「専門性」は重要だが、深めるほど“必要とされるモノづくり”を難しくする!?:必要とされるモノづくりの追求(4)(2/2 ページ)
連載「必要とされるモノづくりの追求」では、研究開発と実際の現場/ユーザーとの間に生じるギャップを整理しながら、技術の価値をどこに置くべきかを問い直し、必要とされるモノづくりの在り方を考察する。第4回は、現在の研究教育における専門性重視の構造と、“必要とされるモノづくり”との関係について考える。
現場の課題は「正解が分からない」から始まる
現在の教育では、一つの既知の正解を前提として課題を解決する方法を学ぶ場面が多くあります。しかし、これまで述べてきたように、現場の課題は「正解が分からない」ことが前提となります。そのため、何が問題なのかも明確ではない状態から課題に向き合わなければいけません。
正解が存在する課題に取り組む経験を中心に学んできた人にとって、社会に出た途端、前提条件が大きく変わることになります。本質的な課題を見抜き、何を解決すべきなのかを考えながら、答えが分からないまま解決方法を模索し続けていかなければなりません。
しかし、これらは訓練なしに突然できるようになるものではありません。“必要とされるモノづくり”においては、この「何が本当の問題なのか」を見極める作業こそが、最も難しく、最も重要な部分になります。
本当に必要なモノづくりは「問題設定」から始まる
研究開発では、新規性や技術力が重視されます。もちろん、それらは非常に重要です。しかし、“必要とされるモノづくり”という観点では、その前段階となる問題設定が非常に大切になります。
どれだけ優れた技術であっても、解くべき問題が違えば、出来上がる成果も変わります。そして、それがニーズと合致していなければ、社会では使われません。逆に、一見シンプルな技術であっても、本質的な課題を捉えていれば社会へ広がる可能性があります。
筆者は学生たちに、「研究課題の設定」は時間をかけてでもしっかりと考えてもらうようにしています。ここがぶれてしまうと、何を研究するのかが分からなくなってしまうからです。これからの研究教育では、専門性を深めることに加え、本質的な課題設定能力や、多様な立場の人々と協働しながら課題を発見する力も、同時に育てていく必要があると考えています。
では、実際に、どのような教育が必要なのでしょうか。次回は、われわれが実践している、専門分野にとらわれない教育の取り組みを紹介したいと思います。
- 現場へ行くこと
- 異分野と交流すること
- 企業や社会と接点を持つこと
こうした経験を通じて初めて、多角的視点や課題設定能力は育まれていくのではないでしょうか。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
伊丹 琢(いたみ たく)
明治大学理工学部電気電子生命学科 専任講師
スマートメカトロニクス研究室(伊丹研究室)主宰
1992年生まれ。2020年に博士号(工学、三重大学大学院工学研究科)を取得。2020年4月から2024年3月まで青山学院大学理工学部で助教を務め、2024年4月から明治大学理工学部電気電子生命学科に着任し、スマートメカトロニクス研究室(伊丹研究室)を主宰する。2022年4月から岐阜大学大学院医学系研究科博士課程(社会人・リハビリテーション学)に在籍。医療・福祉デバイスを中心とした、「現場で本当に必要とされる技術」を志向した研究開発に取り組む。
また、若者たちが輝ける未来社会を実現することを重要な使命と捉え、教育・社会連携活動にも積極的に取り組む。地方自治体や企業と連携した「学生未来プロジェクト」や「未来イノベーションプロジェクト」を立ち上げ、学生が実社会の課題に向き合いながら、研究開発・実証・発信までを経験できる教育研究プロジェクトを多数推進。企業・医療機関との共同研究、展示会への出展、地域社会との連携活動などを通じて、研究成果を社会に開く実践的な場づくりを行う。
⇒ スマートメカトロニクス研究室|伊丹琢|明治大学|神奈川県
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