高平均出力、波長拡張、高繰り返し化で広がるレーザー加工の可能性:FAイベントレポート(2/2 ページ)
天田財団は、「OPIE'26」の併催イベントとして「2026年度 天田財団 助成研究成果発表会」を開催した。レーザープロセッシング分野と塑性加工分野の2分野で特別講演と助成研究成果発表が行われ、加工技術の新たな可能性が示された。本稿では、レーザープロセッシング分野の発表内容を紹介する。
加工や医療応用に、3〜4μm中赤外域レーザーの開発
助成研究成果の1つ目として、京都大学 教授の時田茂樹氏は「3〜4μm中赤外域における高出力レーザの開発」について発表した。
中赤外線とは一般に波長3〜50μm程度の電磁波を指すが、同氏らが注目するのは、その中でも3〜5μm付近の波長域だ。この波長域は、分子の種類ごとに異なる吸収特性が現れやすい「分子の指紋領域」に当たる。この性質を利用すれば、特定の分子を見分けたり、選択的にエネルギーを与えたりできるため、レーザー加工にも有用だという。
さらに、3μm付近の光は水に強く吸収されるため、水を多く含む生体組織への作用が大きく、歯科治療やレーザーメスなど医療分野での応用も期待される。また、ガラスや樹脂にも吸収されやすく、透明材料加工にも適した波長域とされる。
一方で、中赤外レーザーを得る方法には課題もある。光パラメトリック増幅器(OPA)を使えば、1μm帯のレーザーから波長変換によって中赤外光を発生できるが、変換効率が低く、レーザー加工に使える実用的な光源にはなりにくい。
これに対し、ファイバーレーザーや固体レーザーは高効率化が期待できるものの、中赤外域では材料や出力面の制約があり、実用化は十分に進んでいない。こうした背景から、時田氏らはより実用的な中赤外光源を目指して10年以上研究を進めてきた。
発表では、その一例として4μm帯の中赤外レーザー開発が紹介された。
時田氏らはまず、4μm帯でレーザー発振できる固体材料として、鉄を添加したセレン化亜鉛(Fe:ZnSe)に着目した。発振器として動作することは確認できたものの、発振器単体では出力が小さく、加工や計測などの産業用途に用いるには十分ではなかった。
そこで同氏らは、フェムト秒パルスを高出力化するための増幅システムを構築した。開発したシステムでは、OPAで4μm帯のシード光を発生させ、チャープパルス増幅によってパルス幅をいったん伸ばす。その後、Fe:ZnSe増幅器を複数回通してパルスエネルギーを高め、最後にパルスコンプレッサーで再び圧縮する構成とした。
実験では、増幅後に最大で約7mJのパルスエネルギーが得られ、圧縮後も約5mJを確保した。パルス幅は約240fsで、ピークパワーは約20GWに達する。1パス当たりのゲインが大きいことも特徴で、パルスエネルギーの安定性やビーム品質も良好だったという。
時田氏は「現時点では繰り返し周波数が5Hzにとどまるが、今後kHz級まで高繰り返し化できれば、加工用光源としてもかなり期待できる」と述べ、ピークパワーについても、現在の約20GWから1TW級まで高める考えを示した。
Yb-Mg添加ファイバーで高繰り返し超短パルス発振へ
助成研究成果の2つ目として、千葉工業大学 准教授の小山勇也氏が「Yb-Mg添加ファイバによる超短パルスファイバレーザーの開発」について発表した。
超短パルスレーザーとは、ピコ秒やフェムト秒といった極めて短い時間幅のパルス光を発生するレーザーである。熱影響を抑えた微細加工のほか、バイオイメージングや光周波数コム光源など、幅広い分野での利用が期待されている。
こうした加工や計測の速度を高めるには、繰り返し周波数を高めることが重要になる。そこで小山氏らは、高効率でビーム品質がよく、メンテナンスフリー性にも優れる光ファイバーレーザーに注目した。中でもYb(イッテルビウム)系の光ファイバーレーザーは、励起光と発振光のエネルギー差が小さく、熱として失われるエネルギーを抑えやすいため、高効率動作に適している。母材にシリカガラスを用いれば、低損失で、熱的・機械的信頼性にも優れる。
ただし、高繰り返し化には課題もある。ファイバーレーザーの繰り返し周波数を高めるには共振器を短くする必要があり、媒質となるファイバーも短くなる。十分な利得を得るにはYbを高濃度に添加しなければならないが、高濃度化すると、励起光の照射によってファイバー内部に余分な吸収損失が生じる「フォトダークニング」が起きやすくなる。小山氏らは、このフォトダークニングを抑制するため、YbにMg(マグネシウム)を共添加したシリカガラスファイバーに着目した。
実験は、パルスレーザー発振実験と連続波モードロック(Continuous-wave mode locking:CML)発振実験の2段階で行われた。
まずパルスレーザー発振実験では、Yb-Mg添加ファイバーを約10cmに切り出し、ニッケルおよびジルコニア製のフェルール内に収めて直線形状を保った上で、短尺のファブリーペロー型共振器を作製した。ファイバー端面を研磨し、一方に出力ミラー、もう一方に半導体可飽和吸収ミラー(SESAM)を配置して、両端面からファイバーを接触、維持する構成とした。その結果、超短パルス列が周期的にまとまって発生する受動Qスイッチモードロック動作を確認した。
続くCML発振実験では、受動Qスイッチモードロック動作からCML動作へ移行させるため、共振器内パワーの向上や温度制御に取り組んだ。具体的には、出力ミラーの反射率やモードフィールド径を最適化し、ファイバーの冷却構成も見直した。その結果、安定したCWモードロック動作を実現したという。
小山氏は「基本繰り返し周波数は1GHzで、高調波が発生していることも確認した。今後はファイバーをさらに短くして高繰り返し化することで、次世代のパルスファイバーレーザー光源の基盤技術として期待できると考えている」と述べた。
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