→1924年のG型完成 | (3)たて糸自動送出装置(Warp let-off motion) | たて糸張力を常に一定に保ち、糸切れ/布密度不良を防止 | 張力変動をテンションレバーで検出→レバーの角度をセクタギア+ラチェット機構で微量送りに変換→ビーム(たて糸巻出しドラム)の回転量を自動補正。糸質/織物密度が変わっても常時適正張力に自動調整する“自動制御”の原点 ・紡績糸の品質差、湿度変化など外乱が多く、最も難しい制御要素だった ・最終的にセクタラチェット方式で安定したフィードバック制御を実現 ・今の電子式張力制御の原型 |
| 1924年(大正13年)G型自動織機完成 | (4)杼換安全装置(Shuttle-change safety) | 空シャットル排出不良による破損/糸切れを防止 | 空シャットルが完全に排出されない場合、杼換機構の途中で機構がロックし、クラッチを戻して停止。シャットル挟み込み事故、ピッキング機構破損を防止 |
| 1924年G型 | (5)杼換誘導装置(Weft feeler & transmitting rod) | よこ糸残量を正確に検知し、適切なタイミングで杼換えを誘導 | シャットル内部のボビン糸残量をウェフトフィーラ(探子)が軽く押して検知→残量が基準以下になるとトランスミッティングロッドを介して杼換装置へ信号を伝達→次のストロークで自動杼換えを実行。高速運転で特に有効 |
| 1924年 G型の核心技術 | (6)無停止自動杼換装置(Non-stop automatic shuttle changer) | 停止せず高速運転中に自動杼換えして生産性を向上 | フィーラで糸残量を検知→空シャットル排出→補助アームが予備シャットルをピッカ側へ正確に供給→新シャットルがそのままピッキング機構に装填(そうてん)される ・人手作業を完全自動化し、世界織機技術の基準を一変させた“自動織機革命”の中心機構 ・無停止自動杼換で生産性が3〜5倍に |
| 1924年G型 | (7)不正杼入れ防止装置(Improper shuttle insertion stop motion) | 誤装填(横向きシャットル、未準備シャットル)による事故防止 | シャットルの向き/有無を機械的ゲージでチェック。異常時は機構がロックしてクラッチを遮断し停止 |
| 1924年 G型 | (8)杼停止位置安全装置(Shuttle positioning safety) | シャットル位置異常による破損(杼箱/筬の損傷)を防ぐ | シャットルが杼箱に収まらず筬(レース)との間で挟まると、セーフティレバーが異常位置を検知→クラッチを切り瞬時に停止 |
| 1924年 G型 | (9)たて糸保護装置(Warp protector motion) | シャットル停止時のたて糸切断を防止 | シャットル停止(不発)を検知すると、筬を後退させてたて糸との衝突を回避し、同時に織機を停止。高速運転時の糸切れ事故を大幅に削減 |
| 表2 豊田佐吉による無停止杼換式豊田自動織機(G型)の主要な装置の一覧表(発明年順) | |||
ここからは、図2と表2に示した9つの主要な装置の詳細を解説する。その前に、無停止杼換式豊田自動織機(G型)の動きを見てもらうため、トヨタ産業技術記念館の映像「昭和初期の織物工場を再現 ー G型自動織機の集団運転《トヨタ産業技術記念館 バーチャルガイドツアー:繊維機械館》」をご覧いただきたい。
映像「昭和初期の織物工場を再現 ー G型自動織機の集団運転《トヨタ産業技術記念館 バーチャルガイドツアー:繊維機械館》」[クリックで再生] 出所:トヨタ産業技術記念館
(1)よこ糸切断自動停止装置
図3に、よこ糸切断自動停止装置の仕組みと、「よこ糸の有無をウェフトフォークが検出→運転継続か停止を自動制御する流れ」を示す。
よこ糸切断自動停止装置の動作原理は以下の通りだ。
- 図3(a)に示すように、よこ糸が切れていない時
- よこ糸がウェフトフォークをはね上げるため、
- ウェフトフォークとウェフトハンマがかみ合わないので通常運転が続く
- 図3(b)に示すように、よこ糸が切れた時
- ウェフトフォークがはね上げられないため、
- ウェフトフォークとウェフトハンマがかみ合い、リンク機構によりフォークスピンドルが矢印方向に引かれる
- 起動ハンドルが外れて運転が止まる
また、よこ糸切断自動停止装置の特徴は以下のようになっている。
- よこ糸はたて糸の間を左右に往復して織物を構成する
- よこ糸が切れた時に織機を自動的に止めるこの装置によって、よこ糸抜けの不良が減り、織物品質が向上した
- この装置の特徴は「ウェフトフォーク」と呼ばれる小型部品にある
- 筬(おさ)打ちに際して、よこ糸が切れていない時は、よこ糸がウェフトフォークをはね上げて通常運転が続く
なお、連載第6回で紹介した通り、豊田佐吉は1896年(明治29年)に日本初の力織機である豊田式汽力織機(木鉄混製)を発明/製作した。この自動織機には、連載第6回の図9で示した「緯糸停止装置」が装備された。この1896年時点の緯糸停止装置が木製だったのに対し、図3に示したよこ糸切断自動停止装置のほとんどの部品は鉄製に置き換えられ、改良されている。
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